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急性大動脈解離と急死〜漫画家・三浦建太郎さんの死因から考える

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
大動脈の解離の致死率は高い(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

死因は「大動脈解離」

 まだお若いのに…。突然の訃報に言葉が出ない。

漫画『ベルセルク』などを執筆した漫画家の三浦建太郎さんが5月6日午後2時48分、急性大動脈解離のため亡くなった。54歳。20日、白泉社が公式サイトで訃報を伝えた。

漫画家・三浦建太郎さんが死去 54歳 『ベルセルク』『ドゥルアンキ』など

訃報 三浦建太郎先生が逝去されました

 心よりご冥福をお祈りする。

 著名人の死因を詮索することは忌むべきこととされているが、大動脈解離という公表された死因について知りたい方もいると思われるので、ここでは、拙書「病理医が明かす 死因のホント」などをもとに、大動脈解離によりどうして人が亡くなるのかを病理学的に解説する。三浦さんのことを述べているわけではない点はご理解頂きたい。

 より詳細な医学的解説は以下のサイトなどを参照されたい。

国立循環器病研究センター 大動脈瘤と大動脈解離

血管の壁が剥がれる

 大動脈解離は、心臓から出発し、お腹まで達する大きな血管である大動脈の壁が真ん中で剥がれる病気だ。

 本来大動脈はしなやかで、内側を流れる血液の圧力を柔軟に受け止める。簡単には剥がれるものではない。しかし、高血圧、動脈硬化により血管の壁に傷がつき、硬くなると、圧力に耐えられなくなる。これが原因で、内側から剥がれてしまうことがあるのだ。

 厚生労働省の人口動態統計によれば、2019年に大動脈解離で亡くなった人は、男性4933人、女性6069人と女性がやや多い。発症数は高齢になるほど多いが、40代、50代で発症することもある。また、生まれつき血管の壁が脆くなる「マルファン症候群」などの遺伝性の病気では、20代での発症もある。

 症状は胸や背中に激痛を感じることが多い。ほとんどは何の前触れもないまま発症する。

亡くなるケースは?

 剥がれた部位には血液が流れ込む。この段階で止まっていれば命に別状はないが、半数程度は発症から48時間以内に亡くなる。

 それは以下のようなものだ。

  1. 血液が流れ込み、薄くなった血管の壁が、血液の圧力に耐えられなくなり、血管が破裂し、大出血する
  2. 剥がれた血管が心臓に達し、心臓の周りが血液で充満し、心臓が拡張できなくなる(心タンポナーデ
  3. 剥がれた血管により、重要臓器への血液の流れが途絶え、重要臓器が死んでしまう

 大動脈解離がどの部位で発生したか、解離した血管の範囲がどれくらいかによっても致死率は異なる。

救命法は?

 研修医の時に心臓血管外科で研修したことがあり、治療を経験したことがある。

 一般的には解離した部分を人工血管に置き換える、あるいは血管の内側からステントグラフトというものを入れて、血液の通り道を確保するといった治療を行う。軽症の場合は様子を見ながら治療法を決めることもあるが、できる限り治療を開始するのが原則だ。

病理医からのメッセージ

 私たち病理医は、大動脈解離で亡くなった患者さんを多く解剖させていただく。「マルファン症候群」などの遺伝性の病気以外では、大動脈に「粥腫」と呼ばれる凸凹ができ、硬く脆くなっている。脆くなった血管に大動脈解離が発生した血管は以下のサイトなどで見ることができる。医学的な写真であり、閲覧にはご注意頂きたい。

Aortic Dissection

 大動脈解離を防ぐためには、日ごろ血管が健康になる生活をするしかない。つまり、生活習慣、つまり食生活に注意し、たばこはやめ、運動をするなど、「メタボリック症候群」を防ぐ生活を送るしかない。

 血管が健康な人は長生きするというのが、私たち病理医の実感なのだ。

 結局、常識的なことであり、なんだそんなことか、と思われたことと思う。しかし、「こうすれば健康だ!」などという安易な方法などない。もしそんなものがあれば疑ってかかるべきだ。

 血管に異常が出るまでに長い時間がかかる。多くの場合、長い生活習慣の蓄積の先に大動脈解離による死がある。遠い未来のために今行動できる人は多くない。常識的なことを行うことは簡単ではないが、明日の健康のために一歩踏み出そう。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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