「1試合ごとにできることが増える」。今季2勝目のC大阪堺レディース、好転のきっかけを作った3つの要素
【1部昇格1年目の葛藤】
ロシアW杯の熱戦の余韻が続く中、女子サッカーも今月から各地で大会が行われる。
開催まで1年を切ったフランス女子W杯に向けてチーム作りを進めるなでしこジャパンは、26日からアメリカで開催される4カ国対抗戦、トーナメント・オブ・ネーションズに参加が決まっている。そして、U-20日本女子代表は、フランスで8月5日に開幕するU-20女子W杯に出場。それに伴い、国内リーグは、21日(土)のリーグ杯決勝を区切りに、約2ヶ月間の中断期間に突入する。
14日(土)から15日(日)にかけて行われたリーグ杯は、すでに日テレ・ベレーザ(ベレーザ)とINAC神戸レオネッサ(INAC)が決勝進出を決めていたが、17日にW杯のメンバー発表を控えていたU-20代表候補の選手たちにとっては、最後のアピールの場でもあった。
ベレーザ、INACと並んで同代表に多くの候補を送り出してきたのが、セレッソ大阪堺レディース(セレッソ)だ。今年、1部昇格初年度のセレッソは、ここまでリーグ戦は1勝1分7敗(9位)、リーグ杯は2分5敗(予選敗退)と苦戦を強いられてきたが、15日の試合では、AC長野パルセイロ・レディース(長野)に2-1で勝利した。0-0で迎えた試合終盤、立て続けに2点を奪取。その後に1点を返されたものの逃げ切り、今シーズン2勝目を飾っている。
長野はリーグ杯敗退が決まっている状況に加えて、台風の影響で12日に代替開催されたINAC戦を挟んで中2日の連戦だったため、この試合では主力選手を数名、温存していた。しかし、それを差し引いても、セレッソにとって重要な一勝だったことは間違いない。試合後、弾けんばかりの笑顔でハイタッチを交わす選手たちの表情が物語っていた。
セレッソはメンバーの8割以上が10代で、全体の平均年齢は18.5歳。波に乗った時の勢いや、スタミナは、大きな武器だ。その一方で、1部で戦う上で壁となったのが、技術やスピード、パワーなど、2部とは異なるプレー強度だった。たとえば、左サイドバックのDF北村菜々美は、守備面の難しさについて、
「(1部は)足下がうまい選手が多いので、飛び込んでかわされてしまったり、少しでもタイミングがずれたら、守備のスライドが全部ずれてやられてしまう」(北村/5月)
と話していた。そして、昨年の2部得点王で、セレッソの攻撃を牽引するFW宝田沙織は、
「技術とポジショニングが良くて、シュートを打てる機会がなかなかない」(宝田/6月)
と、点を取る難しさを口にした。17試合で14得点39失点という数字も、2人の言葉を裏付けている。
だが、6月末から7月にかけて、セレッソの成績は好転の気配を見せている。
6月30日のマイナビベガルタ仙台レディース戦を0-0で引き分けると、7月7日に行われたINAC戦では敗れたものの、一時は逆転して2-3の接戦を演じ、その流れを長野戦の勝利につなげた。
【好転のきっかけは?】
セレッソが良い流れで中断期間を迎えられた理由を紐解くと、3つのポイントが見えてくる。
まず、1部のプレー強度への対応や精神面の「慣れ」だ。チームを率いる竹花友也監督は、長野戦後、守備が安定してきたことを強調した。
「立ち上がりからプレスをかけて、気持ちの入り方の違いを最初から相手に見せていこう、と。その守備が、先週のINAC戦(●2-3)ぐらいから出来るようになってきました。2試合続けて先制できていることも、(守備を)最後まで続けられた理由だと思います」(竹花監督)
また、各選手がそれぞれのポジションでトライアンドエラーを繰り返し、1部のスピード感やコンタクトの強さに慣れてきたこともプラス要因だろう。「常に、前からアグレッシブに厳しくボールを奪いにいっています」と、守備でも高い貢献度を見せるFW矢形海優を中心に、高い位置でボールを奪ってショートカウンターに持ち込む、得意の形が増えてきた。
そして、2つ目のポイントが、メンバーを固定しないことによる「戦力の底上げ」だ。
竹花監督は今シーズン、リーグ前半戦の9試合すべてで、3枚の交代枠を使い切った。また、システムは試合によって4-4-2と4-5-1を使い分けており、DFライン以外のポジションは、あまり固定していない。
「1部残留」という現実的な目標を設定しつつも、「いずれ、1部で常勝軍団になれるような底上げも必要だと考えて選手を起用しています」(竹花監督/第9節浦和戦後)と、ベンチも含めた18人全員で戦い抜くチームコンセプトを貫いてきた。その継続が、現在のチームの土台を作った。
中でも、攻守において欠かせない存在が、左サイドバックのDF北村菜々美だ。スピードを生かしたドリブルや連係プレーを得意としており、ここまで2ゴール3アシストを記録している。長野戦では、前半21分に左サイドからドリブルで大胆にカットインして放ったミドルシュートが、攻撃意識の高さを感じさせた。北村はU-20W杯のメンバーに選ばれており、今後、ブレイクを予感させる選手だ。
また、右サイドバックでコンスタントに試合に出ている15歳のDF善積わらいは、試合を重ねるごとにプレーの力強さが増しており、指揮官も「彼女は1部でも1対1ではほぼ負けていない」と、その成長に目を細める。
そして、チームの流れを好転させたもう一つの重要なポイントが「敗戦の捉え方」だ。
初めて3連敗を喫した第9節(6月3日)の浦和戦の後でさえ、チームの雰囲気や選手たちの表情から、悲壮感は感じられなかった。むしろ、目の前の現実を受け入れて、早く切り替えようとするポジティブさが見受けられた。その理由は、長野戦後の北村の言葉に象徴されていた。
「負けても、1試合ごとにできることが増えたり、自分たちの時間が増えている実感があるので、雰囲気は悪くならないんです。(私も)以前はミスをした後に落ち込んでいたんですが、今年はすぐに切り替えてやれるようになりました」(北村)
そのポジティブさは、セレッソの最大の強みかもしれない。他のチームのように、勝負どころを知り尽くしたベテランはいないが、一人ひとりが自分の伸びしろを自覚し、失敗はすべて糧にしてきた。
セレッソは長野から初勝利を得たが、今シーズン、ベストメンバーの長野に対しては2敗している。成長の真価が問われるのは、第11節(9/15)のホーム戦になるだろう。1部残留という目標を実現するためにも、後半戦は正念場が続く。
「セレッソは毎年、夏以降の後半戦で成績が伸びる傾向があります。負けてもブレずに、練習から走りこんでいきます」(第9節浦和戦後)
キャプテン、MF林穂之香の言葉だ。20歳の司令塔は、8月のU-20W杯でも、同代表の主力としてチームをけん引する。
竹花監督は、これから2ヶ月の中断期間にしっかりと走り込んで、後半戦で巻き返すことを明言した。苦しんだ前半戦を糧に、セレッソがその豊かな伸びしろをどのように花開かせるのか、楽しみにしたい。