Yahoo!ニュース

減り続ける選挙報道、2022年の参院選ではどう変わるべきか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
日本若者協議会 change.org

減り続ける選挙報道

投票率55.93%となった2021年衆議院議員選挙。

2019年参議院議員選挙でもテレビの報道量が前回の選挙(2016年)から約3割減となっていたが、今回の衆院選でも、低下は止まらなかった。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

ジャーナリストの水島宏明氏によると、比較的熱心に選挙報道に時間を割いてきた各局の看板ニュース番組でさえも、選挙期間中にもかかわらず従来の選挙ほど選挙を扱わなかったという。

TBS「news23」は選挙期間中の平日9日間のうち、全く選挙報道を行わなかった日が4日もあり、フジテレビ「FNN Live News α」に至っては公示日を除いて選挙について報じていない。

出典:論座 TBS「news23」で選挙報道が激減! フジ「Live News α」は選挙を捨てた?(水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)
出典:論座 TBS「news23」で選挙報道が激減! フジ「Live News α」は選挙を捨てた?(水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)

また、朝日新聞によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放キー局5社の、総裁選告示・衆院選公示の日とその前後2日ずつ(土日を除く)の5日間を比べると、総裁選は29時間55分だったのに対し、衆院選は25時間52分と、一政党内の選挙よりも、国政選挙の方が報道量が少ない現状となっています。

そうした現状に対し、筆者が代表理事を務める日本若者協議会の若者の政治参加政策委員会では、署名サイトchange.orgにて、各テレビ局に対し、選挙報道の量・質の見直しを求める署名を立ち上げた。

2022年参議院選挙では質・量ともに減り続ける選挙報道を見直してください!

また、12月15日には、ジャーナリストであり、上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏、時事YouTuberのたかまつなな氏をゲストに、2021年衆院選の選挙報道を振り返りながら、2022年に開催される参院選に向けて、理想の選挙報道は何なのか、これからの選挙報道のあるべき姿について議論するイベントを開催した。

本稿では、イベントの内容を要約しながら、現状の選挙報道の問題点や、今後のあるべき姿について考察したい。

選挙報道が減り続けている背景は?

なぜ各テレビ局の選挙報道は減り続けているのか。

水島氏によると、公職選挙法への抵触や、政権によるメディアコントロールを恐れた結果、報道がつまらなくなり、視聴率が獲れない、なるべく選挙報道をしたくない心情が強い、からだという。

公職選挙法への抵触を恐れた結果、つまらないものに

「選挙報道は、面白くないというか、一定のパターンの中で放送されてしまう。例えば、党首が街頭演説をしました、注目の選挙区でこの候補とこの候補がつばぜり合いを繰り広げています、というようなパターン。

どうしてこのように一定のパターンになるかというと、選挙期間中になってしまうと、特に公職選挙法に抵触しないように、テレビ各局は意識する。公職選挙法に抵触しないように、というのは、特定の政党や特定の候補者をテレビが応援する形になってはいけない、というもの。それに対して、割と機械的に、例えば自民党の党首が15秒喋ったら、立憲民主党の党首も15秒喋る、という風に、等分で時間配分をほぼ同じようにする。そういうことに非常に注力する。その結果として、割と限られた形にしかならない。

当然ながら、視聴者からするとあんまり面白くない。ニュースだからやっているんです、という感じがバレバレ。ある意味仕方ない状況でやっているから、熱がない。選挙は有権者が決めていく非常に大事なイベントであるにもかかわらず、長くやればやるほど視聴率が取れないものだから、なるべく短くしよう、あるいはなくしちゃおうと。そうなってしまっている。」(水島氏)

「あとは、衆院選の前に、自民党総裁選が行われたことも大きい。今回、成長なのか、分配なのか、争点がありましたが、それは既に自民党の総裁選でやってしまっている。またか、と既視感が非常に強かった。」(水島氏)

政権によるメディアコントロールの強化

「もう一つは、2012年の末に、それまで民主党政権だったのに対して、また自民党政権に政権交代が行われて、安倍一強が続いていましたが、安倍政権で官房長官だった菅さんが総理大臣になって、今の岸田さんに至る。ずっと自民党政権が続いているわけですが、特に第二次安倍政権で、メディアのコントロールを強化した。民主党政権の頃までは、政策に関する報道というのはかなりあった。例えば今消費税を上げるのはどうなのか、何%が適切なのか、あるいは消費税を適用除外にするのはどういうものがいいのか、そうしたことを、テレビ各局は海外の状況を取材した上で、視聴者に提供してきていた。

ところが、安倍政権において、衆議院選挙の時にテレビ各局に対して要望書を出して、公平公正中立でなきゃいけない、街頭インタビューが恣意的に使われている、資料映像が恣意的に使われている、ということをやったがために、かなり萎縮してしまっている。

そもそも選挙報道はあんまりやらない方がいいんじゃないか、やるとしても街頭インタビューはやらない方がいいんじゃない、というように悪い方に流れてしまっている。ますます有権者からすると、面白くない、という状況になっている。伝える側も、各党の言い分をただ伝えるだけのつまらない報道番組を量産するようになってしまった。

今回もその延長で、あまりやらないという状況になってしまっている。」(水島氏)

クレームを恐れている

さらに、NHKでディレクターを担当していた時事YouTuberのたかまつなな氏は、「テレビはクレームを恐れている」という。

「テレビに感じるのは、中立とクレームをものすごく恐れている。政治的中立に報道しなきゃいけない、発言を秒単位で揃える、ということをやっている。あとは政治家からのクレーム。政権与党からの圧力もありますが、与野党問わず、クレームに対してものすごく敏感になっている。」(たかまつ氏)

低コストで無難な報道が増加

「クレームを恐れている現状」を背景に、「質」に注目すると、新しい変化が起こっている。

それは、選挙割や若者の投票率向上を目指した若者団体を取り上げる報道が増えているというものだ。

A:党首の演説や活動についての報道

B:「注目の選挙区」

C:争点について現場を取材し、当事者の声を伝える

D:争点について各党の主張を伝える

E:争点には触れず、選挙の仕組みや手続きなど選挙の周辺を伝える

F:世論調査の結果を伝える

G:生放送などで党首が議論する報道

H:選挙に関する事件などその他について

※水島氏による、ニュース番組や情報番組の報道内容の独自分類

出典:論座 TBS「news23」で選挙報道が激減! フジ「Live News α」は選挙を捨てた?(水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)
出典:論座 TBS「news23」で選挙報道が激減! フジ「Live News α」は選挙を捨てた?(水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)

「若者の投票率アップ」という誰からも批判されず、低コストで制作可能な「無難な」報道である。

しかし、そうした情報が、どの政党・候補者に投票するかという、有権者の投票判断に役立つかというと、全く役に立たない。

はたしてそれはマスメディアの仕事なのか、自問すべきだろう。

大きな課題は政策評価や実績評価の少なさ

また、報道の質に関して、たかまつ氏は減点報道から加点報道にしていかないといけないと主張する。

「量に関して、ただ量が増えればいいかというとそうではなくて、質も上げていかないといけない。今の報道で量が増えても、選挙に行きたいと思うかは疑問。あと届いていない、というのもある。こういうことってなんでやってないのっていう意見がツイッターでバズったりしていますが、新聞報道はやっている場合も多い。

内容としては、普段からやることも大事。選挙の期間中にだけ報道するのではなくて、普段からそういうコーナーをもっと増やしていかないといけない。

あとは、政治家は敵ではない。もちろん権力を監視するというのも必要ですが、何でもかんでも問い詰めればいいのかというと、そうではなくて、私たちの代表者であって、政策を実現してくれる人でもあるので、減点報道から加点報道にしていかないといけない。

選挙期間中に、自分の候補者を選ぶときに、マニフェストを読み比べよう、街頭演説聞きに行こう、公開討論会を見たりしようと言っても、有権者からするとかなりハードルが高い。国会でその人がどういう活動をしていたのか、質問主意書を確認してどういう質問をしているのか、そういうのを自分で知るのは非現実的。本当にその候補者が、何をやってきたのか、もっと手軽に知る。それは大手マスコミが人数がたくさんいるし、できることだと思うので、何を言っているのかじゃなくて、何をやってきたのか、というのももっと見える化しないといけないんじゃないかなと思っています。

あとは争点を作るということ。今は政治部の記者がすごい多くて、政局についての質問が多かったりして、例えば教育政策の質問とかがあまり出てこない。もっと現場からの課題をぶつけていく。社会部の記者は普段からそうしたことをしていると思いますが、そうした人たちは政治家にアプローチする機会が少ない。そういうメディアの構造上の問題もありますが、もっと争点を作っていくようにする。普段社会問題については各局報道していると思いますが、そうした問題が政策で解決できることがある、制度で苦しんでいる人がいる、ということまでセットで伝えるというのを、もっとやっていく必要があると思います。」(たかまつ氏)

「そうした問題意識に対して私がやったのは、室橋さんにもインタビューしましたが、この数年間で頑張った議員さんって誰なんだろう、各政党どういう若者政策やってきたんだろう、というのを主要6政党で評価した。マイナスとプラスと頑張った議員さんを紹介した。そして実際に、頑張った議員さんに、なぜそれができたのかを深く取材して、YouTubeでアップしました。あとは、各政党の党首にあたるというのをやりました。他にも争点の評価や1分でわかる政党の選び方なども行いました。その中で、一番手応えを感じたのは、政党の党首のインタビューと室橋さんへのインタビューはかなり見て頂きました。

これってマスコミの超初心だと思っていて、やってきたことを振り返る、政治家に直接あたる。ただそうしたことをしているメディアが意外と少ない。だからそうしたものが読まれたんじゃないかと思っています。」(たかまつ氏)

2021年衆議院議員選挙特設サイト(笑下村塾)

衆院選、若者目線で選ぶなら…? 主要6政党を室橋祐貴さんが分析(withnews)

本来、有権者が知りたいのは、まさに各議員が具体的にどういうことをやってきたのか、掲げている公約は本当に実現可能なのか、実現したらどういう影響があるのかといった部分だと思うが、現状の日本においてそうした報道は非常に少ない。

今回、NHKや日本テレビを中心に、ネットと連携し、候補者アンケートを自分で見てもらう、という試みも行われた。

放送の枠が限られている以上、そうした情報量の多いコンテンツはネットに上げて、各自で見てもらうというのは有効な取り組みだと思う一方で、そこに載っているのは、アンケートや、公約の説明(テレビ東京は各党党首クラスにインタビューしていたが基本的にはキャスターとの一問一答)にとどまる。

そこからさらに一歩踏み込んで、各政党/各候補者の実績や、公約の評価を行っているケースは非常に少ない。

ただこれは政治的中立性の問題に加え、きちんと各党に目を配り、ある程度公平な立場で評価できる人は非常に少ないというのも課題としては存在する。

「(政策の検証は)正直言うと、非常に難しい。これまでの政権の評価を誰がどのようにやるのかが肝になるわけですが、それをやるとクレームがきかねない。第二次安倍政権の前までは専門家、経済学者や憲法学者が出ていたんですが、それが出なくなってしまった。」(水島氏)

「また政治部の人たちは、誰と誰がどのような関係にあって、どういう発言をしているのかといった裏情報が大好き。男性のおじさん達が政治を握ってきたし、それを取材してきた記者もおじさん達に同調しながら、政局話が大好きで、それが報道の中心になってきた。日本のメディアは元々政策報道が弱かったのが、第二次安倍政権以降、ちょっと触れると抗議を受ける、色んな圧力を受けるという構造が顕著になってしまったがゆえに、メディアがかなり自粛してしまっている。」(水島氏)

「政策評価が難しい理由として、評価できる人が少ないというのはあると思います。今回、室橋さんの他に、若者政策を主要6政党で比較できそうな人がいるか考えた時に、全然名前が上がってこなかった。政府が何をしているかウォッチしている人はいっぱいいると思いますが、その間に他の5政党なり少数政党がどういう動きをしたかを、全体観を持って語れる人がいるかというと厳しい。

あとは勇気がない。責任を持つ勇気がない。マスコミの中にもまともな人はいっぱいいますが、その人達は選挙報道は早く終わってほしいと思っている。選挙報道はどうせできないと諦めに近いモードに入っている。そんなリスクではないのに、過剰にリスクだと思ってしまっているというのはあると思います。」(たかまつ氏)

社会課題解決型のポジティブ・ジャーナリズム

減点報道から加点報道への移行という意味で、注目したいのが、社会課題の解決につながるような報道のあり方だ。

その象徴だったのが、今年「貧困ジャーナリズム大賞」も受賞した、「生理の貧困」を取り扱ったNHKの取材チームである。

今年2月に「#みんなの生理」のアンケート調査を取り上げると、一気に世の中の注目を集め、その後も海外の動向など様々な観点から報道し、政治的な動向も合わさって、わずか半年程度で政府の「女性版骨太の方針」(「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」)や、各自治体で予算がつけられ、各学校等で生理用品が配られ始めている。

NHK「生理の貧困」取材チームが「貧困ジャーナリズム大賞」を受賞

こうした社会問題から始まる報道は、ファクトに基づいているためクレームも来にくい、政治的中立性にあまり左右されない、という意味で、今後の可能性としては大きいのではないだろうか。

「若い人達への共感も非常にあった報道だったと思います。なぜNHKという巨大な組織で後押しするような報道ができたのかというと、女性を中心に問題意識を持った人達でチームを作って、これは女性の問題というよりも、社会の問題なんだ、という打ち出し方をして、生理の貧困があることでどんな損失があるのか、あるいは諸外国では生理の貧困に対してどんなことをしているのか、調べ上げて、男性キャスターにも感想を言ってもらったりした。放送だけじゃなくて、それをSNSやウェブ記事でも伝えるなど、かなりマルチな展開をした。それは一つの新しい報道の形として注目されるものだと思っています。

生理の貧困て大事なんですよ、と言われたら、自民党も立憲民主党もそれはダメとは言わない。ただ背景としては、報道の現場や現場に指示を出すメディアの組織における女性が圧倒的に少ない。メディア企業における女性の割合を上げる、半分ぐらいは女性がいるようにしていかないと、なかなかメインストリームになっていかないというように感じています。」(水島氏)

例えば、現状は1時間の枠で様々なテーマを取り扱い、薄く広く報道しているが、特定のトピックに絞り、政治家と専門家・当事者を交えて、解決策を深掘りしていく、というのは面白い取り組みのように思える。

関連記事:今後若者の投票率は右肩上がりになるのではないかという希望と懸念(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

室橋祐貴の最近の記事