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各地で相次ぐ提訴、新型コロナ「ワクチン」その効果と「副反応」を考える #専門家のまとめ

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 ワクチンには、接種した本人の感染や重症化はもとより、免疫がついた人が増えることで感染が拡大することを防ぐ効果があります。このため、ワクチンを接種したくてもできないような人を含め、社会全体を特定の感染症から防護する目的もあります。

 しかし、ワクチン接種は基本的には健康な人へうつため、副反応のリスクはできる限り、低くしなければなりません。各地で新型コロナウイルス感染症ワクチン(以下、新型コロナ・ワクチン)での提訴が相次いでいます。有害事象の被害はどれくらいのなのか、ワクチンのメリットとデメリットについて考えてみました。

ココがポイント

▼救済制度で認定された人の家族や後遺症患者らによる集団訴訟

コロナワクチン「情報不十分」 後遺症患者らが国提訴―東京地裁(時事通信 社会部、2024年04月17日)

▼因果関係とワクチンの安全性を確認しなかった行政の瑕疵を争う

コロナワクチン接種後に男性死亡 遺族が国や神戸市など提訴(神戸新聞、2024年6月3日)

▼後遺症に苦しむ女性が代理人の医師らとワクチンの有害性も含めて訴える

新型コロナワクチン接種後に「倦怠感」「皮膚炎」に苦しむ50代女性 国やファイザー社に損害賠償を求め提訴 ワクチンの有害性も立証へ(TBS NEWS DIG、2024年6月21日)

▼新型コロナはまだ収束してはいない

新型コロナウイルスの感染者…6週連続で増加、厚生労働省発表(ヨミドクター、2024年6月22日)

エキスパートの補足・見解

 私たちの身体には、病原体などを排除する免疫反応が備わっています。獲得免疫反応はその機能の一つですが、ワクチンはこの機能を利用して感染症を予防しようというものです。免疫反応を引き起こすため、病原体を弱毒化させたり、病原体が免疫反応を引き起こす部分だけを使ったりするのがワクチンです。

 新型コロナ・ワクチンの接種が日本国内で始まったのは2021年2月17日からです(医療従事者が先行、集団接種は2021年6月以降)。また、このワクチンは、従来のワクチンの種類(生ワクチン、不活性化ワクチンなど)とは異なったmRNAワクチン(当初は2種類とウイルスベクターワクチン1種類、mRNAはメッセンジャーリボ核酸)でした。

 このmRNAワクチンは、世界各国が新型コロナのパンデミックに苦しむ中、ゲームチェンジャーとしての役割があったとされています。そのため、開発研究者は2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

 新型コロナのウイルスは、私たちの身体の細胞へ侵入するための独自のタンパク質を持っていますが、mRNAワクチンはこのタンパク質に結合する抗体を作るための設計図です。抗体が結合すれば、ウイルスの侵入や増殖を防いだり、ウイルスの毒素を中和できる中和作用を持った中和抗体ができるというわけです。

 つまり、中和抗体の量はワクチンの効果を推定する指標になります。2種類のmRNAワクチンともに、接種によってこの中和抗体の量が感染後の回復期の患者の中和抗体の量よりも多く、かなり強い感染予防効果があるとされています。

 実際にはどうでしょうか。最近の国内の研究によると、新型コロナ・ワクチンの効果は入院リスクを下げた(アルファ/デルタ株時)という報告があります。また、海外の研究では新型コロナ・ワクチン未接種者より接種者で入院リスクが低く、接種回数が増えるほどワクチンの有効性が高くなったという報告があり、入院リスクが下がれば重症化や死亡リスクも下げられるということになります。

 ただ、弱毒化させていたり免疫反応を引き起こす部分だけを使っているとはいえ、ワクチンには身体へ有害な副反応をおよぼす危険性があります。ちなみに副作用は、医薬品による因果関係が明らかな有害事象のことを指します(ワクチンは副反応といいます)。

 では、mRNAワクチンではどうでしょうか。

 mRNAワクチンには、抗原の量をコントロールできないこと、温度管理が必要なことなど、その効果の評価や取り扱いなどに問題があることが指摘されていました。また、mRNAワクチンは獲得免疫部分であるmRNAが非常に不安定なため、脂質のカプセルに格納する必要性があり、この脂質部分に副反応を引き起こす危険性のあることも以前から危惧されていました。つまり、脂質カプセルが副反応の原因になるかもしれないとわかっていながら、パンデミックを収束させるため、やむを得ず使ってきたという側面があったわけです。

 どうしても発生してしまうワクチンの副反応で、因果関係が証明された有害事象に対し、国は予防接種法に基づいた補償制度をもうけています。当初、mRNAワクチンの副反応は、接種した部位が痛くなったり、赤くなったり、腫れたり、頭や関節などが痛くなったり、倦怠感をおぼえたりするという報告がありました。

 では、もっと重篤な副反応についてはどうでしょうか。2024年4月15日には、厚生労働省のワクチンなどの安全性を評価する合同部会が開かれ、新型コロナ・ワクチンの副反応が疑われる症例の報告などが行われました

 それによれば、新型コロナ・ワクチンについて新たな安全性の懸念はみとめられないものの、心筋炎や心膜炎の既往症がある人に対して注意し、接種後に心筋炎や心膜炎のような症状が出た場合はすみやかに医療機関を受診するように注意喚起をすることの重要性が確認されています。一方、予防接種健康被害救済制度で新型コロナ・ワクチンの副反応として認定された件数は2024年6月10日までに7458件(否認件数1795件、保留19件)となっています

 また、最近になって新型コロナ・ワクチンの副反応で死亡した人を検証する論文も出ていますが、その割合も前述した救済制度の認定数と同じ程度です。ワクチン接種によって死亡するリスクは確かにあるようですが、接種の回数と副反応の人数の割合が重要でしょう。

 生きていく中で迫られる決断や岐路に限らず、多くの医療行為と同様、ワクチンには感染予防や感染拡大の防止などのメリットと副反応などのデメリットがあります。新型コロナ・ワクチンの国内での相接種回数は、2024年4月1日までに4億3619万3341回です(4回以上接種は1億4127万7388回)

 ワクチンが多くの人を救っているのは事実です。一方で副反応で苦しんだり亡くなったりする人がいるのも事実です。個々人の考え方によりますが、メリットとデメリットを比較した場合、新型コロナ・ワクチンについてはどう考えることができるのでしょうか。

 たまに、自分は新型コロナ・ワクチンを一回も接種していないし、感染もしたことがないなどと自慢げに言う人に出会うことがあります。しかし、それは社会全体がワクチン接種して感染の拡大が抑えられていたことによる恩恵であり、副反応で苦しんでいる人や亡くなった人を傷つけるような言動でもある、と個人的に思っています。

 ところで、新型コロナ・ワクチンの全額公費による接種は、2024年3月31日で終了しています。以後、接種費用は7000円を基準とし、自治体ごとにこの金額前後の費用負担となっています(それ以上は国が補助、低所得者は基本無料)。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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