大谷翔平選手式の結婚発表は、アスリートのプライバシー報道の境界線を変えるか
15日深夜に、大谷翔平選手が、インスタグラムに妻と一緒に写る写真を投稿したことが、15日の早朝からあっという間に日本中で大きなニュースになりました。
その後、二人は韓国の仁川空港に到着し、メディアやファンの前に始めて姿を見せて、さらに大きな話題を巻き起こすことになります。
参考:大谷翔平、妻とともに韓国・仁川空港に先陣で登場 現地ファン夢中で撮影、夫婦で初めて公の場に
大谷翔平選手はドジャーズに移籍したばかりということもあり、昨年にも増して注目が集まる年になるのは間違いないのですが、今回の一連の結婚報道をめぐる大谷翔平選手の選択は、アスリートのプライバシー報道の境界線も大きく変える可能性があると感じます。
常に情報開示の主導権を握る大谷翔平選手
大谷翔平選手が結婚を発表したのは2月29日のことでしたが、インスタグラムで相手が日本人女性であることだけを発表し、翌日の報道陣の取材に対してもあまり具体的なことを明らかにしなかったことが記憶に新しい方も多いでしょう。
その結果、一部メディアの間でスクープ合戦が展開されている状況で、「大谷の妻をテレビに出せたら金一封を出す」という手法に出たテレビ局まであるという報道が、ネット上でテレビ局に対する批判を集める展開になっていました。
そうした中、大谷翔平選手が、自ら二人の写真を公開するという行動に出たことは、多くのメディアにとっても驚きの出来事だったようです。
ただ、実際には米国のスポーツ界では、選手が妻や子どもと公の場に出る機会が多いことが一般的なため、大谷翔平選手もずっと隠しておくつもりはなかったと考えられます。
今回の大谷翔平選手の写真公開後には、ドジャース側も写真をSNSに投稿していますし、米国メディアの取材に対しドジャース球団側が大谷翔平選手の妻が田中真美子さんであることを認めており、数々の米国メディアが報道を行っています。
参考:Shohei Ohtani reveals his new wife’s identity – basketball star Mamiko Tanaka
当然、ドジャース球団側が大谷翔平選手の同意なく開示するわけはありませんから、このタイミングでの公開が、大谷翔平選手の予定通りの公開ということになるのでしょう。
そうなると、結婚発表のタイミングでの情報開示の少なさと、今回の大谷翔平選手自身による写真公開は、「情報は適切なタイミングでこちらから出すから、不必要な家族への取材はしないように」というメディアに対する明確なメッセージと受け止めることができます。
1月にはメディアの報道に警告を投稿
実はこのメッセージには、既に1月から伏線があります。
1月31日に大谷翔平選手が、Instagramアカウントで週刊誌報道のキャプチャを掲載して「事実とは異なる報道が多数ありますので皆さまご注意ください」と警告する出来事があったのです。
参考:大谷翔平選手の注意喚起で考える、メディアの「報道の自由」の境界線
これは、大谷翔平選手の通訳の水原夫妻についての報道に対して発された警告でしたが、この1ヶ月後に自身の結婚発表をされることを考えると、こうした日本の一部メディアの報道姿勢に対して、大谷翔平選手が強く危機意識を感じていたことは容易に想像できます。
そこで、あえて結婚発表のタイミングでは一切詳細な情報は開示せず、妻を連れ添っての韓国遠征のタイミングで、写真を公開するという選択をされたと考えられるのです。
大谷翔平選手としては、「妻のことを隠すつもりはないが、自分の本業である野球に関係しないプライベートな情報を自ら喋るつもりはない。」ということを明確に態度で示されたことになります。
当然、この姿勢の裏側には、「プライバシーに配慮しない報道や、虚偽の報道を行うメディアがいれば、そういうメディアとして対応しますよ。」というメッセージも暗に含まれていることになります。
大谷翔平選手の意思に従う日本メディア
こうした大谷翔平選手の家族のプライバシーを守る姿勢は、現時点で日本のメディアに対してはビックリするほど大きな効果を発揮しているのが現状です。
象徴的なのは、15日の大手メディアの報道は、ほとんどが大谷翔平選手の「妻」という表現に統一され、実名での報道がほとんど無かった点です。
実際には、田中真美子さんは日本代表候補にも選出されたことのある女子バスケの選手ですので、見る人が見れば当然誰か分かります。
実際、15日朝の段階でも早速女子バスケ代表の馬瓜エブリンさんがお祝いのコメントを投稿してメディアでも話題になっていました。
しかし、ほとんどのメディアは、15日の段階では大谷翔平選手の結婚発表の際の意思を受ける形で実名報道をしない選択をしたようです。
午後になり、CNNなど米国メディアが田中真美子さんの実名報道をするようになって、日本のメディアにも実名報道が増えていきますが、そのほとんどはCNNなどの米国メディアを引用する形になっているのも印象的です。
もちろん、正式報道前から田中真美子さんの実名報道に踏み切っているメディアは存在しましたが、そうしたメディアは大体スポーツ報道を行っていない週刊誌やネットメディアが中心です。
大手メディアからすると、万一大谷翔平選手の意に反する報道を行ってしまって、肝心のスポーツ報道に支障が出ては元も子もないですから、揃ってリスク回避をしているという面は間違いなくあるでしょう。
他の選手にも大谷翔平選手と同様の対応が求められる
こうなると、当然今後同様に家族に関しての報道を控えてほしいアスリートが同様のリクエストをした場合、日本のメディアは大谷翔平選手の際と同様の扱いをすることが求められることになります。
プライバシーの境界を超えた報道に悩んでいた日本のアスリートにとっては、非常に朗報と言えます。
特にアスリートのプライバシーをめぐる報道においては、昨年、羽生結弦選手が「誹謗中傷やストーカー行為、許可のない取材や報道がなされています」という告白とともに離婚報告をされるという非常に残念な出来事があったばかりです。
参考:羽生結弦さんの離婚報告で考えるべき、過剰報道と誹謗中傷の「負のスパイラル」
こうした残念な出来事が起こらないためにも、メディアには節度ある報道や取材の姿勢が求められるのは間違いありません。
そもそも、明確な公人である国会議員や、プライベートも切り売りしている芸能人と違い、アスリートはアスリートとしての活動が報道対象なのであって、アスリートのプライベートは本人の意思に反して勝手に報道して良いものではないのではないかと言う議論も高まっています。
参考:恩師・友人の取材は?メディアによる「アスリートのプライバシー」報道を3人の専門家が議論
誰もがスマホでアスリートのプライベートを隠し撮りできてしまい、SNSで広く拡散できてしまう時代だからこそ、逆に報道の最前線にいるメディアこそ、アスリートのプライバシーを守った報道が求められている時代ということが言えるかもしれません。
アスリートのプライバシー報道の境界線が変わるか
今回の大谷翔平選手への結婚発表の姿勢は、そんな今の時代のメディアに対する明確な問題提起であり、大谷翔平選手ならではのアスリートのプライバシー報道の境界線の引き直しと考えるべきだと思います。
おそらく、このプライバシー報道の境界線はメディアにとって更に厳しくなることはあっても、ゆるくなることはないはずです。
当然、今後はアスリートの意思を無視して、プライバシーの境界を踏み越えた報道をするメディアに対しては、ファンの批判が殺到する可能性も高くなっていると言えます。
なんと言っても、大谷翔平選手がこのタイミングで結婚発表をし、写真を自ら公開したのは、ドジャースでの1年目のシーズンに全力で集中するためでもあります。
特に大手メディアの皆さまには、大谷翔平選手の結婚報道のスクープ合戦で大騒ぎするのはこれで終わりにしていただき、是非今シーズンの大谷翔平選手の野球での活躍の報道に注力していただきたいと思います。