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新型コロナから回復し退院・療養解除となった人から感染することはないのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

世界における新型コロナの感染者数が1億人を超え、日本でも32万人以上の方がすでに退院または療養解除となっています。

こうした新型コロナから回復した方から感染が広がることはないのでしょうか?

新型コロナと診断されたらいつまで入院・療養が必要なのか

現在の退院および療養解除基準は以下のようになっています。

有症状者の場合

① 発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合

② 症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できた場合

無症状病原体保有者の場合

① 検査日から10日間経過した場合

② 検査日から6日間経過後、24時間以上間隔をあけ2回のPCR検査陰性を確認できた場合

退院基準・解除基準の改定(厚生労働省 2020年6月12日)

新型コロナのことがまだよく分かっていなかった頃は、PCR検査で2回の陰性を確認するまでは退院できませんでしたが、現在はPCR検査で陰性を確認していなくても、発症から10日経ち症状が軽快していれば退院できるようになっています。

退院・療養解除となれば(体調に問題がなければ)職場に復帰可能となりますので、発症から最短で10日経てば職場に復帰できることになります。

「まだ発症から10日しか経ってない人が働いて、周りの人に広がったりしないの?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

新型コロナの感染性のピークは発症前後にある

新型コロナの発症前後の感染性(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)
新型コロナの発症前後の感染性(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)

新型コロナに感染すると、概ね5日後くらいに発症します。

新型コロナでは、この症状が出る前後に最も感染性が強くなる(人にうつしやすくなる)ことが分かっています。

症状がない時期にも感染性があるのが新型コロナの大きな特徴の一つであり、症状がない人も含めてマスクを着ける「ユニバーサル・マスク」が感染対策でも重要になっています。

いつまで新型コロナは感染性があるのか?

では新型コロナはいつまで感染性があるのでしょうか?

感染性がいつまであるのかについて評価するためにはPCR検査は不適切とされます。

PCR検査はウイルスの遺伝子の特定の領域を検出しているものであり、ウイルスそのものではないため、死んだウイルスの断片を拾っているだけのことがあるためです。

ときどき発症から30日以上経ってもPCR検査が陽性になり続ける患者さんがいらっしゃいますが、だからといってずっと感染性が続いているわけではありません。

「いつまで感染性があるのか」を推測するための方法の一つとして「ウイルス培養」を用いた方法があります。

生きたウイルスが培養できるということは、その時期には感染性のあるウイルスがたくさん排出されていると考えることができます。

したがって、この「培養できるウイルスが分離できるまでの期間」は概ね「感染性有り」と捉えることができます。

発症からの日数とPCR検査のCt値、ウイルス培養結果との関係(DOI: 10.1056/NEJMc2027040)
発症からの日数とPCR検査のCt値、ウイルス培養結果との関係(DOI: 10.1056/NEJMc2027040)

韓国で行われた21人の患者から採取された89の検体を評価した研究では、ウイルスが培養されたのは29検体(33%)であり、97%の検体が発症から10日以内(1検体のみ発症12日後)でした。

つまり、ほとんどの新型コロナ患者では発症して10日以内に感染性はなくなります。

濃厚接触者の発症率と感染者の発症からの日数との関係(doi:10.1001/jamainternmed.2020.2020)
濃厚接触者の発症率と感染者の発症からの日数との関係(doi:10.1001/jamainternmed.2020.2020)

また、台湾から100例の確定患者とその濃厚接触者2761人(このうち22人が後に新型コロナウイルス感染症を発症)についての報告では、濃厚接触者のうち発症したのは、発症前または発症から5日以内の確定患者と接触した人だけであり、発症から6日以降に確定患者と接触した人のうち新型コロナに感染した人はいませんでした。

重症の新型コロナ患者では、ウイルス排出期間が長くなると言われていますが、それでも最大20日ほどと言われていますが、重症患者が20日以内に退院することはありませんので、重症患者から市中で感染が広がることはありません。

新型コロナ患者の感染性のある期間(Clinical Infectious Diseases, ciaa1249)
新型コロナ患者の感染性のある期間(Clinical Infectious Diseases, ciaa1249)

以上から、

・発症する3日前〜発症後5日が最も感染性が強い

・軽症〜中等症の人は発症10日後には感染性はなくなっている

・重症の人も最長で発症20日後には感染性はなくなる

ことが分かっています。

唯一の例外は、重度の免疫不全のある方では持続感染が起こり、ウイルスの排出が続くことがあることです。

例えば、慢性リンパ性白血病と低ガンマグロブリン血症という持病を持った方が新型コロナに感染し、発症から70日後もウイルス培養が陽性であった事例が報告されています。

こうした重度の免疫不全のある方では、隔離解除の基準は慎重に判断される必要があります。

退院・療養解除後の新型コロナ患者から感染が広がることはない

いらすとや
いらすとや

このように、退院基準を満たした人はすでに感染性がなくなっているため、周囲の人に感染を広げることはありません。

したがって、就業再開のためにPCR検査をして陰性を確認する必要もありませんし、治癒証明書も必要ありません(厚生労働省からも通知が出ています)。

復職前にこのような不要なPCR検査や治癒証明書を求めることは、患者さん自身にとっても医療機関にとっても負担になるだけです。

社会において、新型コロナに感染し退院した人、療養解除になった方への理解がより一層進むことを切に願います。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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