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地震の被害に苦しむシリア北西部でドローンによるミサイル攻撃:誰が誰を狙ったのか?

青山弘之東京外国語大学 教授
フェイスブック(@ SyriaCivilDefense)、2023年2月24日

シリアで爆撃というと、「アサド軍」(シリア軍に対する蔑称)、あるいはロシア軍が、「樽爆弾」、白リン弾などで、無辜の市民、学校や病院を意図的に、しかし無差別に行っていることがしばしば喧伝される。

そうした主張は、2月6日にトルコとシリアを襲った地震で、シリア北西部、とりわけシリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を掌握し、事実上の支配を行っているイドリブ県への支援を呼び掛ける際にも繰り返されている。

だが、トルコ・シリア地震発生後に初めて同地を爆撃したのは、シリア軍でもなければ、ロシア軍でもなく、狙われたのも無辜の市民ではなかった。

狙われたシリア北西部

シャーム解放機構に近いホワイト・ヘルメットは2月24日、イドリブ県北部のカーフ村とダイル・ハッサーン村(あるいはマシュハド・ルーヒーン村)を結ぶ街道を走行中のオートバイが無人航空機(ドローン)のミサイル攻撃を受け、乗っていた2人が死亡したと発表した。

要請を受けて消火活動にあたり、民間人を保護したというホワイト・ヘルメットは、ドローンの所属が不明だとしたうえで、死亡した2人の身元を明らかにしなかった。

だが、英国で活動する反体制組織のシリア人権監視団は、攻撃は米国が主導する有志連合よるものだ、2人は新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構のメンバーで、1人はイラク人だったと発表した。

英国に本社があるパン・アラブ・ニュース・サイトのアラビー・ジャディードも、殺害された2人のうちの1人が外国人で、アブー・イバーダ・イラーキーを名乗るフッラース・ディーン機構の司令官の1人と見られると伝えた。

また、現場で有志連合が通常使用しているミサイルの破片が発見されたと付言した。

テロ組織としてのイメージ払拭を狙うアル=カーイダ

シリア人権監視団によると、この攻撃の約7時間前、シャーム解放機構は同じ地域で、トルコの諜報機関の要請を受けて、ジハード主義者7人を拘束していた。

拘束された7人のうち、2人はアフガニスタン人で、それ以外の国籍は不明だという。

拘束されたアフガニスタン人は5年ほど前まで、アティマ村にあるアター国内避難民(IDPs)キャンプに身を寄せ、反体制武装集団のメンバーとして戦闘に参加していたが、現在はアティマ村近くで清掃業者を営んでいるという。

また、シャーム解放機構から嫌疑をかけられることを恐れて、武器も所持していなかったという。

シャーム解放機構による摘発活動は、テロ組織としてのイメージを払拭し、自らが民主的な組織で、過激なジハード主義組織ではないことを、国際社会、とりわけ西側社会に示そうとする政策の一環だと見られる。

米国(有志連合)はこれまでにも、たびたびシリア北西部でアル=カーイダ系組織のメンバーや幹部を狙って攻撃を行っている。2022年2月には、今回攻撃が行われた場所に近いイドリブ県アティマ村近郊で空挺作戦を実施し、イスラーム国の第2第指導者(カリフ)のアブドゥッラー・カルダーシュ(通称アブー・イブラーヒーム・クラシー)を殺害している。また、このほかにも、シャーム解放機構を離反したフッラース・ディーン機構などの新興のアル=カーイダ系組織に参加した外国人戦闘員らを狙ってドローンによる攻撃を繰り返している(詳細は拙稿『膠着するシリア:トランプ政権は何をもたらしたか』などを参照されたい)。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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