Yahoo!ニュース

「米国の感染者は最大2億1400万人、死者170万人」「病床が足りない」米CDCが描く悪夢とは

木村正人在英国際ジャーナリスト
新型ウイルス肺炎が世界で流行 武漢市の病院(写真:ロイター/アフロ)

「100万人に人工呼吸器のサポートが必要になる」

[ロンドン発]新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行を受け、アメリカのドナルド・トランプ大統領は13日、最大で500億ドル(約5兆円)の財政出動を可能にする国家非常事態を宣言しました。

米ニューヨーク・タイムズが、まだ公開されていない米疾病予防管理センター(CDC)の4つのシナリオを報じています。もちろんこの数字は今とっている対策によって変わってきます。ポイントを拾い出してみました。

・感染者1億6000万人から2億1400万人(米人口3億2720万人なので罹患率は48.9%から65.4%)

・死者20万人から170万人(人口に対する死亡率は0.06%から0.52%)

・入院が必要な患者240万~2100万人(アメリカのスタフッ付き病院ベッド数は92万5000床、その10分の1未満が重篤患者用)

・米CDCによると季節性インフルエンザで今シーズン2万~5万人が死亡

ネブラスカ大学医療センターの感染症・公衆衛生専門家ジェームズ・ローラー氏は米CDCのシナリオとは別にニューヨーク・タイムズ紙に新型コロナウイルスは季節性インフルエンザの5~10倍の影響を引き起こす可能性が強いと証言しています。

感染者9600万人。入院患者は500万人。このうち200万人に集中治療室で治療を受け、この約半分に人工呼吸器のサポートが必要になるそうです。控え目にみても死者は48万人(人口に対する死亡率は0.15%)と推定しています。

CDCシナリオを日本に当てはめてみると

米CDCシナリオをそのまま日本に当てはめてみると次のようになります。

・人口1億2680万人

・感染者6200万人から8230万人

・死者7万7500人から65万8800人

・入院が必要な患者93万~814万人

しかし、日本では手洗いや人混みを避けるなど個人的な自衛策で季節性インフルエンザの流行のピークは昨年の6割減、推計受診者数を見ても今シーズンは昨シーズンに比べて37%減となっています。

専門家会議の見解(3月9日)によると「1人の感染者から2次感染させた平均の数は概ね1程度で推移」「日本では死亡者数は大きく増えていない」そうです。

欧州で感染者が激増し始め、世界保健機関(WHO)も「欧州は今やパンデミック(世界的大流行)のエピセンター(発生源)になった」と表明。

大規模集会は中止しないと表明していたイギリス政府も来週末から大規模集会を中止、自己隔離などのルールを破った感染者は警察が逮捕できるようになりました。サッカーのイングランド・プレミアリーグはこれで今季は中断される恐れが出てきました。

いくらスタジアムは風通しが良くても、スタジアムに行くまでの地下鉄や電車、バスが混雑するので朝令暮改とはいうものの賢明な措置だと思います。

スペインかぜの教訓

同紙によると、CDCの推定では1918年のスペインかぜではアメリカ人の67万5000人が死亡。新型コロナウイルスはスペインかぜと同じように感染し症状はやや軽度だそうです。

スペインかぜが流行した当時、米国公衆衛生局の外科医ルパート・ブルーは180人の保健官と44の検疫所を指揮しました。地域社会が流行の脅威にさらされている場合、「全ての集会場所を閉鎖する」よう促しました。

セントルイス市長はすぐにそのアドバイスに従い、数週間閉幕しました。対照的にフィラデルフィアは対策を講じず、パレードを実施。わずか72時間後、フィラデルフィアの31の病院はすべて満床となり、週の終わりまでに2600人が死亡する事態に陥りました。

出所)米国科学アカデミー紀要
出所)米国科学アカデミー紀要

セントルイスの死亡率(上のグラフで点線)のピークはフィラデルフィア(実線)の約8分の1に過ぎませんでした。流行期間の累積死者の割合を比べても10万人当たりセントルイスは347人、フィラデルフィアは719人と倍以上の開きが出ました。

中国湖北省武漢市やイタリア北部で起きたのは新型コロナウイルスに感染して重症・重篤化した患者の“津波”です。どんな優れた医療スタッフや最先端の施設・機器を持っていても一気に押し寄せてくる“津波”には勝てません。

だから流行のピークを後ずらししてピークを医療資源のキャパシティー内に抑える必要があります。そしてワクチンや治療薬ができるのを待つしかありません。

それぞれ国によって新型コロナウイルスの対策は異なります。地理的な条件や気候も違うし、生活習慣や医療制度も異なるからです。新型コロナウイルスも2009~10年の新型インフルエンザ同様、日本の死亡率が世界の中でも少なくなる可能性はあると筆者はみています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事