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『パーセント』最終回 伊藤万理華と和合由依が向かう未来と、蒔かれた“種”

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:NHK

人の心は永遠にわからないだろう。でも、わかりたい。わかりあいたい。

伊藤万理華主演のドラマ『パーセント』(制作・NHK大阪、NHK総合にて毎週土曜夜10時〜)が今夜、最終回を迎える。

■「障害を利用するみたいな使われ方やったらお断りです」

ローカルテレビ局「Pテレビ」の局員・吉澤未来(伊藤万理華)はある日、編成部長の藤谷(橋本さとし)から呼び出され、自分が提案したドラマの制作が決まったことを告げられる。

もともとドラマ制作志望だった彼女は大いに喜ぶが、それはただ単にジェンダーバランスを鑑みただけの起用にすぎず、加えて局が掲げる「多様性月間」の一環として「障害のある俳優を起用すること」を条件に求められる。

写真提供:NHK
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そんな中、未来は取材に向かった学校で、車椅子に乗った俳優志望の高校生・宮島ハル(和合由依)と出会う。だが初対面の彼女から「障害を利用するみたいな使われ方やったらお断りです」と強烈な一言を言われる。さらに新しい編成部長の長谷部(水野美紀)からは「あなたは根本的に人間を描くという意識が欠如しています」と厳しい指摘を受け苦悩する。

ハルの言葉の意味を受け止め、必死に向き合おうとする未来に、ハルも少しずつ心を開いていき、なんとかプレゼンを通過。同居している恋人・町田龍太郎(岡山天音)の力も借り、未来はいよいよ制作に乗り出す。

写真提供:NHK
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しかし、ハルは目まぐるしく進んでいく撮影現場や一方的な演出、障害がある自分に対する扱い、同じく障害がある所属劇団の仲間たちの出演が削られることに戸惑いと違和感を覚え、演技への自信を失う。さらに、メイキングのカメラの前で無理矢理「多様性」を語らされた未来との間にも溝が。そうしている間にも進んでいく撮影スケジュール。果たしてドラマは無事完成するのだろうか……。

■未来とハル。二人の想いの行方は

ストーリーもさることながら、未来を演じる伊藤万理華と、ハルを演じる和合由依の演技が素敵だ。

ドラマをつくりたいという情熱は人一倍あるものの、それをうまく形にすることができないまま物事が進んでいくことに心を痛める未来は、自分の浅はかさを反省し、逡巡を繰り返しながらも少しずつ前に進んでいく。

写真提供:NHK
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俳優を目指して劇団に所属しているハルは最初、未来になかなか心を開こうとしない。しかし、同じ劇団員の言葉に改めて自分と向き合い、新たな一歩を踏み出そうと決意する。

写真提供:NHK
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伊藤は同じくNHK総合で現在放送中の『燕は戻ってこない』では、主人公のリキ(石橋静河)に卵子提供および代理母になることを勧める友人・テル役として出演。無邪気さと残酷さを併せ持つキャラクターをとても魅力的に演じている。

和合は2021年に行われた東京2020パラリンピック開会式において「片翼の小さな飛行機」役でパフォーマンスを披露。『パーセント』にはオーディションで選ばれ、セリフのある芝居はこのドラマが初めてだという。

未来とハル。互いに言葉足らずで頑なにも見えるが、「良いものを作りたい」という想いは同じだ。しかし、人と人はそんなに簡単に打ち解けるはずがない。それぞれに想いを抱えた二人が不器用ながらも少しずつ関係性を築き上げていく姿が、とてもリアルで引き込まれていく。

写真提供:NHK
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本作のプロデューサーの南野彩子は、Eテレで放送中の『バリバラ』を担当していた経歴を持つ。「生きづらさを抱えるすべてのマイノリティー」にとっての“バリア”をなくす、みんなのためのバリアフリー・バラエティー、と銘打たれている通り、この番組は障害がある人たちを“特別な存在”ではなく当たり前の存在として受け入れ紹介している。

脚本は大池容子。未来とハルの友情はもちろん、周囲の人物たちとの揺れ動く関係性、一般的にはあまり知られていないであろうドラマ制作の裏側が丁寧に描かれており、すべての登場人物に生命力を感じさせる。エンディングで流れる主題歌はインナージャーニーの『きらめき』。疾走感とともにすがすがしさを感じさせ、ドラマの世界観に非常にマッチしている。

写真提供:NHK
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個人的には、連続テレビ小説『ふたりっ子』(1996年)で「オーロラ輝子」を演じた河合美智子が脳出血による右半身のマヒを乗り越え、同じ“輝子”という役名で出演しているところが心にくい。

■わからなくてもいい。わかろうとし続けていきたい

知れば知るほど、考えれば考えるほど、世の中は、人の心は複雑だ。乱暴な言い方だが、超能力者じゃないんだから、人の思いなんてわかるわけがない。

でも、そこであきらめたらおしまいだ。

わからなくてもいいから、少しでも向き合い、相手をわかろうとする。壁があればそれをどうにかして乗り越え、一緒に進み、何かをつくりあげていきたい。その気持ちこそが、未来というものにつながっていくのではないだろうか。

そもそも人間が、この社会が多様なのは当たり前である。わざわざ言葉にして条件や目標として掲げるものではない。そして、モノづくりは数字でも帳尻合わせでもない。“想い”こそが人の心を動かすのだ。

写真提供:NHK
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願わくばハンデの有無や、無機質な数字で人を分けることのない社会を作り上げていきたい。年齢・性別関係なく多くの人が心おだやかに、そして楽しく毎日を過ごせる社会を。

『パーセント』は、そんな未来について考える“種”を、私たちの心の中にそっと蒔いてくれた。今度は私たちがその種を育て、花を咲かせる番である。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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