連ドラ「らんまん」主人公の地元にも開館、各地で誕生するおもちゃ美術館は地域文化の発信地
東京・檜原村に5万人以上が訪れた体験型美術館
東京・檜原村。島しょ部を除けば東京都内唯一の村である。村の総面積の93%が森林で、林業が地場産業だ。
森と里山に囲まれたこの場所に「檜原森のおもちゃ美術館」が開館したのは2021年11月のこと。
檜原森のおもちゃ美術館は、もともと旧北檜原小学校があった場所に設立された。元小学校からおもちゃ美術館へと移り変わり、観光客など多くの人が集まる地域拠点の場所へと生まれ変わった。
館内は檜原の森を模した豊かな森の恵みをイメージしており、木でできた野山や木のボールを流して川や滝のような空間にしたり、木でできた山菜で収穫遊びもできるようになっている。また、檜原森のおもちゃ美術館の裏側にある森をフィールドに、子ども向けのそとあそびプログラムなども提供している。
檜原森のおもちゃ美術館で使われている建物や内装、家具、おもちゃは、ほぼ檜原産の木材を使っているのが特徴で、まさに森に囲まれた美術館といえる。
そんな「檜原森のおもちゃ美術館」の来館者数が、3月6日に5万人に達した。コロナ禍中に開館した同施設、来館者のペースは当初の予想を上回り、都外から訪れる人も増えているという。
◆観光地じゃないのに 東京・檜原村のおもちゃ美術館が来館5万人達成(朝日新聞)https://www.asahi.com/articles/ASR3673FFR36UTIL001.html
おもちゃ美術館設立の背景には、地場産業の林業を再興するため、村は2014年に「檜原村トイビレッジ構想」が検討され、檜原森のおもちゃ美術館を地域の木育活動の推進拠点としながら、檜原村に点在する自然豊かな名所などエコツーリズムにつなげていく、村全体の発信拠点としての展望がある。
「おもちゃ」という芸術と出会う
「おもちゃ美術館」と名付けられた施設は、全国各地に10箇所以上存在する。
その原点である日本初のおもちゃ美術館は、1984年に中野に誕生した。その後、旧四谷第四小学校校舎を活用した施設に移転し、2008年に「東京おもちゃ美術館」として開館した。
東京おもちゃ美術館を運営するNPO法人「芸術と遊び創造協会」は60年以上続く団体で、設立時は子ども達の絵画や造形の研究、小学校や園の先生らへの指導活動に携わり、その後、優良なおもちゃ選びの指針となるよう、遊びのスペシャリストらの投票による「グッドトイ」の受賞活動を1985年から続けるなど、おもちゃや遊びを通じた様々な活動を取り組んでいる。
代表の多田千尋氏は「人間が初めて出会う芸術は、おもちゃである」という考えのもと、「芸術」と「遊び」を通じ、すべての人達(病気を持つ人、障害のある子ども、認知症のある高齢者等)に対しおもちゃは開かれたものであるという考えのもと活動している。
東京おもちゃ美術館には、過去のグッドトイ受賞作品が閲覧・体験できる展示室や、0歳から楽しめる「赤ちゃん木育ひろば」、伝統玩具や木のおもちゃ、さらに、ボードゲームなどが遊べる。国内はもとより、海外のおもちゃも収集し世界のおもちゃ文化の発信も行っている。また、おもちゃ美術館を支える「一口館長」という寄付制度を展開し、これらの取り組みや仕組みが各地のおもちゃ美術館の基礎となっている。
そして、このおもちゃ美術館の活動を支える「おもちゃ学芸員」の存在を忘れてはいけない。おもちゃ学芸員とは、同NPOが主催するおもちゃ学芸員養成講座を受講した人達で、 10代から80代まで幅広い年代が集い、「遊びの案内人」として日々おもちゃ美術館にて来館する人達に遊びの面白さや魅力を伝えている。
各地に広がるおもちゃ美術館、連ドラ主人公の出身地にも開館予定
この施設運営のノウハウをもとに、全国各地に姉妹館と呼ばれるおもちゃ美術館ネットワークができている。檜原村のおもちゃ美術館も、その姉妹館の一つだ。
多世代交流施設、森林文化の継承と木育推進、地域コミュニティの形成というおもちゃ美術館のコンセプトを基盤に、各地の自治体やNPO、地元事業者らが運営主体なり、東京おもちゃ美術館と連携しながら、各地で特色ある場作りやプログラムを提供している。
以下、いくつかの美術館について紹介してみよう。
花巻おもちゃ美術館
JR花巻駅近くの中心市街地の一角にあるマルカンビル内に開館。地元の木材店が地場のネットワークを活用し、地域材を活用した空間作りを行っている。2016年まで老舗のマルカン百貨店が営業していたビルをリノベした建物は、今や花巻を代表するまちづくりの拠点として再生した場所としても知られる。
https://www.hanamaki-toymuseum.com/
讃岐おもちゃ美術館
地元で20年以上子育て支援を行っている認定NPO「わははネット」が、地域の新たな子育て支援拠点として香川県高松市に開館。商店街の活性化事例としても知られる丸亀町商店街の中心地にあり、香川の文化や伝統工芸が詰まった空間となっている。ミュージアムショップやカフェは地域の憩いの場所となっている。
福岡おもちゃ美術館
大型ショッピングモール「ららぽーと福岡」に九州では初となるおもちゃ美術館が開館した。1300平方メートル超の館内には、同県朝倉市の100年ヒノキをふんだんに使われている。地元家具メーカーの大川家具の職人さんらの作品が並び、地元銘菓の木のおもちゃなど、地域の文化や自然を満喫できる、多世代が交流できるインクルーシブな美術館を目指している。
他にも、子ども図書館と一体化した焼津おもちゃ美術館(静岡県)や、御嶽山の麓という大自然に囲まれ、木工が盛んな長野県木曽町にある木曽おもちゃ美術館など、郷土の自然や文化と遊びが融合した交流型ミュージアムが各地に誕生している。
また、NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公である植物学者・牧野富太郎氏の出身地である高知県・佐川町に、2023年7月「さかわ木のおもちゃ美術館(仮称)」が開館する。
◆「佐川おもちゃ美術館」が2023年7月オープン!牧野博士にちなんだ木のおもちゃ、遊具で遊べます https://kokoharekochi.com/article/news/n50145/
同施設は、道の駅との一体構想で誕生するおもちゃ美術館で、「木育」に加え牧野富太郎氏にちなんだ植物のまちならではの草花を親しむ空間作りによる「植育」、自伐型林業に従事する若者たちとも連携した「職育」プログラム構想となっている。
このように、各地固有の文化を活かし、どの館もユニークで多様な場が各地に誕生しているのだ。
日本発世界に向けた「木育」推進拠点として
東京おもちゃ美術館には、各地からおもちゃ美術館開設の要望が多く寄せられているという。とはいえ、どこでもすぐに設置可能なわけではない。設立にあたっては、各地の要望を踏まえながら、自治体との連携や運営主体となる団体らと密に連携しながら数年かけて設立計画を立案し、推進している。
また、設立にあたって林野庁が推進する「ウッドスタート宣言」を行い、地域が一体となって木のおもちゃ体験や木育活動の推進、それらを支える指導者らの養成などを行う機運も活動の一つとして捉えられている。単純な子育て支援ではなく、基軸には「木育」を大切にするというコンセプトがぶれずにあるのだ。そこには、地域材を活用し森林文化を継承するとともに、日本の伝統技法や木育推進の要としてのおもちゃ美術館の役割が存在する。
子どもからお年寄りまで、障害の有無にかかわらず、誰もが親しみ、居心地の良い場をつくり出すおもちゃ美術館は、木育を基軸に他の地域資源(観光資源や伝統文化など)と接続しながら多世代交流や地域文化の発信拠点となりうるだろう。
さらに、木材への親しみや木の文化の理解を深める「木育」という考え方は、持続可能性や地域の文化資源を発掘・活用する手法として、世界に向けて発信できる可能性を秘めている。
日本発のグローバルワードの代表例として「モッタイナイ(MOTTAINAI)」がある。お母さんと乳幼児の健康管理に欠かせない「母子手帳」も、今やアジアやアフリカを中心に世界中で使われるようになった。地域材の活用や木に親しむ文化である「木育」も、特にアジア圏を中心に広がりやすい概念かもしれない。
木のある生活、木と触れあう機会に、ぜひ、お近くのおもちゃ美術館に足を運んでみてはいかがだろうか。