映画『シン・仮面ライダー』の進化:デジタル技術がどう映画業界を変えるのか
KNNポール神田です。
庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』は、2023年3月18日土に劇場公開になったばかりの作品だが、2023年7月21日金よりAmazonPrimeVideoで公開となった。
シン・仮面ライダー プライム会員特典
https://www.amazon.co.jp/dp/B0C54MDVPB/ref=dvm_jp_pv_sl_go_200_mkw_sd1xHRgVu-dc_pcrid_665981812046
https://www.shin-kamen-rider.jp/
劇場公開後からなんと4ヶ月後というスピードネット配信となる。従来であれば、DVDなどの発売が半年後くらいからであったが、すでにDVDのパッケージよりも速くストリーミング配信がなされるようになっている。
同時に、現在は、庵野秀明監督の大阪芸術大学時代の『DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン』1983年も視聴できる。40年前の庵野監督に特撮技術の申し子であったと確信できる。
他にも、同監督のシリーズで、『シン・ゴジラ』2016年、『シン・ウルトラマン』2022年、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』2021年が視聴できる。新旧の庵野監督の仕事ぶりが、AmazonPrimeの年会費だけでこれらの作品が毎日のように堪能できてしまう。
■50年にわたり、愛されているキャラクター群
初代の『仮面ライダー』が公開されたのは、1971年。仮面ライダー生誕50周年企画作品のひとつとして公開された。現代にいたるまで日曜日の朝の『仮面ライダー』は子どもの夢とイケメン男子で、女性陣のココロを捉えてきている。現在は『仮面ライダーギーツ』がテレビ朝日毎週日曜日9:00で放映されている。
ウルトラマン世代と同様に、仮面ライダーもそれぞれの年代で60代を頂点として、現在にいたるまでに、それぞれの年代で男子も女子も夢中になったキャラクターが存在している。なので劇場映画としての『映画化』『フィジカルメディア』としてのBDやDVD化、BSや地上波での『オンエアー』化、『ストリーミングメディア』としてのネット配信化などのビジネスモデルで時間をかけて投資コストを回収できるようになっている。番組タイアップの玩具やファッション、ゲームなどもある。
■長い年月で変わってきた映画製作のスタイル
それと同時にこの50年の間で映画製作のスタイルも大きく変わってきた…。テレビの子供向けのシリーズが始まり、スポンサーとのタイアップなどで、原作の権利と映画会社、テレビ局などで経済の分配が成立している。そして、現在のような映画も、『製作委員会』スタイルでリスクヘッジが興行案件から、ステークホルダーでの出資案件へと変化してきている。
休日、朝の仮面ライダーをたまに見ると、撮影は普通の公園で、エフェクトはすべて、AdobeAfterEffectsの機能で見たことがあるような煙や爆発を見ることができ、コストカットが極限にまで行われているのがよくわかる。イケメンお兄さんもすべてブレイク前の青田買いの俳優さんたちだ。
■庵野監督版『仮面ライダー』との違い 10カメ以上のマルチカメラ撮影
『シン・仮面ライダー』を見て、冒頭の追跡シーンにCGが使われているとはわかっていても、リアリティを感じる演出と、カメラにまで、血が飛び散る構図だった。かつての深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズに観られた『ヨリヨリの画角』の演出に圧倒される。いやむしろ画面に収まっていないほどのヨリの映像だ。そして、そのスピード感、しかもカメラの台数が圧倒的に多い。
■編集には『Adobe Premire Pro』のマルチカメラ編集が使われていた
30数年前に、筆者がハリウッドの映画スタジオを歴訪していた頃の、バーバンクのスタジオにはAVID社のメディアコンポーザーのシステムが当時1000万円単位で何台も鎮座していた。
テレビ映画の場合は、フィルムカメラで撮影しながらも、役者さんが、同じ演技のテイクを最低3度は行い、カメラがアングルを変えてマルチカメラの撮影している。
それを現像し、最初は、簡易の軽いデータでデジタルキャプチャーをしてから、ノンリニア編集で仕上げるということで、フィルムカメラのダウンサイジング化を行っていた。するとカメラは1台でマルチカメラを実現できる。
ノンリニア編集の良さはその作業を何パターンでも作ることができたことだ。オフライン編集だけであれば、EDLファイルの書き出しさえできれば良いので高価なスタジオでもなくて、自宅のパソコンでも可能になっていたのだ。
あれから十数年、すでにプロもYouTuberもアマチュアも、同じ『Adobe Premire Pro』で10数台の『マルチカメラ』編集を行えるということに驚く。当然画質は4K画質以上だ。それでもiPhoneなどもカメラとして使われるのようになったので、カメラマンが入れないような場所からの撮影も可能となっている。『シン・ウルトラマン』では、演者が手持ちのiPhoneでのカメラを回したというシーンもあったので映像技術の変化に驚く。
監督が撮影したきた素材を設計図に合わせて、効果的なカットを組み合わせて作る編集作業は膨大だ。しかし、それを何度と無く、トライアンドエラーができるというのはデジタル編集の醍醐味だ。
なんといっても、現在は、YouTubeなどの普及で映像編集を生業とする人口が増えてきたので、これまで以上に映像編集のスキルも向上していきそうだ。
庵野監督が想定した以上のマルチカメラによるカットやCGとの連携が今後はAIなどの技術も併せ持って、登場してくることだろう。
そう、コンピュータによる『DX化』はオフィス業務だけではなく、映画や音楽の世界でも進み、プロとアマチュアの技術の差は『機材』ではなく『経験』と『スキル』によって変わりつつある。そして、それらが生み出す『センス』は、AIでは、まだ表現ができない部分にこそ、しばらくは価値が残りそうだ。
しかし、映像も音楽も過去のお手本があり、それらを十分に学習してきたツワモノたちが、現場でそれらに携わる権利を獲得している。そして、同時にそれに見合った報酬も得られなければならない。
デジタル化で誰もが民主的に底辺のレベルが向上するのはよいことだが、それに準じてコストが下がっては意味がない。機材のダウンサイジングが進んでも生産価値のダウンサイジングになると意味がないのは過去のメディアでも実証されてきた歴史だ。
最近のテレビの番組がつまらなくなったのは、やはりスポンサー離れやコンプライアンスというのと、編成が対峙するお茶の間での不特定多数が視聴するメディアの限界でもありそうだ。
やはり、大人のためのエンタメ作品は、規制をかけてでも、全力でふりきった映像で体験してみたいものだ。
■次回作のプロットとタイトルは決定済み!『シン・仮面ライダー 仮面之世界』
すでに続編のリップサービスがあるほど、楽しいことはない。
しかしだ。
■庵野監督は、クリストファー・ノーラン監督に挑んでほしい
『ダーク・ナイト』はクリストファー・ノーラン監督の傑作だと思う。そこには、バットマンというコミックノベルのベースがありながらも強烈な個性と映像ならではのインパクトがあった。決してノーラン作品は、『バットマン』に対してノスタルジーを感じる3部作でなくなっていた。
庵野監督には、自分の好きだった作品たちへの新たな解釈である『シン・シリーズ』へのオファーは潤沢にあるかと思う。
しかし、『シン・』を作れば作るほど、リスペクトとオマージュという伏線を断ち切れず、オリジナルのストーリーに準拠せざるを得なくなってしまう。
むしろ、それであれば、日本を代表する総合オタク監督としての過去のモチーフにとらわれるのではなく、現在の社会問題だけではなく、ノーラン監督の『インターステラー』や『インセプション』『メメント』もしくは、史実にもとづいた『ダンケルク』のようなIMAX作品にも挑んでほしいものだ。
アニメなどの新たな解釈は『シン・監修版』として、メガホンを若手に委ねて、撮らせてみてはどうだろうか? きっとそれでもノスタルジーを満足させる作品は作れると思う。しかし、100年、200年後にも、日本人として誇れる映画を作るには、歴史上の史実の問題作や、新たなプロットの作品かもしれない。庵野作品が描く、来世でも観られる映画を残してほしい。
ノーラン監督の日本未公開の『オッペンハイマー』は、日本での上映をコンプライアンス上でのマーケティングで遅らせているように思えて仕方がない。
庵野監督の描く、戦いの中にある、そこに生きてきた人間像のリアリティを持った描き方で残りの生涯を、『シン・』以外の方法へ向けてもらいたいと個人的には願っている。第二次世界大戦、敗戦国、原爆、来世に向けてのモチーフはたくさん残っていると思う。