せやろがいおじさんが性犯罪の刑法改正について叫んでくれた件
沖縄の海を背景に時事問題について叫ぶ芸人YouTuber・せやろがいおじさんが、刑法の性犯罪規定についての問題点を動画投稿しています。
フルVer.でも実質3分ほどなので、さくっと見ることができていいですね!
↓こちらがフルバージョン。
性犯罪に関する刑法については、かねて被害当事者団体や支援者らが改正の必要を訴えてきました。でも法律の話って、なかなか興味関心を持たれづらいのが実情。特に「性犯罪」の話となると、暗くてタブーなイメージを持たれ敬遠されることもありました。
いろいろなアプローチの一つとして、動画でキャッチーに、というのは良いなあと思います。
せっかくなので、せやろがいおじさんの動画に寄せられている反応などを元に、まとめや補足などしてみたいと思います。便乗ですみません。
110年ぶりの件
ね〜、ほんと。ひゃ、110年??って思いますよね。1907年に制定された性犯罪に関する刑法は2017年に改正されました。110年の間に小さな改正は何度かあったものの、大幅な改正は2017年が初めて。
2017年の改正は「厳罰化」と報じられましたが、まだ積み残された論点が多いという訴えがあり、さらなる改正検討が始まることになりました。
暴行・脅迫要件
この部分に反応している人が多いようです。被害者の中には、実際に「警察に届けたけれど、暴力や脅迫を立証できないから難しいと言われた」という人がいます。
一方で、「暴行脅迫要件は実際にはほとんどないに等しく、適切に運用されている、だから改正は必要ない」と言う法曹関係者もいます。
ざっくりいうと「暴行脅迫要件のハードルは高くないし適切に運用されているから今のままで大丈夫」派vs「幅広く運用されているケースもたまにあるけれど、実際に暴行脅迫要件に阻まれた被害者が多数である以上、見直しは必要」派。前回の改正検討会では前者が勝ちました。
その後、性犯罪の無罪判決が4件連続で報じられるなど、性被害者のおかれる現状の厳しさが徐々に明らかになってきたことにより、風向きが変わりつつあります。
性的同意年齢13歳
それな……。
日本の性的同意年齢は13歳です。他の国はどうかというと、カナダ・イギリス・フィンランドでは16歳、フランス・スウェーデンでは15歳、ドイツ・台湾は14歳。
アメリカは州によって違いますが、1960年代を舞台にした「マインドハンター」というドラマの中で、登場人物がその州の性的同意年齢が14歳(当時)だと聞き、「女は〇〇に毛が生えたらセックスする相手は自分で選べってことか!」と呆れたように言う描写があります。日本は2020年の現在でも13歳です!
お隣の韓国も最近まで13歳でしたが、2020年5月に16歳に引き上げられました。
2017年の改正時にも性的同意年齢の低さは論点となりましたが、引き上げは見送られています。引き上げについては賛成意見も反対意見もあるかと思いますが、このツイートが指摘している通り、性的同意年齢が13歳であると知らない大人が多い……というのが一番の問題だと思っています。
子どもを持つ親たちでも知らない人が多い一方で、子どもを狙う性犯罪加害者は、「性的同意年齢が13歳」であることや、つい最近まで大阪が他に比べて淫行条例の基準が緩かったことを調べて知っていたりします。
結婚できる年齢を知らない人はあまり見ませんが、性的同意年齢については知っている人の方が少ないでしょう。子どもに「気をつけなさい」と言う前に、大人が知るべきことがあるなと思います。
【関連】日本の性的同意年齢は13歳 「淫行条例があるからいい」ではない理由
検討委員のうち、過半数は女性!
「らめーん」さんは、被害者支援を行っている弁護士さんです。せやろがいおじさんの動画内では「8月後半から検討会が始まるから」とされているますが、らめーんさんの指摘の通り、実は6月から始まっていて8月27日に5回目が行われる予定です。4回目までで論点が出揃って、いよいよ議論に入ろう!みたいな状況です。
でもらめーんさんの仰るとおり「細かいことはいいよ」ですし、ほんと「せやろがいおじさん、ありがとう」です。
検討会の議事録は、法務省内のこちらのページから確認することができます。議事録へアクセスすることは、「刑法改正に興味関心があります!」という意思表示になります。足しげく通いたいと思います。
第4回までに出た論点のまとめは、こちらから読めます。
検討委員の男女比、気になりますよね。意思決定の場にとにかく女性が少ない国、日本。上へ行けば行くほど女性が少なくなり、せめてゼロにならないように1人だけ女性が入れられたりする日本……。
しかし実は、性犯罪に関する刑法の検討委員は、17人中12人が女性です。詳細はこの記事の最後を参照いただければですが、「被害者心理・被害者支援等関係者」は3人全員が女性、「実務家(弁護士や検事など)」は7人全員が女性です。
ちなみに、弁護士4人中2人は被害者支援側の弁護士、2人は被告人を弁護する立場から意見を言う弁護士です。つまり改正に賛成の立場、反対の立場でバランスを取った人数比になっています。
このことからもわかる通り、検討委員に入った女性だからといって性犯罪被害者に寄り添い、改正を求めているわけではありません。ただやっぱり、男性中心で意思決定が行われることが多い日本社会なので、その場所に女性が多いこと自体に意味があるのではないかなと思っています。
各委員のスタンスは、法務省の議事録の「自己紹介」からある程度わかります。
2017年の改正の際も、検討委員12人中8人は女性でした。ただ、被害者側の視点から意見を述べたのは2人ほどだったと言われています。
今回の検討会では前回はなかった「被害者心理・被害者支援等関係者」枠があります。そして検討会の様子を知る人からは、「前回(2017年の改正時)とはだいぶ様子が違い、変えなければいけないという空気が強い」という声が聞かれています。改正を望む人にとっては期待大です。
この後の進行としては、検討会が終わった後、おそらく来年以降から審議会が行われます(ちなみに前回の改正時には、審議会で委員の男女比がひっくり返りました)。審議会で決定したものが閣議に出されることになります。
検討会で議論されているのは、もちろん上記の点だけではなく、準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不能要件、地位・関係性を利用した性暴力、集団(2名以上)による性的犯行の場合の加重累型(前回の改正で集団強姦罪が廃止されたため)、配偶者間による性暴力、時効の問題、起訴状における被害者氏名の取り扱い、レイプシールド(被害者の性的経験などを公判に出すことを禁止すべきかどうか)、司法面接の録音・録画記録媒体の取り扱いについて……などてんこ盛りです。
繰り返しになりしつこいですが、今後も検討会を見守っていきましょう。
【性犯罪に関する刑事法検討会の委員】
【座長】
- 井田良(中央大学教授)
【委員】
・被害者心理・被害者支援等関係者
- 小西聖子(武蔵野大学教授・精神科医師)
- 齋藤梓(目白大学専任講師・臨床心理士・公認心理師・被害者支援都民センター相談員)
- 山本潤(性暴力被害者支援看護師・一般社団法人Spring代表)
・刑事法研究者
- 木村光江(首都大学東京教授)
- 佐藤陽子(北海道大学准教授)
- 橋爪隆(東京大学教授)
- 和田俊憲(慶應義塾大学教授)
- 池田公博(京都大学教授)
- 川出敏裕(東京大学教授)
・実務家
- 金杉美和(弁護士・京都弁護士会)
- 上谷さくら(弁護士・第一東京弁護士会)
- 小島妙子(弁護士・仙台弁護士会)
- 中川綾子(大阪地方裁判所部総括判事)
- 羽石千代(警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長)
- 宮田桂子(弁護士・第一東京弁護士会)
- 渡邊ゆり(東京高等検察庁検事)