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「政府債務残高対GDP比が下がるから問題ない」というぬか喜び

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
実績値は上昇(出典:内閣府「中長期の経済財政に関する試算(2024年7月)」)

7月29日に、内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)の改訂版が公表された。中長期試算は、毎年1月頃と7月頃に年2回出されている。

そこでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が黒字になるという試算結果が示されたことで話題になった。

国と地方の基礎的財政収支、税収増で「2025年度に黒字化」と政府試算…実現すれば34年ぶり(読売新聞)

なぜ基礎的財政収支を黒字にしなければならないか。それは、政府債務残高対GDP比を引き下げるためである。

いまや、国と地方に加えて社会保障基金も含めると、政府債務残高対GDP比は、260%近くに達する。戦争をしていない国でこれほどの規模に達しているのは、歴史的にみても人類史上例がない。

本稿冒頭に掲げた図は、そのうち国と地方の部分だけの残高(公債等残高)でみても、210%に達している。この比率を引き下げるためには、基礎的財政収支を黒字にし、黒字分で分子の政府債務残高を減らし、加えて経済成長によってGDPが増えて分母も増えるということが考えられる。

ただ、基礎的財政収支を黒字にするには、歳出を抑制したり税収を確保しなければならない。

特に、歳出を抑制すべきでないと考える人たちからは、基礎的財政収支を黒字にする必要はなく、GDPが大きく増えさえすれば、公債等残高対GDP比は下がってゆくから問題ない、という主張が出ている。

本当に、公債等残高対GDP比は下がっているのだろうか。本稿冒頭に掲げた図をみれば、

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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