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米軍がシリア領内の「イランの民兵」を爆撃:「想像を絶する大惨事」を回避するための「熟慮の上での行動」

青山弘之東京外国語大学 教授
Alalam Channel、2024年6月21日

米軍がシリア領内で活動する「イランの民兵」に対して爆撃を実施した。

爆撃は、3月26日に米軍(あるいはイスラエル軍)がダイル・ザウル県の複数ヵ所を標的とし、15人以上が死亡、30人あまりが負傷して以来、3ヵ月ぶり。

「イランの民兵」(あるいは「シーア派民兵」)とは、紛争下のシリアで、シリア軍やロシア軍と共闘してきた民兵に対する蔑称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。シリア政府側は、シリア内戦の文脈においてこれらの組織を「同盟部隊」と呼ぶが、それらは対イスラエル抵抗闘争の文脈において、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称フーシー派)とともに「抵抗枢軸」と呼ばれるシリア、ヒズブッラー、そしてイランを中心とする陣営の一翼を担っている。

3ヵ月ぶりの爆撃

米軍の爆撃は6月21日の夜に実施された。

英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団によると、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県ユーフラテス川西岸、イラクとの国境に面するブーカマール市近郊のスッカリーヤ村一帯の上空に、所属不明の航空機1機が飛来、爆撃によると見られる複数回の爆発が確認されたという。

これに関して、イランのアーラム・チャンネルは、米軍の航空機が爆撃を行ったと伝えた。また、ロシアのスプートニク・アラビア語版も、米軍の無人攻撃機1機がスッカリーヤ村一帯、ハムダーン村近郊の砂漠地帯を爆撃したと伝えた。

Telegram(@Sputnik_Arabic)、2024年6月22日
Telegram(@Sputnik_Arabic)、2024年6月22日

反体制派系メディアのアイン・フラートは6月22日、爆撃の詳細を伝えた。それによると、爆撃は2回にわたって行われ、1回目の攻撃では、スッカリーヤ村のズワード燃料ステーション近くが標的となり、民間人1人が負傷した。また、2回目の攻撃では、ダイル・ザウル市とアシャーイル村を結ぶ街道を、武器を積んで移動していたと見られる貨物車輛1台が狙われ、この車輛が大破、少なくとも2人が死亡、複数人が負傷した。

Eyeofeuphrates、2024年6月22日
Eyeofeuphrates、2024年6月22日

ロシア当事者和解調整センターのユーリ・ポポフ副センター長も6月22日、モスクワ時間(=シリア時間)の21日午後10時30分、有志連合所属のMQ-1C無人航空機1機がイラク領空からブーカマール市近郊を移動中のトラック1輌を狙って攻撃を行い、民間人に死傷者が出たと発表した。

一方、シリア人権監視団は6月22日、攻撃によって死亡したのが民間人ではなく、「イランの民兵」のイラク人メンバー3人だと発表した。

これと前後して、イラクの人民動員隊に所属する殉教者の主(サイイド・シュハダー)大隊のカルバラー事務所も、テレグラムを通じて、アブドゥッラー・ラッザーク・アヌーン・サーフィーがシリア・イラク国境近くでの偵察任務中に戦死したと発表した。

Telegram(@said_alshuhadaa)、2024年6月22日
Telegram(@said_alshuhadaa)、2024年6月22日

「イランの民兵」の報復

米中央軍(CENTCOM)はこの爆撃についていかなる声明も発表していない。

だが、「イランの民兵」は報復と見られる行動に出た。

シリア人権監視団によると、シリア領内でヒムス県南東部のタンフ国境通行所に違法に設置されている米軍(有志連合)の基地に、「イランの民兵」所属と見られる所属不明の無人攻撃機1機が東方から接近した。同機は基地への攻撃を試みたが、米軍がこれを迎撃し、撃墜した。

6月15日(イスラーム教のイード・アル=アドハー(犠牲祭)直前)から軍事活動を小休止していたイラク・イスラーム抵抗(イラク人民動員隊のヒズブッラー大隊やヌジャバー運動などからなるとされる組織)も、攻撃を再開した。彼らは6月23日に声明を出し、前日の22日朝にアンサール・アッラーとともに、米国が支援するイスラエルに対して合同軍事作戦を2回にわたって実施したと発表した。

Telegram(@ElamAlmoqawama)、2024年6月23日
Telegram(@ElamAlmoqawama)、2024年6月23日

発表によると、1回目の作戦では、イスラエルのハイファー港で4隻の船舶を、2回目の攻撃では、同港に向かっていた貨物船、ショーゾーン・エクスプレス(ルクセンブルグ船籍)を地中海で攻撃したと発表した。

想起されるナスルッラー書記長の演説

合同軍事作戦は、6月6日(ハイファー港)、12日(アシュトド市、ハイファー市)に続いて3回目で、今回は初めて地中海を航行中の貨物船を狙って攻撃が行われた。

地中海沿岸および海上に対する攻撃は、6月19日のヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長の演説を想起させる。ナスルッラー書記長は演説のなかで、「敵(イスラエル)は、雄大な地中海で何が待ち構えているかも熟知している。地中海沿岸すべて、そして船舶が標的となるだろう」と述べていた。

ヒズブッラー(あるいは同組織が主導するレバノン・イスラーム抵抗)は、この演説後、6月20日と21日にナークーラ岬沖にイスラエル軍が設置している海上陣地を自爆型無人航空機などで攻撃しているが、イスラエルに対する攻撃の頻度自体は、20日には5回、21日には6回、22日は5回と減少している。

さらに、アンサール・アッラーはイラク・イスラーム抵抗と合同軍事作戦を実施したとの声明を発表するとともに、これに先立って6月22日には、紅海北部で米海軍原子力空母のドワイト・D・アイゼンハワー(CVN-69)を攻撃したと発表した。

しかし、これについては、CENTCOMが6月23日、「完全に誤り」だと否定した。

イラン・イスラーム抵抗とアンサール・アッラーの合同軍事作戦が、ヒズブッラーの軍事戦略・戦術とどのように連携しているかは知る由もないが、ナスルッラー書記長の発言を想起させるように標的を選んでいることは大いに考え得ることで、それによってイスラエルをかく乱し、ヒズブッラーにイスラエルの攻撃が集中するのを避けようとしているとも解釈できる。

一方、米軍によるシリア領内への爆撃も、「イランの民兵」、あるいは抵抗枢軸の攻撃を自らに振り向けることで、これらの組織のイスラエルへの攻撃をいなし、両者間の暴力の応酬がエスカレートすることを回避しようとしているとも見て取れる。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は6月21日、ヒズブッラーとイスラエルとの間の緊張の高まりを深く懸念し、「たった一つの軽率な行動や誤算で、想像を絶する大惨事が引き起こされる恐れがある…、レバノンを第2のガザ地区にしてはならない」と警鐘を鳴らした。

パレスチナのハマースとイスラエルの戦闘、そしてイスラエルによるガザ地区への攻撃に収束の兆しはなく、そのことが「イランの民兵」とイスラエル、米国の散発的な戦闘を誘発し続けている。だが、当事者らは「熟慮の上での行動」をもって「想像を絶する大惨事が引き起こされる恐れ」を回避しようとしている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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