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テレビ報道時間で振り返る新型コロナ禍

境治コピーライター/メディアコンサルタント
グラフはエム・データ社作成

テレビのコロナ報道の時間をメタデータでチェック

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言から1ヶ月を超え、今はその解除が議論になっている。この数ヶ月間私たちの生活を狂わせてきたこの災厄は、そもそもどのようなプロセスで日常に覆いかぶさってきたのか。ここで振り返ってみたくなった。

コロナ情報の最大の入り口はテレビだ。在宅時間が増え、これまで以上にテレビに接する時間が増えたと思う。テレビはコロナの何をどう伝えてきたのか、それを知れば振り返りになりそうだ。

テレビ放送をテキスト化するエム・データ社は新型コロナウイルスと周辺情報をテレビがどう伝えてきたか、データを抽出分析した。その詳細は追って同社のWEBサイトでリリースとなって発表される。同社に顧問として関わる私は、一足お先に分析結果を目にしたところ非常に興味深いものだった。その概要をここで皆さんに開陳し、一緒に「コロナ生活」を振り返ってみたい。

冒頭のグラフは、今年1月から4月まで新型コロナウイルス関連の情報をテレビ局が一日何時間放送したか、集計したものだ。関東圏の地上波民放とNHKの、全番組を対象としている。

1月はちょぼちょぼだった棒グラフが2月、3月、4月と段階的に増えているのがわかるだろう。

私たちは何週間もコロナ漬け生活を送ってきた。そのプロセスを月別に見ていこう。

1月、コロナは対岸の火事だった

エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整
エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整

グラフでは、赤い棒グラフでコロナ情報の放送時間全体を表し、その中でこの時期多かった題材を折れ線グラフで描いている。

1月はそもそも棒グラフがさほど立っていない。小さすぎて読めないが、最初のコロナ報道は1月4日に2分ほど報じられた「中国で原因不明の肺炎患者」というニュース。

16日には武漢からの帰国者の感染が判明し、国内初の感染として報じられた。28日には渡航歴のない初感染が伝えられた。だが1月はまだまだ対岸の火事の印象。29日には邦人チャーター機第一便が武漢に到着と報じられ、中国にいる日本人のことを心配していた時期だった。

2月、豪華客船の話題から下旬に一気に国内感染へ

エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整
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2月になると、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号内での感染が発覚し、毎日話題になっていた。対岸の火事が、こちらの岸にやって来たものの、まだ海上で踏みとどまっていた段階だ。船の様子が徐々に伝わって来たり、船に入った医師がネットで告発した映像がワイドショーで放送された。

不気味に私たちに忍び寄っていたのが、22日・23日あたりから一気に国内感染拡大が報じられるようになった。ついに生活を脅かす存在になったのだ。グラフでも、客船から国内感染にメインの話題がシフトしたのが見てとれる。2月22日前後は、コロナ感染が日本で重大化するターニングポイントだった。

27日に突如、安倍首相が休校要請を言い出したのも今振り返ると興味深い。ここだけ不思議な「スピード感」がある。28日には北海道が独自に緊急事態を宣言。全国レベルの緊急事態宣言も話題に出て来たのがこの頃だ。

3月、五輪延期が大きな節目に

エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整
エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整

3月に入ると東京大阪で感染者が急増し、全国各地へどんどん広がっていった。危機感が募り、やきもきした日々が続いた。オリンピックはどうするんだ?そんな声も飛び交っていたが、テレビCMでは相変わらず「オリンピックキャンペーン」が放送され違和感を放っていた。

22日あたりから延期が具体的に取り沙汰され、25日にはついにオリンピック延期が正式に決まった。

25日夜には小池都知事が自粛要請会見を行った。いよいよ緊縮生活が始まるのだな。そう多くの人が覚悟した。

30日には志村けんさんが亡くなった。悲しみが広がり、私たちは本気で感染を防がねばと決意した。

4月、ようやく緊急事態宣言で自粛生活へ

エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整
エム・データ社が作成したグラフを筆者が見やすく調整

4月に入ると緊急事態宣言を求める声が出て来た。6日夜に「明日、緊急事態宣言を発令する」と安倍首相が会見で発表し、7日になって緊急事態宣言が出た。

それ以降は様々な話題が次々に伝えられ、グラフでは明確なトピックになっていない。唯一、はっきりとグラフに山となって描かれたのが岡江久美子さんの死去だ。志村けんさんの時と同じく、私たちは悲しみに打ちひしがれた。

こうして見ると、1月には対岸の火事だったのが、2月に国内の話題になり、3月にオリンピック延期が決まって4月に緊急事態宣言が出た流れがあらためて認識できた。自分自身も振り返って、あの時こうすればよかった、などと反省する点も見えて来た。一方で休校要請から緊急事態宣言まで1ヶ月以上も間があったことは不思議に感じる。

それも含めて、公式機関による「振り返り」がないのは気になる。「この2週間が山です」と何度か聞いたが、その山はどうだったのか、専門家会議と行政としての確認が必要ではないだろうか。メディアの側も山と言われた期間をチェックする報道がなくていいのか。

このデータがその一助になればと思う。エム・データの分析にはCM編もあるので、まとまり次第また記事にする予定だ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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