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石原伸晃内閣官房参与が辞任するに至った雇用調整助成金受給、合法なのに問題になる理由は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
石原伸晃前衆議院議員(写真:Motoo Naka/アフロ)

 自民党の複数の政党支部が雇用調整助成金を申請して受給していた問題は、石原伸晃内閣官房参与が同職を辞任大岡環境副大臣の支部は当該金額を返金という決着になりました。石原伸晃前内閣官房参与と大岡環境副大臣が受給の申請をしたとされる雇用調整助成金ですが、そもそもなぜ雇用調整助成金を政党支部が申請してはいけないのでしょうか。確かに政党支部では秘書を雇用するなど、実態として外形上の雇用調整助成金の受給要件を満たしていましたし、合法的な手続きにもかかわらず、なぜこのような問題になってしまったのでしょうか。

受給資格は満たしていたが、そもそも助成金の趣旨と異なる

 雇用調整助成金(正確には雇用調整助成金のうち、「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」)の仕組みは、コロナの影響を受けて1ヶ月あたり5%以上売上が下がった企業や団体が、人件費を削減するために人をクビにしないよう、すなわち解雇処分をしないために雇用維持を図るための費用として国がお金を支給するというものです。言い換えれば、この雇用調整助成金は、コロナ禍を乗り越えるために企業や団体に対して雇用維持を条件に「損失の部分補填」を行う性質の助成金です。

厚生労働省ホームページ「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」より引用
厚生労働省ホームページ「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」より引用

 このうち石原伸晃前内閣官房参与は申請した支部の収支報告書によれば、確かに要件として1ヶ月あたり5%の収入減ということを満たしていましたが、一方で、その受給申請を行った2020年と、コロナ禍ではなかったその前年である2019年とを比較すると、年間トータルとしての収入は2020年の方が上回っています。コロナ禍において緊急事態宣言が出るなど、政治資金パーティーが開催できない、もしくは延期するといったことは石原前内閣官房参与だけでなく国会議員の多くに起きた問題でしたが、結果的にそういった費用の埋め合わせとして雇用調整助成金を使ったということであれば、国民の批判は免れないでしょう。

 そもそも雇用調整助成金の受給申請の基準として、「売上高(の減少)」や「生産量(の減少)」という言葉が出てきますが、当然ですが政党支部というのは営利団体ではなく、売上や生産を目的とする団体ではありません。もちろん、政治団体そのものに支出がある以上収入があることは否定する必要はなく、現に直接の寄附(政治献金)ですとか、政治資金パーティーの開催による寄附は受けることができます。

 一方で、そういった寄附がコロナによって得られなかったことによって、雇用調整助成金を受け取るということ、これは言い換えれば、寄附が少なかった分を雇用調整助成金という税金が原資のお金を受け取って、その補填に充てるということが許されるかどうかという議論になるはずです。そもそも寄附が少なかったのはコロナ禍において国民全体が厳しい経済情勢にある中である種当然のことであり、その補填を税金によって行うというのは、国民と共に苦難を乗り越えるという国会議員のあるべき姿とは大きく異なるのではないのでしょうか。

 また、雇用調整助成金のうちコロナに関連する部分の枠は、コロナ禍における雇用を守るために今回作られたものであり、当然この財源も含めて予算審議等で国会で議論されたものです。当時石原伸晃氏は衆議院議員でしたから、この雇用調整助成金の枠設置、その予算措置の趣旨がわかっていた上で、こういった申請をしたのであれば、やはり道義的な責任を問われるのは当然でしょう。

 さらに、民間企業がコロナ禍において営業できなかったり生産を止めたりせざるを得なかったのが不可抗力だとするならば、寄附の時期についてはある意味恣意的に時期をずらすことができるという点でも、問題だと指摘せざるを得ません。例えるならば、町のお弁当屋さんが「今月は昨年比売上を5%下げたいから今買わないで来月来て」とお客さんに言うことはできないですが、寄附であれば「今月は昨年比売上を5%下げたいから今月末ではなく来月頭に入金して」ということは可能だという点です。

 実際に石原氏の場合には政治資金パーティーである政経セミナーを2019年には4月に開催していたものを、2020年には12月に開催しています。年単位でみれば収入は上がっていますが、当然開催月が前年からずれた4月は売上が下がりますから、見かけ上は売上高の減少でしょうし、それによって受給申請の要件は満たします。この見かけ上の売上高の減少で申請して良いのかという問題は、倫理的な問題を超えてもはや権利の濫用とも言えるでしょう。

立法府の人間が自ら法改正をして対応すべき

衆議院の予算委員会が開かれる第一委員室
衆議院の予算委員会が開かれる第一委員室写真:w_p_o/イメージマート

 内閣官房参与であった石原伸晃氏は、この雇用調整助成金の問題で就任からわずか7日間で辞任するに至りました。また、大岡環境副大臣に関しても、雇用調整助成金の返還をすることが先ほど発表されました。

 予算委員会等の国会審議で答弁義務がないとされる内閣官房参与と違い、政務三役(大臣、副大臣、政務官)の一つである副大臣のポストにある者は、答弁義務があるとされています。従って、この臨時国会で政治とカネの問題にフォーカスがあたる事態、例えば「100万円の文書通信交通滞在費の問題」に焦点があたるような国会運営となれば、大岡環境副大臣が予算委員会で野党から追及されて答弁を求められる可能性が高く、当然与党にとっては厳しい国会運営になることが予想されます。そもそも「100万円の文書通信交通滞在費の問題」についても、その使途公開の有無を巡って与野党で調整がつかず、現時点で法案審議の目処も立っていません。政治とカネの問題をここで顕在化すれば、岸田内閣は出だしから躓くことになりますから、結果として早期の幕引きを図るための石原内閣官房参与の辞任と、大岡環境副大臣の返金ということになったとみられます。

 繰り返しになりますが、政党支部や国会議員事務所とはいえ、そこに雇用されている人間がいる以上、その雇用をこうした不況下で守らなければならないという考え方自体を否定するものではありません。ただ、雇用調整助成金という性質上、この原資は税金なわけですから、この税金をいかに有効活用していくかということを考える国会議員か、まず自らの事務所を守るために使ったということを、道義的に説明できないのであれば、返還するなり返金するなりといった、対応が望まれるのは当然のことでしょう。

 また、本質的に政党支部や政治団体がこの雇用調整助成金を受給できないようにすべきだという議論もあります。国会議員の中でも、今回の石原氏や大岡氏の受給申請について驚く声がありました。実際にコロナ第一波が襲ってきた2020年春には、私のところにもこの助成金の申請の可能性について相談をされた国会議員の方も複数いましたが、やはり皆、この助成金の性質を理解して、「現行法上申請することはできるが、申請するのはやめておこう」として、借入金などで対応されました。仮に政党支部や政治団体での受給は制度上そぐわない、という意見で国会議員が一致するのであれば、そもそも政党や政治団体がこの雇用調整助成金を支給できないようにする法改正をすることができるのも、また立法府たる国会議員に課せられた役目なのですから、短い臨時国会とはいえ、そういった議論を国会の審議の場できちんとするべきではないでしょうか。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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