事象の地平面も特異点もない!?ブラックホール新説を解説
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「物理学の常識を覆すブラックホールの新説が登場」というテーマで動画をお送りしていきます。
2020年7月、理化学研究所が、これが本当に正しければ現代物理学の常識を大きく覆すほどの大発見となるような、ブラックホールにまつわる新説を発表しました。
●従来のブラックホールの構造
ブラックホールは、太陽の30倍以上重い星が一生を終える際に、星の核が自らの重力で押しつぶされて、さらに重力に反発する力が存在しなくなってしまい、永遠に1点に向かって圧縮し続ける天体です。
全ての質量が集中する場所は「特異点」と呼ばれますが、実際に特異点を含め、その周囲を誰かが確認することはできません。
なぜなら特異点の周囲では想像を絶するほど重力が強くなっていると考えられているからです。
重力が強いほどその場所から脱出するために速い速度が必要になります。
例えば地球程度の重力でも秒速11km程度のとても速い速度が必要です。
ですがある程度ブラックホールの特異点に近づくと重力が強すぎるために、脱出速度が物質の速度の上限である秒速30万kmの光速すらも超えてしまっています。
重力が強すぎて脱出速度が光速と等しくなる領域は、「事象の地平面」と呼ばれています。
その領域以内ではあまりに重力が強すぎるために、あらゆる物質も、光も、情報も、そこから出てくることはないと考えられてます。
一度入ったら最後、完全に一方通行の世界で、光さえ抜け出すことができないので、外の世界から見ると真っ黒に見えます。
●シュワルツシルト半径
ブラックホールの構造のうち事象の地平面は、中心の特異点から離れ、脱出速度が光速と等しくなる球面でした。
どんな質量を持つ物質でも、圧縮すれば質量が変わらないまま中心からの距離が近くなっていくので、表面の重力が強くなり、脱出するために必要な速度も上昇していきます。
なので逆に言うとどんな質量を持つ物質も、光速でも脱出できなくなるほど表面重力が強くなる極限まで圧縮すれば、事象の地平面ができ、ブラックホールになってしまうということです。
どれくらい圧縮すれば光速でも脱出できなくなるかは、元の物体の質量によって変わってきます。
例えば地球程度の質量なら、半径わずか9mmという球体まで圧縮して初めて光でも脱出できなくなり、ブラックホールになります。
「ある物質をここまで圧縮すると光でも脱出できなくなるほど表面重力が強くなり、ブラックホールになってしまうような球状の領域の半径」は、「シュワルツシルト半径」といいます。
物質を極限に圧縮してブラックホールを作るとき、出来上がったブラックホールのシュワルツシルト半径は、その物質の質量で決まります。
地球の質量なら半径約9mmの球状領域内まで圧縮しないとブラックホールにならないので、シュワルツシルト半径は約9mm。
太陽の質量ならシュワルツシルト半径は約3kmです。
「あらゆる物質がその質量に応じたシュワルツシルト半径を持っており、それ以内までその物質を圧縮すると、脱出速度が光速と等しくなる事象の地平面が形成され、ブラックホールとなる」と理解していただけると幸いです。
●新しいブラックホールの捉え方とは?
では本題の新説に入っていきましょう。
なんと新説では、先述の事象の地平面も特異点も存在しません!
これらは現代の物理学では扱えない極端すぎる事象ですが、これらを避けているという意味ではより現実的と言えます。
新説を理解するには、ブラックホールが蒸発している事実を知る必要があります。
ブラックホールは一方通行の世界で、物質を取り込めば質量を増加させていく一方なのですが、実は少しずつ「蒸発」していると考えられています。
この蒸発現象は、マクロな世界の物理現象を表す相対性理論にミクロな世界で起こる物理現象を表す量子力学の効果を加えて初めて現れる現象で、ホーキング放射とも言います。
詳細は難しいので避けますが、ブラックホールは長い年月をかけて「蒸発」し、質量が減少し、小さくなっていると理解していただければ大丈夫です。
そしてこちらが今回新たに発表されたブラックホールの構造が説明された図となります。
まず、ブラックホールをこれまでのような密度が無限大の特異点を事象の地平面が覆う構造ではなく、他の普通の天体同様に球状になった高密度の物質として捉えてみます。
この高密度の球状物質は、実際にびっしりと粒子が詰まって構成されていますが、これをたくさんの粒子が連なった層が幾重にも重なってできた構造であると捉えます。
このような構造において、高密度の球状物質を構成する「一粒の粒子」に着目してみましょう。
この一粒の粒子は「それ以内にある物質(一粒の粒子より内側の層の物質+一粒の粒子を含む層の物質)」からの重力で引かれています。
そしてそれ以内の物質の重力によって、一粒の粒子は引っ張られて徐々に内側に圧縮されています。
ここで、一粒の粒子以内にある物質には、先述の「物質をここまで圧縮するとブラックホールになってしまうような球状の領域の半径」であるシュワルツシルト半径があります。
一粒の粒子がそれ以内の物質からの重力で少しずつ圧縮される過程で、それ以内の物質の質量に対応するシュワルツシルト半径以内まで圧縮されると、事象の地平面の内部に粒子が隠れた、従来のようなブラックホールになってしまいます。
ですが新説のブラックホールでは、ここでホーキング放射の概念が出てきて、見事に事象の地平面内に物質が覆われて取り返しがつかなくなってしまうことを回避しています。
一粒の粒子がそれ以内の物質のシュワルツシルト半径に近付く、つまりそれ以内の物質が従来のブラックホールになる寸前の密度にまで圧縮されるのと同時に、それ以内の物質ではホーキング放射が起こり、質量が減少し始めます。
すると一粒の粒子はそれ以内の物質の重力でシュワルツシルト半径に徐々に近付くのと同時にそれ以内の物質は蒸発するのでシュワルツシルト半径自体が小さくなり、結果的に永遠に一粒の粒子はシュワルツシルト半径内に入りません。
つまりこのように一粒の粒子の収縮速度とそれ以内の物質の蒸発速度とが釣り合い、永遠にシュワルツシルト半径内に一粒の粒子が入らないため、光速でも脱出できなくなって取り返しがつかなくなる事象の地平面がそもそもできません!
そして今は「一粒の粒子」だけに着目してきましたが、この説明は高密度の球状物質内の全ての粒子に対して適用することができます。どこをとっても粒子の収縮速度とそれ以内の物質の蒸発速度が釣り合っているわけです。
最終的にはこのブラックホールは、特異点も事象の地平面も現れることなく、蒸発していくと考えられています。
最も外側の層もそれ以内の物質のシュワルツシルト半径とスレスレの所まで迫っているため、外から見ると従来のブラックホールと変わらない見た目をしているそうです。
さらに、従来のブラックホールではシュワルツシルト半径付近でしか起こらないホーキング放射が、新しい理論ではブラックホール全体で起こるので、蒸発が速くなりそうなイメージがあります。
ですが重力が極端に強いブラックホール内部では時間の進みが極端に遅くなり、実際ブラックホールから放出されるエネルギーはほとんどが表面から放出されたエネルギーですので全体の蒸発速度は従来と同じと考えられています。
このようにして新説のブラックホールにおいては現在の物理学では説明できない特異点や起こったことが絶対に外から分からない事象の地平面の内部領域など、お手上げ状態を見事に回避しています。
新説のブラックホールは通常の天体と同じ球状物質の形をとっているので、従来のブラックホールのように他の天体と一線を画した存在ではなくなりました。
●情報パラドックスも解消される?
そして今回の理論が正しければ、「ブラックホール情報パラドックス」という、現代の物理学における大きな未解決問題も解決される可能性があるそうです。
この世にあるすべての物質は、素粒子も含めて、過去にどんな状態にあったかという情報を、波動関数という形態を通じて保持しています。
この情報が失われると量子力学の理論が成り立たなくなってしまいます。
ですが従来のブラックホールでは、一度事象の地平面内部に入ってしまった物質は永遠に取り出せない上、最終的には内部に入った物質とは関係ない光子として蒸発するため、情報が保存されないという矛盾が生じてしまいます。
しかし今回の新説では、ブラックホールにそもそも事象の地平面ができず、内部構造も全て把握可能になるために、蒸発後に情報がどのように戻ってくるのかを解明できる可能性があります。
つまり長年大問題であったブラックホール情報パラドックスまで解決できるかもしれないというわけです。
現在の所、ブラックホールは従来の捉え方が主流であり、当宇宙ヤバイchでもそのような前提で解説をしています。
今後新説の方が主流となれば、天文学も物理学も大きく進歩することでしょう。