中国「二人っ子政策」で粉ミルク争奪が激化
「一人っ子政策」を緩和
中国国営新華社は15日、中国指導部は人口抑制のため1979年に導入した「一人っ子政策」を34年ぶりに緩和することで合意したと報じた。夫婦いずれか片方が一人っ子の場合、その夫婦は2人目の子供を持つことができるようになる。
食料危機を回避するという所期の目的は達成したが、祖父母世代4人、親世代2人、子供世代1人という「4・2・1」の少子高齢化が急激に進行。経済成長の重要なファクターとなる労働力人口の減少が現実問題になっていた。
このため、一人っ子政策は2002年以降、地域によって緩和が始まり、夫婦の双方が一人っ子の場合、第2子をもうけることが認められるようになった。そして、事実上の「二人っ子政策」ともいえる今回の「一人っ子政策」緩和は、強制中絶の中止を求めてきた国際人権団体にとっては朗報だ。
しかし、世界にとって本当に歓迎すべきニュースなのかは疑わしい。
英国では粉ミルク販売規制
先日のエントリー「母乳で育てれば3万円の商品券という英国の試み」に対し、BLOGOSで記事を読んだMain Endoさんがこんな意見を下さった。
粉ミルクと言えば、最近イギリスで、中国人による粉ミルクの買い占めが度を過ぎて、一人が一度に買える数を制限する店が出て来て話題沸騰しましたね。中国では海外製の粉ミルクが人気なので、大量買いして本国に送る人が多発したらしい。
私も日本帰国となると、中国人の知人がしきりに「粉ミルクお土産にイイから買ってけ」と薦めて来ます(笑)。しかも中国ではお年寄りが滋養強壮剤として飲むらしい。
英メディアの報道をチェックすると、世界各地で中国人による粉ミルクの買い占めが発生し、「1人つき1日2缶まで」などという割り当て販売が目立ち始めているという。
「三鹿集団」粉ミルク事件
2008年に中国で「三鹿集団」が販売した粉ミルクに有機化合物メラミンが混入され、腎不全で乳児6人が死亡、推定30万人が腎臓結石を発症するという毒粉ミルク事件が起きた。
この事件をきっかけに海外で安全な粉ミルクを買い求める中国人消費者、観光客が増えた。しかし、粉ミルク買い占めは、今回の「二人っ子政策」を先取りした動きではなかったかと思えてくる。
消費市場調査会社ユーロモニターによると、中国の粉ミルク市場は今後4年間で倍の250億ドル(約2兆5千億円)に拡大。オランダ系金融機関ラボバンクによると、中国は今年4~6月だけで、過去1年間を合わせたより27%多い粉ミルクを購入している。
ウクライナ農地に手を伸ばす中国
ウクライナは今年、全農地の5%に当たる300万ヘクタールを50年契約で中国に提供した。この農地で生産された乳製品は優先的に中国に輸出されるという。
ドイツも今年1~5月、中国への乳製品輸出が昨年同期に比べ138%も増加した。英国では昨年から粉ミルクの販売規制が導入された。今年に入ってからはほとんどのスーパーマーケットで「消費者1人つき1日2缶まで」と粉ミルク販売が制限され、大騒ぎになっている。
英BBC放送によると、粉ミルク不足は欧州より早くアジアで始まり、香港では1人につき1日2缶までという規制を破った場合、最大禁錮2年と6万4500ドル(約645万円)の罰金が科せられるという。
明治は中国から撤退
日本の食品大手、明治は先月、中国での粉ミルク販売から撤退すると表明。2010年に日本で口蹄疫が流行、明治はオーストラリアから高い原料ミルクを輸入しなければならず、中国当局からは価格抑制を求められ、採算が取れなくなったと報じられている。
明治は中国では毒粉ミルク事件以降、代表的な海外ブランドとして人気があったが、競争激化でタオルを投げ込んだ格好だ。
ユニセフによると、母乳のみの授乳率(6カ月未満の乳児)は中国では28%。世界平均の40%を大きく下回る。このため、中国は20年までに50%まで引き上げることを目標に掲げている。
スーパーから粉ミルクが消える?
世界中から粉ミルクが買い占められる背景には、中国での毒粉ミルク事件、母乳授乳率の低さが指摘できる。事実上「二人っ子政策」が導入され、母乳授乳率が上がらなければ、世界中のスーパーから粉ミルクが消える恐れがある。
中国国家統計局などによると、2012年末の労働人口(15~59歳)は前年末比345万人減と初めてマイナスに転じた。労働人口の減少は予想より3年ぐらい早く訪れた。
中国の出生率は11年、20~29歳の女性で推定1.04。10年は全体でわずか0.88だった。人口の自然増と自然減の境目は出生率2.00超といわれており、「一人っ子政策」の転換は不可避になっていた。
しかし、事実上の「二人っ子政策」への転換がもたらす衝撃は計り知れない。
(おわり)