Yahoo!ニュース

2024年上半期のテレビドラマ界における出来事を振り返る #専門家のまとめ

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
日本テレビ (日テレタワー)(写真:西村尚己/アフロ)

心を打つセリフや感動的なシーン、次の展開が気になるストーリー、意表をつくキャスティングや俳優たちの熱演、緻密なセットや壮大なロケーションで私たちの毎日を彩ってくれるテレビドラマ。

しかし、モノづくりは華やかで楽しいことばかりではない。2024年も半年を過ぎようとしているが、今年上半期のテレビドラマ界で起きたトピックスをまとめた。

ココがポイント

▼「セクシー田中さん」問題に関する日本テレビの報告書

「セクシー田中さん」調査報告書(公表版)

▼日本テレビで4月スタート予定だった新ドラマ「たーたん」主演予定のムロツヨシ降板・制作中止

・ムロツヨシ主演の日テレドラマ「たーたん」が制作中止 プロデューサーが「今はできない。別の企画をやりましょう」《「セクシー田中さん」チーム“再タッグ”だったが…》(文春オンライン)

▼フジテレビ「新宿野戦病院」ホームページ・登場人物の紹介テキストが修正される

・フジ新ドラマ、登場人物説明に「ジェンダーアイデンティティで」の意味不明 識者も疑問視、局は「文章表現に誤り」と削除(J-CASTニュース)

エキスパートの補足・見解

今、テレビドラマに関わる者たちすべてが深く胸に刻まなければいけないのは、やはり『セクシー田中さん』問題であろう。原作者の死去だけでなく、4月に予定されていた新ドラマの制作が中止されるという事態にまで発展。5/31に日本テレビの報告書が公開されたが、局の対応をめぐっては今なお批判の声が高い。

また、宮藤官九郎脚本『新宿野戦病院』の登場キャラクターの紹介テキスト修正をめぐる騒動では、「ジェンダーアイデンティティ」という言葉に対するテレビ局側の理解の低さ、チェック体制が機能していないことが露呈した。

私が考えるに、これらは現在のテレビ局のドラマ作りにおける構造的な問題が大きい。目まぐるしいスケジュールの中、テレビ局はいったん始まったドラマの放送を「より良いものを作りたいから」と言って、中断・休止させることは当然ながら出来ない。状況を見る限り、BS・CS・サブスクとあまりにも増えすぎたドラマ枠にスタッフ、広報など制作陣の意識・実務ともに追いついていない感が否めない。

しかし、ここで今一度しっかりと立ち止まり、予算の拡大、制作期間の確保、スタッフの拡充などの改善策を真剣に検討しなければ、すぐさま第2、第3の『セクシー田中さん』や『新宿野戦病院』が出てきてしまうことは容易に想像できるだろう。

そして、私たち視聴者も何か問題が起きた際、「ファンvsアンチ」をはじめとする安易な対立構造に陥らず、全体的に乗り越えるべき課題として冷静にとらえる視点も必要だ。見る側、作る側、ドラマに関わるすべての人たちがそれぞれの立場から建設的な意見を交わし、最善策を考え続けることが、テレビドラマの未来につながると私は思う。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

中村裕一の最近の記事