世界で勢い増す韓流 巧みなSNS戦略 BTSも受賞した「MAMA」が象徴する2018年のK-POP
「ARMY!」
Worldwide Icon of the Year受賞の瞬間、トロフィーを手にステージに立ったBTSのメンバーJINが力の限り叫んだのは、ファンクラブの名前だった。
「光栄です。数年前まで小さな所属事務所の歌手でした。ARMYの皆さんに出会い、大きな賞ををいただく歌手になりました。BTSが努力をし、ARMYの皆さんが僕たちと一緒にいてくださったからこそ、得ることができた賞だと思います」
12月12日に開催された「2018 MAMA FANS’ CHOICE IN JAPAN」。受賞の瞬間を共にしたのは、会場となったさいたまスーパーアリーナにいた2万4千人だけではない。世界200余りの国・地域の人々もオンラインで見守っていた。
BTSが2度にわたり「ビルボード200」で1位を記録し、TWICEは2年連続「NHK紅白歌合戦」に出場を決めた2018年。
なぜ、こんなにもK-POPは世界の音楽シーンを席巻しているのか。
今年ずっと探していた答えのキーワードが、このステージから透けて見えた。
リアルタイムの投票で興奮を共有
MAMAの正式名称は、「Mnet Asian Music Awards 」。ケーブルテレビの韓流エンターテイメントチャンネルMnetを運営するCJ ENMが開催する、音楽授賞式だ。
日本では2回目の開催となる今年は、BTS、TWICE、Wanna One、IZ*ONE、NU’EST W、MAMAMOO、MONSTA Xなど、旬のK-POPアーティストがそろい踏み。彼らは「Worldwide Fans’ Choice Top 10」に選ばれたグループで、その中から最も人気があるチームが「Worldwide Icon of the Year」を受賞するというのが目玉の授賞式だった。
次々と繰り出すK-POPグループの中でも、ひときわ歓声が大きかったのは、IZ*ONEだ。Mnetのオーディション番組『PRODUCE48』で誕生した日韓合同のグローバルグループ。AKB48グループの宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美を含む12人が円になり、バラの花のようなフォーメーションを作るダンスを、日本の観客の前で初披露した。
一方、悲鳴のような歓声に包まれたのは、Wanna Oneだった。サバイバル番組で結成された今年12月までの期間限定のグループという運命ゆえ、MAMAが日本での最後のステージ。「Light」「BOOMERANG」「I PROMISE YOU (I.P.U)」と人気曲のメドレーに、「1」の文字が浮かび上がるペンライトが大きく波のようなうねりを見せた。
特筆すべきは、「MAMA FANS’ CHOICE IN JAPAN」は、SNSを積極的に活用し、100%ファンの意向を賞に反映しているということだ。
仕組みを説明すると、投票は二段階。まずは、「Worldwide Fans’ Choice Top 10」の10組を11月1日から12月9日まで公式オンライン投票とSNS投票などを通じて選び出す。そして、式典を約3時間にわたって生中継する間に行うTwitterでのリアルタイム投票の集計を合算し、「Worldwide Icon of the Year」を選出する。
SNS投票は、「#MAMAVOTE」と「#アーティスト名」を書いてツイート。12日のオンエア中には1335万件の投票が集まり、「#MAMAVOTE」というキーワードは世界範囲でのTwitterトレンド入り。結果、BTSがトップに輝いた。臨場感あふれるリアルタイム投票に参加することで、ファンは興奮と感動を共有する。まさにファンによるアーティストとファンのための賞というわけだ。
10回目を迎えるMAMAにおいて、SNSリアルタイム投票を用いた「Worldwide Icon of the Year」は、今年が初めての試みだ。だが、2009年の初回から公式ホームページなどを活用したWEB投票を実施していた。
Mnet関係者はいう。
「SNS投票は世界的には異例のことではなく、これからのトレンドになっていくのかなと感じています」
K-POPがビルボードに強い理由
音楽チャートでSNSやオンラインストリーミングのデータを積極的に取り入れているのが、アメリカのビルボードだ。例えばHOT100は、CDセールスやダウンロードなどの数値に、オンラインストリーミングのデータを加えて算出している。
ビルボードは2010年12月からSNSからアーティストの人気度を測定する「Social 50」を開設。そこに食い込んでいるのが、韓国のアーティストたちだ。最新のチャート(2018年12月15日)では、1位BTS、4位GOT7、5位EXO、6位NCT DREAM、7位MONSTA X、9位Red Velvet、10位Wanna One。なんと、10位までに7組ものK-POPグループがランクイン。BTSに至っては、104週で1位を記録している。
振り返れば、2017年、BTSがビルボード・ミュージック・アワードにすい星のごとく登場して1位に輝き注目を浴びたのも、ソーシャル・メディアで最も高い関心を誇ったアーティストに送られる「トップ・ソーシャル・アーティスト」賞だった。
韓国では、毎週放送される地上波やケーブルテレビの音楽番組でも、SNSの事前投票やリアルタイム投票をカウントする番組が複数ある。さらにMAMAをはじめとする賞レースでSNS投票に慣れたファンを世界中に抱えるK-POPにとって、ビルボードは決して遠い存在ではなく、ワンクリックでつながることができる身近なもの。親和性が高い音楽チャートなのだろう。
韓流の未来に投資するための授賞式
MAMAのもう一つの特徴が、韓国以外での国・地域における開催だ。2010年にマカオへ進出して以降、シンガポール、ベトナムなどへ。今年は日本のみならず、韓国と香港でも開かれた。12月10日から一日おきに3か所で3時間ずつ、計約9時間。その一部始終を日本ではMnet JapanとMnet Smartで生中継・生配信し、日本以外では YouTubeやV liveなどを通じて世界200余りの地域にオンライン配信するという、壮大なイベントなのだ。
では、なぜK-POPの授賞式を外国で行うのだろうか。
Mnetのシン・ヒョングァン元音楽コンテンツ部門長(現在は副社長)は、昨年12月、韓国メディア「news1」とのインタビューで、こう明かしている。
「海外で授賞式を行う目的は、K-POPの世界化だ。我々は韓流音楽を研究し、未来に投資している。アメリカの音楽が世界的な音楽と評価されているのは、米軍が全世界で勤務しながら次第に広まったのも一つの理由。10年前にJ-POPが注目されたこともあったが、日本は国内市場が大きいため、世界に出ていかなかった。MAMAを海外で開催することは、ファンに対してK-POPの大きな宣伝となる。私はK-POPが世界の音楽市場でメインストリームになると確信している」
「世界中の音楽ファンが楽しむことのできる、アジア最高の音楽祭」というモットーのもと、攻めの姿勢で変化し続けるMAMAとK-POP。
対して、同じく年末の賞レースといえば、「日本レコード大賞」だ。
毎年東京都内の同じ会場で開催され、審査員は新聞記者や音楽評論家・音楽プロデューサーなどが務める。公式Twitterは、11月15日に今年の放送日を告知して以来、12月16日までの一か月間に更新は5回のみ。11月30日を最後にツイートが途絶えているのを見ると、隔世の感が否めない。