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飲食店に必要なのは時短や酒類提供規制ではなく、大声規制とCO2基準、上手なワクチンパスポートの導入法

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:ロイター/アフロ)

事実を見ようとせず、論理の声を聞かず、先例に学ぼうとしない。会社員ならすぐさま会社から放り出されそうなところだが、この国・自治体の政治家は何も検証しないまま、無為愚策を繰り返す。無為無策のほうがまだマシかもしれない。

もちろん日本政府の新型コロナウイルス対策の話である。1年半も時間があったのに、希望的観測ばかりを並べ立て、事実、科学、経験(歴史)をすべて無視した結果、8月には"8割おじさん"西浦博教授の「都内一日5000人」予測が当たりまくり(某週刊誌が「今度は8月に都の新規感染者5000人超」だって」「「8割"狼"おじさん」は怖がらせるのがお仕事特集」と揶揄するような恥ずかしい見出しを打った直後に感染者が5000人を超えたのはなんとも不見識でみっともなかった)。

立て直すには、事実を直視し、科学的な根拠に基づく対策を立て、欧米の先行事例に学ぶしかない。いまさら、なぜこんなことを書かねばならないのか、いまこそまっとうな対策を打たなければならないのに。

という書き出しの原稿を8月上旬に書いて、他の業務にかまけてそのまま下書きに寝かせてしまっていた。

その後デルタ株が蔓延、五輪中ほぼ無言状態だった政府が何の検証作業もせず、新たな施策も提示しないまま、緊急事態宣言を9月12日まで延長→9月一杯までと次々に延長。そして10月1日から全解除というステージに差し掛かっている。ここまでが無為無策。

そして本日9月29日の時点で、例によってまたも「酒類提供は20時まで」「営業時間は21時まで」とかいう意味不明な策が展開されそうな状況だ。

いつまでも飲食店と酒と専門家が悪者にされていて、為政者の覚悟のなさと頭の悪さにぐったりしてしまう。

一人の知事の思いつきが首都や国家を動かしてしまった

飲食店がいま取るべき対策の前に少し前段を整理しておきたい。

酒については、大阪の吉村知事の思いつきからスタートしたと記憶している。今年4月、3度めの緊急事態宣言に際してのことだ。

吉村洋文大阪府知事は宣言が発令された場合、大規模な遊興施設や商業施設などに休業を要請する考えだ。飲食店には休業や酒類の提供停止を求める案を国に示した。

大阪知事、大規模施設への休業要請方針 緊急事態宣言で(4月20日付日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF203DF0Q1A420C2000000/

これに国や小池百合子都知事が飛びついた。それまでは「酒類を提供する店に対する休業・時短営業要請」だったが、「何か新しい対策をやってる感」が必要と考えたのだろう。

本来、悪とされていたのは「喧騒」だったはずが「酒」自体が悪者にされた。店内に大音量のBGMが流れ、叫ぶような大声で話す店を対象とするなら理解できるが、大人が一人で楽しむオーセンティックなバーや少人数で静かに楽しむフレンチレストランまでもが一緒くたにされてしまった。

なんの根拠もないたった一人のイソジン首長の思いつきに、首都の知事と国家までが乗っかるという、信じられない展開。開いた口がふさがらなかった。

メディアが責めるべきは尾身氏ではなく無策の政治

今年7月15日に行われた、参院内閣委員会閉会中審査では政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が次のように発言して炎上した。

コロナ疲れ、緊急事態への慣れ、飲食店からは『限界だ』という声も。人々の行動制限だけに頼るという時代はもう終わりつつある。

ごく当たり前の話をしているのに、SNSで「1年遅い」と叩かれ、7月21日には尾身氏が理事長をつとめる独立行政法人「地域医療機能推進機構」のガラスが割られるという被害にまで遭ってしまった。

「1年遅い」と大声で叫んで叩いていた方は何の思い違いをしていたのか。2020年11月9日の政府分科会の会見で尾身会長のコメントを以下に記しておく。

「飲食店なんかの寒いとこでは、CO2の濃度を測るなんてことで換気の、ちょっとCO2が上がれば、ちょっと寒いんだけど、少し空気を入れ替えて、その時ちょっと温度を上げておくんですかね」

動画はこちら

https://youtu.be/k55jvP4e0BY

尾身氏は、昨年の11月の時点で飲食店が取るべき対策について説明していた。課題はこうしたまともな話を取り上げないメディアと、地味な話を好まない視聴者にある。

なのに今年の7月17日、テレビで元厚労省医系技官の医師から「(尾身会長は)西村経済再生相の横にいてずっと飲食店ばかりに命令して、医療機関には何も命令してこなかった。現在は重症者が減り、高齢者3600万人の大部分にワクチン接種が済んでいるので、もう平常生活に戻してもいい」と言いがかりをつけられた。

軽はずみなバカをメディアに呼ぶ番組も番組だが、二次拡散するメディアも真に受ける視聴者もどうかと思う。そもそも尾身氏に命令する権限などないし、命令したことなど一度もなかった。少し検証すればわかる間違いを大声で垂れ流して数字を取ろうとする。視聴者である私たちのチャネル選択も含めて、変わらなければならない。

ちなみにその7月17日に発表された全国の感染者数は3886人。重症者数は378人。それからひと月後、8月20日には国内の感染者は過去最高の2万5851人になり、8月29日には入院・加療を要する者が23万1596人に。9月3日に重症者は2223人に達してしまった。

五輪目前の7月に平常生活に戻していたら、この数がどこまで膨れ上がったか、想像もつかない。

いま飲食店が本当に取るべき施策・対策

さて、ここまではいったんの総括である。ともあれ、私たちはとりあえずの"平常生活"を取り戻せそうなところまで下山してきた。

幸い、2か月に渡る緊急事態宣言の間にワクチン接種が進んだ。2か月前には30%にも届かなかったワクチン接種完了率が、10月1日頃には60%に手が届くところまで来た。9月27日時点で感染者数はピーク時の20分の1以下の1128人まで減り、入院・加療を要する者も3万3850人と桁が一桁下がってくれた。

詳細は今後の検証を待たなければならないし、現在6割足らずのワクチン接種完了率もポルトガル(同84.1%)やUAE(83.7%)くらいまで上がってくれることを切に願いつつではあるが、ともあれ10月1日から酒類を提供する飲食店も堂々と看板を灯すことができる。

認証基準はCO2ベースに

話を飲食店に課すべき対策に戻す。東京都の「酒類提供20時まで」「営業は21時まで」という時短営業が実際に奏功したか、なぜ検証しないのか。緊急事態宣言を解除して人があふれるなか営業時間を短縮すれば、当然密になる。JRの間引き運転で痛い目に遭ったのをもう忘れたのだろうか。

上記で尾身氏が言っていたように「CO2の濃度を測る」「空気を入れ替え」「温度を上げ」る店を後押しするような科学的、かつ可視化できるような判定基準にするべきだし、店側も法的根拠の曖昧な都側に押し付けられた基準だけに縛られないほうがいい。

CO2測定器は量販店やネット通販で数千円~1万円台といったところ。まだ在庫も潤沢なので、国や都の言うことに粛々と聞いたふりをしながらぜひ導入をご検討いただきたい。

ちなみに都の認証の話で以下の記事で「認証店が都内の8割」とあったが、緊急事態宣言下で店舗を閉めていた店には巡回も来ていないため、認証を受けられなかったケースがある。ここについてはぜひ柔軟な対応をお願いしたい。気の利いた対応ひとつで、一気に評価が変わりますよ。きっと……。

東京都、認証店での酒類提供容認へ 都内飲食店の8割

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC27AFG0X20C21A9000000/

規制すべきは酒ではなくデシベル

そしてここまで話題にほとんど上らないのが不思議な「デシベル」規制も必要だ。会話、特に大声では飛沫やマイクロ飛沫がよく飛ぶ。この状態を避けるために、「黙食」「マスク食」「アクリル板」などが検討されてきた。だが現実として黙食には耐えられず、食事中にマスクを再着用し忘れ、アクリル板ごしだと声が届かない。外食を楽しもうというときに、そこまで神経質ではいられない。

ならばシンプルに考えて店内に「騒音規制」をすればいい。そもそもレストランで大声を張り上げるという行為はホメられるような行為ではないし、事前にその旨をWebや店頭に掲出し、BGMのボリュームを絞れば声を張る人は少なくなり、全体としてのリスクは減るはず。告知をしておくことで、店からの"お願い"もしやすくなる。

実際山梨県は「やまなしグリーン・ゾーン」認証施設において店内BGM音量の目安を45dB以下とするよう求めているし、扱いの悩ましいカラオケについても「歌唱場所を換気扇の下など風下への固定や空気清浄機に向かっての歌唱など飛沫拡散防止を徹底すること」を求めている。考えられる施策はまだまだあるはずだ。

ワクチンパスポートの早期導入について

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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