北欧の矛盾:幸福の陰で闘う先住民の現実 「土地を奪う」制度的傲慢さ
幸福度が高い国、育児がしやすい国、母親にとって住みやすい国、ウェルビーイングな国など、世界的調査で上位常連国となっている北欧。
しかし、このような世界的調査の数値というのは、マジョリティである白人の暮らしを反映したもので、移民や先住民などのマイノリティが現地で感じるリアルとはかけ離れていることもある。
ノルウェーで開催される多様性を考える「北欧ダイバーシファイ・サミット」は、北欧で開催される数多くのイベントの中でも異質な存在だ。北欧諸国でマイノリティの苦しみや抑圧を体験してきた人々が集い、本当の多様性やDEI(多様性・公平性・包括性)にいかに近づくことができるかを話し合う。
ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアに住む先住民サーミをまとめるサーミ理事会のÁslat Holmbergさんは、今も続く「土地の権利闘争」について語った。
北欧の先住民と政府間の「土地の権利闘争」
もしサーミの土地が4か国によって分断されていなかったら、サーミの土地は欧州最大の国であっただろうとHolmbergさんは話した。
「北欧諸国は、国家の歴史における成功例とみなされている。彼らは法の支配と政治的自由、自由で公正な選挙によって、安定した民主主義社会を築くことに成功した」と皮肉を言い、各国がサーミ人に対してとる強硬な法の支配に触れた。
北欧各国では、サーミ人のだれが「サーミの民主主義に参加できるか」「だれがサーミ人で」「どこがサーミの土地」なのかを決めるのは、各国のサーミ議会ではなく、サーミ人にとって植民者であるスウェーデン、フィンランド、ノルウェーの裁判所である。
グリーンシフトという気候対策の名の下で、鉱物や土地を巡って対立が続いている。ロシアでは多くのサーミや先住民族の活動家は国を離れ、亡命生活を送っている。
トナカイ放牧と同じくらい漁業もサーミ人にとっては伝統的な生業だが、生態系崩壊や気候危機によって野生サーモンは減少している。さらにノルウェーの養殖サーモンは野生の魚の生態系を崩壊させている。人間活動の行いが原因で魚が減ると、政府が一時的な漁獲の禁止を命じたり、サーミ人の土地の川を閉鎖しようとする。
「先住民の権利を保護しないグリーンシフトは、『無限の成長』という到達不可能なものに到達しようとする植民地化の継続にほかならない。植民地的傲慢さなのだろうか。川は、いつでも好きなように奪っていい川ではない」
西洋の植民地主義と構造的な傲慢さ
「国際法における先住民族の権利は過去数十年の間に大きく発展しました。国際法では、先住民族は民族であるとみなされ、伝統的に占領されてきた領土に対する権利を有すると定められています」
「しかし、この進展は北欧諸国の法律にはあまり影響を及ぼしていません。サーミ先住民の権利の状況を改善するよう、様々な人権団体から継続的に注意喚起されているにもかかわらず、北欧の国々はすべて私たちの権利を侵害し続けています」
「民主主義が少数派や疎外された人々にも機能するためには、多数派の専制に対する安全装置が必要だ」とHolmbergさんは訴えた。
「土地を奪ってもいい」その制度的な傲慢さは何なのか
最後に、Holmbergさんは「悪者のロシア」がウクライナに対して行っていることは「戦争」だと認識するのに、パレスチナやレバノンで起きていることは「戦争」だと理解するのに苦労する西洋を批判した。
「パレスチナとレバノンの状況は明らかに異なるものですが、私が気になるのは、『自分たちには他人の土地を奪う権利がある』という、この制度的傲慢さに他なりません」
執筆後記
北欧が抱える矛盾を誰よりも経験を持ってはっきりと指摘できるのは現地の先住民だろう。その言葉は鋭く明確で、声には怒りの感情が静かに込められている。
「制度的な傲慢さ」「構造的な傲慢さ」はあまりよく聞く表現ではないかもしれないが、同じような傲慢さは日本社会にも隠れている。
幸福度が高い国、ジェンダー平等格差が大きく改善されている国などの「称号」を持つ北欧だが、先住民や移民女性などのマイノリティに属する人々は、まったく異なる体験をしている。しかし、北欧でそれを指摘すると現地のマジョリティに「否定」されやすい。「あなたの勘違いではないか」「ここは良い人たちが統制する良い国だ」と。
「世界調査にはマイノリティは反映されていない」ということを、誰もがもっと強く認識したほうがいいと、先住民の言葉は筆者にそのことをいつも思い起こさせる。