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恥ずかしい行為? 女性のセルフプレジャーの誤解やメリットを産婦人科医がマジメに解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

セルフプレジャー(自慰行為、マスターベーション)は、自分自身で性的な興奮や快楽を覚えるための行為です。当然ながら性別にかかわらず好みや頻度は自由であり、他人に悪影響を及ぼさないのであれば他人がとやかく口を出すことではないでしょう。

しかし、これまで特に女性のセルフプレジャーについてはオープンに語られることは少なく、日本ではほとんど耳にしない状況だったと思います。それゆえ、誤った情報や認識がもたれやすかったと言えるでしょう。

これには単一の理由があったわけではないと思いますが、海外に比べて早期からの包括的な性教育が進んでいないことも影響しているのではないかと感じています。

この記事では、女性のセルフプレジャーについて、科学的知見をベースに産婦人科医の視点で解説してみようと思います。

正しい知識と認識をもとに、相互の尊重を忘れることなく、各自が人生を楽しむための1つの要素としてセルフプレジャーを捉えていただければ嬉しいです。

大前提となる「3つのポイント」をまず知っておきましょう

セルフプレジャーは、性的快楽や喜びのために自分自身の性器を刺激する行為であり、人間の性的な経験の正常かつ健全な要素の一つと考えられています。

最も大きなメリットとして「誰にでも1人でできるもの」ということが挙げられます。

ある人は定期的にセルフプレジャーを楽しむでしょうし、ある人は全くしないことを好むでしょう。このどちらも全く問題はありません。

オーストラリア・クイーンズランド州政府の公式ページ(Department of Health)は、セルフプレジャーについて以下のように記載しています。

他者との関係性、年齢、セクシュアリティ、または性自認に関係なく、マスターベーションは多くの健康上の利点と自分の身体について詳しく知るための健全な方法です。

まずはじめに、重要なこととして以下の3点をぜひ覚えておきましょう。

1. セルフプレジャーは自然かつ健全な行為であること

2. するもしないも、好きも嫌いも、個々人の自由であること

3. 健康上の利点があること

加えて、上記のオーストラリア・クイーンズランド州政府の情報をベースに、医学的な視点からセルフプレジャーのメリットについて解説します。

健康上のメリットは?

1. 精神的な幸福感の獲得

セルフプレジャー、そしてその結果として起こるオーガズムは、快感と幸福感をもたらすホルモンであるエンドルフィンを分泌させます。

エンドルフィンは、ストレスに対する反応をコントロールする効果があり、多くの場合には気分を向上させ、気持ちを落ち着かせる働きがあることが知られています。

2. 月経痛を軽減する可能性

セルフプレジャーとオーガズムは、エンドルフィンだけでなくオキシトシンというホルモン分泌を促進し、子宮の収縮を促すと考えられています。

これら2つのホルモンは、身体をリラックスさせ、ストレスを軽減する作用があります。いくつかの研究では、オキシトシン分泌の促進と月経痛の軽減に関連があるという報告もされています。(文献1、2)

3. ポジティブなボディイメージの促進

これまでの研究により、セルフプレジャーとポジティブなボディイメージの間に関連性があることが示されています。

特に女性の場合、セルフプレジャーの頻度が高い人は、自分の身体反応と快感を関連付けやすくなり、身体に対する満足度が高まることで自己肯定感が向上すると考えられています。また、睡眠の質を高め、ストレスを軽減し、リラックスできることも報告されています。(文献3)

性的な健康面でのメリットとは?

1. 最も安全な方法である

あらゆる性行為の中で、セルフプレジャーは最も安全な行為だといえるでしょう。なぜなら、性感染症にかかったり、妊娠したりする可能性が全くないためです。

ただし、不潔な手や環境での実施や、器具を用いて無理な行為をすることは避けましょう。細菌感染や性器損傷のリスクがあります。

2. 自身の「心地良いこと・部分」を知ることができる

セルフプレジャーを通じて、自分の好きなこと・嫌いなことや、気持ちの良い部分・良くない部分に気づき、自分自身の性的な境界線を作ることができるかもしれません。

これにより、性行為をするパートナーに対して自分の希望をより正確に伝えることで、より心地の良いセックスができるようになる可能性が高まるでしょう。

3. 誤った思い込みやスティグマを持たない

セルフプレジャーを恥ずかしい行為だと思う人も当然います。

過去には、セルフプレジャーは男性だけがするものという誤った認識があったり、健康トラブルや性機能低下、不妊などを引き起こすのではないかと行為自体が(根拠なく)非難されたりしたこともあります。

しかしながら、自分の身体と性的に関わることは何も恥ずかしいことではありません。

また、セルフプレジャーをしている女性の中には、それがセルフケアの一環であり、自己学習や自己啓発のための時間であると考える人もいます。

誤った知識によって一方的かつ閉鎖的なスティグマを持つことなく、正しい知識をベースとして他者の価値観を尊重できることが望ましいと思います。

自分自身と向き合ってみる機会になるかもしれません

いかがだったでしょうか。

これまで抵抗感を持っていた方も、日常的に習慣化していた方も、セルフプレジャーについて一つでも新しい知識が得られたのであればとても嬉しく思います。

当然ながら無理にセルフプレジャーをする必要はありませんが、自分自身の身体をより良く知るための手段になるかもしれません。

また、パートナーとのセックスでオーガズムが得られない場合に、セルフプレジャーが解決への第一歩となる可能性もあります。

本記事が、自分自身の身体や心と向き合ってみる機会になれば幸いです。

*以下の記事も参考になれば幸いです。

女性のオーガズム障害とは?原因や対処法は?産婦人科医によるマジメな解説

実は女性の4人に3人が悩む性交痛、どんな原因があるの? 産婦人科医による解説

参考文献

1. Magon N, et al. The orgasmic history of oxytocin: Love, lust, and labor. Indian J Endocrinol Metab. 2011 Sep;15 Suppl 3(Suppl3):S156-61.

2. Liu N, et al. Oxytocin in Women's Health and Disease. Front Endocrinol (Lausanne). 2022 Feb 15;13:786271.

3. Horvath Z, et al. Body Image, Orgasmic Response, and Sexual Relationship Satisfaction: Understanding Relationships and Establishing Typologies Based on Body Image Satisfaction. Sex Med. 2020 Dec;8(4):740-751.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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