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【「買い恥」と「飛び恥」】福袋を買うのも恥なのか? 飛行機を利用するのが恥ならば

横山信弘経営コラムニスト
福袋を買うのは「恥」なのか?(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■「飛び恥」と「買い恥」

ふと思った。

「福袋を買うのは恥ではないのか」

と。

なぜ、そんなことを思ったかというと、「飛び恥」という言葉を聞いたからだ。

「飛び恥」とは、温暖化ガスを大量に排出する飛行機を利用するのは恥という意味のこと。英語で「フライング・シェイム」と言うらしい。発信源は、タイム誌「今年の人」にも選ばれた、環境活動家グレタ・トゥーンベリさん。

たしかにSDGs(持続可能な開発目標)の目標13が、「気候変動に具体的な対策を」である。地球温暖化のことを考えたら、我々一人一人が具体的な行動をとることが大事なのだが、はたして福袋はどうなのか。

アパレル通販サイトを運営する知人に、福袋について意見をうかがってみた。1月2日の初売りセールで、大量の福袋を用意していると言う。

「たしかに、俺もモヤモヤするものは、ある」

彼は正直に告白した。

「福袋には、在庫処分に困ったモノも詰まっているからな」

と。

「でも、けっこう魅力的なアイテムも入っているんだろ」

私がそう尋ねても、彼は首を振った。そして、

「魅力的かどうかは、買った人が決めることだ」

と力強く言った。なるほど、お客様目線の発言だ。

「リアル店舗を想像したらいい。お客様が来店して、欲しいモノは何アイテムある? 10個だと思うか? それとも20個と思うか?」

私は想像してみた。どんなにお気に入りの店に入っても、20個もないだろう。

「10個が限界かな」

そう答えると、すかさず「欲しいモノが10個って、ことだろ?」と尋ねてくる。

「と言うと?」

「欲しいモノと、似合うモノとは違う」

そう言われて、私は失笑した。似合わない4万円のジャケットを買って帰り、妻に叱られた日のことを思いだした。

■ 福袋に入っているモノは?

知人の話を聞いて、試しに推論してみた。

たとえば「5個」のアイテムが入っているアパレルブランドの福袋に、

1)何個、正規料金を支払ってでも欲しいアイテムが入っているだろうか?

2)何個、自分に似合うアイテムが入っているだろうか?

この2つの問いをしてみるのだ。1分考えても、10分考えても、答えは同じ。「0個」だ。どんなに幸運に恵まれても「1個」ぐらいだろうと私は思う。

値段が1万円だろうが、2万円だろうが、関係がない。

正規料金を支払ってでも買いたいと思えるものがない可能性が高く、かつ、自分に似合わないものばかり入っている可能性もまた高い。そんなモノたちが入った「袋」に、いったいどれぐらいの価値があるだろうか。

先述のアパレル通販の知人が、私の話を聞いて妙に納得している。

「それじゃあ、なんで福袋って売れるんだろうな」

その素朴な質問に私は答えた。

「福袋は、経験マーケティングの考えに適した商材だから」

と。

■ 経験マーケティングと福袋

「経験マーケティング? 初めて聞いた」

知人が言うので、私は簡単に解説した。

経験マーケティングとは、製品・サービスに付随する「経験」そのものをマーケティング対象として設計することだ。

わかりやすい例は、ブッフェ(バイキング)スタイルの食事だろう。たとえ口にする食事の量が多くなくとも、ブッフェというスタイル自体を楽しむことが、消費者の期待価値なのだ。

福袋もそう。

福袋を買いに行くまでのドキドキ感、ワクワク感が消費者にとっての付加価値であり、袋の中身ではない。購入までのプロセス、経験にこそ価値があるので、福袋の中に入っていたモノが期待通りでなかったとしても、多くの人は損をしたとは思わないのだ。

だが、それでいいのだろうか。

日本ブッフェ協会は、食品ロス削減の観点から「ブッフェにおける食べ残し」を減らす周知活動をはじめている。

大量消費の時代は終わったのだ。人間の物欲のままに生産され、消費し、廃棄していい社会では、なくなりつつある。

■ 福袋の問題

繰り返すが、福袋のバリューは経験だ。その購入プロセスにこそ価値がある。だから、袋の中に入っていたモノは、そのプロセスが終わった途端に、興味を持たれなくなる可能性が高い。

福袋の問題は、無形のモノにお金を払っているのに、有形の物が手元に残ってしまうことだ。

昨今は、余計なモノを所有しない、華美な装飾を敬遠する人が増えている。物欲や所有欲が人を幸せにすることはないと言われて久しい。

ということは福袋を購入する経験が終わったあとは、中身の大半が捨てられる可能性が高いということだ。

大切な資源の有効活用や、環境負荷への配慮から、「必要なモノを、必要なタイミングに、必要な分だけ」購入する動きが世界で広まっている。前述した食品ロスと同じ観点だ。

それならば、福袋のようなものを買うのは恥だ、つまりこれは「買い恥(バイイング・シェイム)」と言えるのだろうか。

「飛び恥」と同じように。

■ 福袋を買ったらどうすればいいか?

福袋を買う行為が恥ずべきことかどうかはともかく、福袋を買い、使わないモノを見つけたら、それを必要としている人に売ってはどうかと思う。

メルカリやラクマといったフリマアプリを使えばいい。ヤフオクでもいいだろう。そしてここで大事なことは、儲けようとしないことだ。

福袋は「モノ消費」のように見えて、実は「コト消費」の一種であることを忘れてはならない。

福袋を買った人は、その購入経験によって、もう十分に価値を得ている。だから必要としている人に安い値で譲ればいいのだ。そうすれば、福袋が循環型社会の一部になり、それを買うことも「恥」ではなくなるのではないか、と思う。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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