YouTubeがハラスメントにメスを入れた理由、言論の自由との狭間で苦悶も最終決断は禁止・排除
米グーグル傘下の米ユーチューブは昨年12月、動画共有サービスにおけるハラスメントのポリシーを見直すことを明らかにした。
ハラスメントの定義を拡大
今後は、人種や性別、性的指向に基づき、他人を中傷するコンテンツを一切禁じる方針だ。個人や公人を問わず、すべての人に対する攻撃を対象にし、違反した動画やコメントは削除するという。
ユーチューブはこれまでも他人を明示的に脅したり、個人の私生活に関する情報を暴露したり、嫌がらせを助長したりするコンテンツを禁止してきた。今後はハラスメントの定義を広げ、これら直接的に攻撃するものに加え、脅迫の暗示や婉曲的な威嚇などの言動も禁止するという。
例えば、個人に向けた暴力を連想させるものや、身体的暴力が起きることを示唆する発言などがこれに当たると説明している。
たとえ個々の動画やコメントが違反の範疇に入らなくても、複数のコンテンツを通じて一定のハラスメント言動のパターンがあれば、それも違反行為と見なす。これら違反者には、動画投稿者とユーチューブで広告収入を分配する「ユーチューブ・パートナー・プログラム」の資格を停止し、収益機会を剥奪するとしている。
「YouTubeは有害サービス」と批判の声
米ニューヨーク・タイムズによると、これまで「YouTube」を巡っては、悪質なコンテンツがまん延するなど、消費者にとって有害だと非難されてきた。
こうした批判を受け、同社はここ数年、さまざまな対策を取ってきた。例えば、昨年6月にはヘイトスピーチのポリシーを見直した。
これは「年齢、性別、人種、カースト、宗教、性的指向、兵役経験などに基づき、差別、隔離、排除することを正当化し、特定の集団が優れていると主張する動画を断固として禁ずる」というもの。
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)や2012年に米コネチカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件のような、すでに十分に立証されている暴力的な事件の存在を否定する動画も禁止した。
昨年8月には、香港の抗議デモに関連する組織的な違反行為があったとして、210のチャンネルを削除した。
同9月には、違法に子どものデータを集めたとして、米当局が同社と親会社のグーグルに対し、1億7000万ドル(約185億円)の制裁金を科した。これを受け、新ルールを導入することを明らかにした。また、2018年には不適切動画排除の取り組みを強化するとして、より厳格な基準を設けると発表した。
言論の自由とハラスメント
ただ、同社は言論の自由を尊重する姿勢を貫いており、「見識のある批判・批評や異なる意見を活発にしたい」とも考えている。
スーザン・ウォシッキー最高経営責任者(CEO)は昨年8月、動画クリエーター宛の書簡で、開かれたプラットフォームを維持する考えを表明。規制を受けないプラットフォームを目指していると説明した。
今回のポリシーの見直しは、こうした考えのもと、昨年4月から検討されていたという。個人に対するハラスメント行為の横行は、人々に恐れを抱かせ、活発な議論を阻害する。言論の自由と一線を画す必要があるとの結論に至ったという。
- (参考・関連記事)「ユーチューブはどんな違反を犯したのか (小久保重信) -Yahoo!ニュース個人」
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- (このコラムは「JBpress」2019年12月13日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)