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タバコの「ニコチン」は、なぜ「喘息」を引き起こすのか

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(提供:イメージマート)

 タバコ製品には、依存性薬物であるニコチンが含まれている。ニコチンには中毒性があり、タバコを止められなくなるのはそのせいだ。ニコチン自体の害悪について、これまであまり議論にされてこなかったが、最近の研究からニコチンが喘息を引き起こすメカニズムの一端がわかってきた。

タバコと喘息の関係とは

 ニコチンによる中毒作用は、タバコの恒常的な反復使用と長期使用を喫煙者に強いる。喫煙者は、タバコに含まれる有害物質を朝起きてから寝るまで間歇的に身体へ入れ、それを数年から数十年という長期にわたって習慣的に継続する。

 タバコに含まれるニコチンには、これまでそれほど有害な健康影響はないとされてきた。そのため、欧米の若い世代に広まっている電子タバコや葉タバコを使った加熱式タバコにもニコチンが含まれ、喫煙者をこれらの新型タバコを含むタバコ製品から逃れられなくしている。

 以前から、タバコと喘息の発症には、受動喫煙を含めて強い因果関係があることがわかっている(※1)。特に、保護者の喫煙は子どもの喘息に関係している(※2)。

ニコチン性アセチルコリン受容体とは

 最近、米国のメイヨークリニックなどの研究グループが、喘息の発症のメカニズムにタバコのニコチンが関与していることを示唆する論文が出された(※3)。それによるとニコチンは、喘息の発症に重要な役割をしている気道の平滑筋(Airway Smooth Muscle、ASM)細胞のミトコンドリアに作用し、平滑筋の収縮の引き金になって喘息が起きる原因の一つになっていると指摘している。

 ニコチンとミトコンドリアの関係については、これまでもいくつかの研究がある(※4)。ただ、詳しいことはまだよくわかってはいないようだ。

 ところで、運動神経、交感神経、副交感神経の神経伝達物質にアセチルコリン(ACh)という物質がある。アセチルコリンの受容体をコリン作動性受容体といい、大きくニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)と5種類のムスカリン性アセチルコリン受容体に分けられる。

 ニコチンは、肺などの呼吸器や皮膚から簡単に吸収される植物性アルカロイドだ。タバコだけでなくナス科やアブラナ科などの植物にも含まれ、我々の細胞にはニコチン受容体(nAChR、ニコチン性アセチルコリン受容体)が備わっていて神経伝達などをしている。

 植物由来のニコチンは、本来ならアセチルコリンがニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、中枢神経、交感神経、副交感神経を刺激してこれらの神経を興奮させる。だが、ニコチンが結合すると、より強い刺激を与え、脳の報酬系に作用すると依存を引き起こす。

ニコチンとミトコンドリアの関係とは

 我々の細胞内にはミトコンドリアという器官があり、生命活動をつかさどるエネルギーを作り出すなどの役割をになっている。このミトコンドリアにもニコチン性アセチルコリン受容体があり、タバコ由来の強いニコチンが作用するとミトコンドリアの働きに悪影響を引き起こす危険性があるかもしれない。

 前述したメイヨークリニックなどの研究グループは、ニコチンがニコチン性アセチルコリン受容体に作用すると筋肉を収縮させるカルシウムチャネル(Ca2+)を破壊し、気道の平滑筋のミトコンドリアの機能不全から細胞死(アポトーシス)を引き起こすのでは、という仮説を立てた。

 そして、実験室内で喘息患者や喘息ではないヒト、喫煙者の気道の平滑筋細胞にニコチンを作用させ、その影響を調べた。その結果、細胞のカルシウムチャネルの反応がニコチンに強く反応し、細胞外フラックスアナライザー(Cellular Flux Analyzer)という細胞とミトコンドリアの状態を計測する分析を用いたところ、ニコチンによる悪影響があらわれたという。

 同研究グループは、タバコ由来のニコチンは喘息を悪化させ、このメカニズムを逆に利用すれば喘息治療に役立てることができるかもしれないと述べている。

※1-1:Megan Stapleton, et al., "Smoking and Asthma" Journal of the American Board of Family Medicine, Vol.24, Issue3, May-June, 2011

※1-2:Agnieszka Strzelak, et al., "Tobacco Smoke Induces and Alters Immune Responses in the Lung Triggering Inflammation, Allergy, Asthma and Other Lung Diseases: A Mechanistic Review" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.15(5), 1033, 21, May, 2018

※1-3:Liza Bronner Murrison, et al., "Environmental exposures and mechanisms in allergy and asthma development" The Journal of Clinical Investigation, Vol.129(4), 1504–1515, 1, April, 2019

※2:Wojciech Feleszko, et al., "Parental tobacco smoking is associated with augmented IL-13 secretion in children with allergic asthma" Journal of Allergy and Clinical Immunology, Vol.117, Issue1, 97-102, January, 2006

※3:Niyati A. Borkar, et al., "Nicotine Affects Mitochondrial Structure and Function in Human Airway Smooth Muscle Cells" American Journal of Physiology, Lung Cellular and Molecular Physiology, doi.org/10.1152/ajplung.00158.2023, 11, November, 2023

※4-1:Kateryna Uspenska, et al., "Nicotine facilitates nicotinic acetylcholine receptor targeting to mitochondria but makes them less susceptible to selective ligands" Neuroscience Letters, Vol.656, 43-50, 24, August, 2017

※4−2:Dominika Malinska, et al., "Mitochondria as a possible target for nicotine action" Journal of Bioenergetics and Biomembranes, Vol.51, 259-276, 13, June, 2019

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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