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【「麒麟がくる」コラム】片岡鶴太郎の怪演が光る摂津晴門とは、いったい何者なのか!?

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
室町幕府の初代将軍・足利尊氏。戦国時代、摂津晴門は足利義輝・義昭に仕えた。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■光る怪演

 大河ドラマ「麒麟がくる」で、異様なまでに存在感を示した摂津晴門(役・片岡鶴太郎さん)。最後の最後まで、長谷川博己さんが演じる明智光秀を苦しめた。その怪演ぶりは、視聴者を虜にした。

 しかし、晴門は教科書に出てくるわけでもなく、あまり知られていない人物でもある。いったい、どのような経歴の人物なのだろうか?

■摂津氏とは

 そもそも摂津氏とは、いかなる由緒を持つ家柄なのだろうか?摂津氏の先祖は、鎌倉幕府に仕えていた中原氏である。鎌倉幕府が滅亡して以後も、室町幕府の運営に参画していた名門である。

 名字の「摂津」は、先祖代々が摂津守を家の官途として名乗っていたことに由来するという。室町時代は摂津氏で通っており、幕府に仕えていた。

■晴門のこと

 晴門は、室町幕府の内談衆・摂津元造の子として誕生したが、残念ながら生年は不詳である。近年の研究によると、晴門は永正年間前半に誕生し、元亀年間には60代だったのではないかと推測されている。

 内談衆とは、所務沙汰(所領や年貢に関する訴訟・裁判)の審議を担当する職員である。元造は官途奉行・地方頭人・神宮方頭人などを務めていたが、永禄5年(1562)頃に亡くなった。

 晴門(初名は晴直)の名は、12代将軍・足利義晴の偏諱を授けられたものである。将軍の偏諱を与えられたのだから、晴門がいかに期待されていたかわかる。

 父の死後、晴門は13代将軍・義輝、15代将軍・義昭に仕えた。なお、元造の養女・春日局は義輝の乳母を務めていたので、晴門は義輝の義理の伯父ということになろう。

■表舞台に出た晴門

 永禄7年(1564)、晴門は政所執事に就任した。政所は幕府の財政のほか、貸借・土地などの訴訟を担当する役所で、執事はそのトップを意味する。

 晴門は、義理とはいえ義輝の伯父であった。また、これまで父・元造のもとで、官途奉行・地方頭人・神宮方頭人の職務を補佐していた。そうした経験も買われての登用であろう。

■義輝の死

 順調に出世を遂げた晴門であったが、やがて悲劇が訪れた。翌永禄8年(1565)5月、三好三人衆らが二条御所を襲撃し、義輝が討ち死にしたのである(永禄の変)。

 それだけではない。襲撃に巻き込まれて、子の糸千代丸も討たれてしまったのだ。当時、まだ13歳だった。晴門にとって、たった1人の子であったといわれている。

 その後も晴門は職務を続けたが、義輝没後に14代将軍になった義栄は、晴門と敵対する伊勢貞為を登用した。永禄9年(1566)5月以降、義栄の方針に反発した晴門は、京都をあとにしたのである。

■義昭に仕える

 京都を出奔した晴門は、やがて義昭に仕えるようになった。永禄11年(1568)10月、義昭が織田信長に推戴されて上洛すると、晴門は再び政所執事に任じられた。表舞台への復帰である。

 しかし、その間の晴門の活動はあまりわかっていない。少なくとも元亀2年(1571)1月までは、政所執事の職にあったことがわかっている。

 翌元亀3年(1572)には『お湯殿の上の日記』に晴門の姿を確認できるが、これ以降の記録は残っていない。没年は不明である。先述のとおり、子の糸千代丸も亡くなっていたので、摂津氏は晴門の代で途絶えたと考えるべきだろう。

■晴門の実像

 以上のように、晴門の史料は乏しく、その生涯には不明な点が多い。ましてや、晴門の人間像(性格など)に至っては、まるでわからない。

 大河ドラマでの晴門は、非常に個性的なキャラクターで、義昭に信長との対決を勧め、間に入った光秀を討とうとすらした。もちろん、そのような史実は確認できない。

 大河ドラマは、あくまでフィクションである。晴門のキャラクターは創作にすぎないが、片岡鶴太郎さんの熱演が光った。固いことは言わず、それでいいじゃないか。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書など多数。

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