振替なき土曜授業は法令違反の可能性も【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(1)】
新型コロナの影響で休校(臨時休業)が長引いたこともあって、授業時間の確保に躍起になっているかに見える地域もあります。夏休みの大幅な短縮を進めるところも多いですし、土曜授業を実施するところもあります。本稿では、土曜授業の問題について解説します。そこからは、教職員のことを大事にしようとしない、行政等の問題点が見えてきます。
「土曜授業」は、文科省が調査などでよく使っている定義では「児童生徒の代休日を設けずに、土曜日、日曜日・祝日を活用して教育課程内の学校教育活動を行うもの」を指します。たとえば、土曜に授業参観あるいは行事をして、翌月曜を児童生徒の代休日にするケースなどは含みません。
平成30年度に土曜授業を実施する計画があった小学校と中学校はそれぞれ約26%でした(文科省「平成30年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査」)。これが、今年度は実施する学校が増えているようです。
■学習上の効果はあるのか?
「2ヶ月も3ヶ月も休校が続いたんだから、学習の遅れを取り戻すためには、土曜授業も必要なんじゃないか。」
そう思われる方も多いかもしれません。たしかにそれは一理あるところもありますが、土曜授業には大きな問題が潜んでいます。
ひとつは、子どもたちへの影響です。休みと思っていた土曜が授業になると、意欲が落ちる子もいます。あるいは疲れがたまって、翌週以降(とりわけ月曜)の授業への集中力が落ちるというケースも教員からはよく聞きます。たとえば、こんな意見もあります。
土曜授業の効果がいかほどなのか、よく検証していく必要がある話ですし、小学生なのか、高校生なのか等によっても、ちがってくる話ではあります。ですが、教育委員会等が思っているほど、土曜授業の学習上の効果は高くないのかもしれません。
■振替なき土曜授業が横行
もうひとつの大きな問題は、教職員の健康への影響と負担です。土曜授業は、いわば臨時的な措置で、教職員は代わりに代休を取ること(勤務日を振り替えること)が大前提になっている制度です。たとえば、市役所の職員が地域の行事に関わる仕事をしていた土曜または日曜に出勤しました、代わりに別の平日を休みにします、といった運用がなされます。
ところが、学校では、この振替がちゃんとしていない現実があります。わたしは公立学校の教員を対象に先日アンケート調査を実施して、検証しました。
○調査は本年6月12日から実施。17日朝までに集計した307件の回答を分析。
○対象は公立学校の教員のみとして呼びかけて、ネット上で回答してもらった。
○わたしがSNSを通じて呼びかけたものなので、バイアスがかかっている可能性が高い。もともと土曜授業について問題意識の強い人が回答しやすいなど。
○なりすましなども防止しきれるものではない。そうした限界、問題はあるものの、一定の傾向をつかむことはできると判断して調査した。
まずは、次の結果をご覧ください。「昨年度、土曜授業を実施した場合、振替となる休日は取得できていましたか」について尋ねたものです。きちんと振替を取得できているのは、小学校教員で約65%、中学校教員で約4割に過ぎず、それ以外は、取れていない可能性が高い状態です(この設問は土曜授業を昨年度実施した人に限って集計しているので、回答数が全体より少ない)。
「ほとんど取得できなかった」、「まったく取得できなかった」という教員も小学校で約2割、中学校で約3割に上ります。
自由記入欄にはこんな声も寄せられました(表現の一部は修正、編集)。
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■法律、条例に照らしても、振替が取れない土曜授業は大問題
こうした、振替なき土曜授業の運用は、法律上も大きな問題をはらんでいます。
公立学校の教員であっても、労働基準法は基本的には適用されますから、週40時間を超えて労働させることは原則できません(第32条)。そこで、ほとんどの自治体では、条例等で、教員の勤務時間は週38時間45分と規定しています。
土曜授業をすると、週6日(あるいは5.5日)勤務となりますから、38時間45分など、超えちゃいますよね?
ただし、労基法第33条第3項と給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)第5条により、勤務時間を延長することはできます。これで土曜授業は可能になっているわけですが、「公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」(給特法)とされていて、適切に振替を取る必要があることが自治体の条例、規則等で定められています。
文科省の文書のなかにも、振替を取るようにという点は再三、説明されています。ところが、コロナ前の昨年の状況でさえ、振替をきちんと取れていない学校が少なくないのです。これでは、今年度は、さらに事態が悪くなる可能性があると考えるのが自然でしょう。
言うまでもありませんが、日本は法治国家であり、労働基準法ならびに、公立学校の教員の場合、給特法の規定、趣旨をしっかり守っていく必要があります。ところが、教育行政や学校において、非常にテキトーに運用されているわけです。教育現場がそれでいいのでしょうか?子どもたちに顔向けできないと思います。
■文科省からの発信も、ちぐはぐでミスリーディング?
先日、萩生田文部科学大臣は、講演と記者会見で次の趣旨の発言をしています。
大臣はこう述べておられますが、土曜授業をしても手当が出ないのは、当然です。別の平日に休むことが前提となっている制度だからです。
文科省に必要なのは、現場がねじり鉢巻きで頑張ってくれていることを褒めることではなく、ムリのある土曜授業ならやるな、と述べることであり、あるいは、人員を配置するなどして振替がきちんと取れるようにしていくことではないか、と思います。
先日6月9日には、文科省はある文書を出しました(「新型コロナウイルス感染症への対応に伴い土曜授業等を実施する場合における週休日の振替等の適切な実施及び工夫例等について(通知)」)。そこでは、振替をきちんと取るようになどを注意喚起している点は評価できるのですが、土曜授業の振替の工夫の例として、次の3つを示しています。
●長期休業期間中などの勤務日や勤務時間を振り替えること
●時間割の柔軟な編成による工夫(専科教員の担当コマを特定の曜日や時間帯に集中させることにより、その週において土曜日を含めて5日間の出勤とすることなど)
●年度をまたいで勤務日や勤務時間を振り替えることによる工夫
こういう工夫を全否定するつもりはありませんが、これでは、もうなんでもありの様相を呈しつつあります。年度をまたいでもいいなどまで言い出すと、振替がきちんと取れないのに、土曜授業を増やす自治体をさらに増やしかねません。「公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」という法律の趣旨もどこかに行ってしまっている感があります。
文科省のこうした通知や働きかけは、副作用のほうが大きい可能性がある、とわたしは見ています。管見の限りですが、識者もあまり批判、発言していないように見えますし、マスコミ等も安易な土曜授業の実施の問題をほとんど取り上げません。このままでは、危ないのではないでしょうか。問題や副作用の大きいことであっても、突っ走る自治体が多くなってしまいます。
次回の記事でも、わたしの調査も活用しながら、土曜授業の問題について、さらに突っ込んで考えたい、と思います。
⇒次回記事:週休3日の企業も増えているのに、学校は週休1日?【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(2)】
★お知らせ
小中高、特別支援学校の先生対象に、休校中の取り組みや学校再開後の課題について、把握分析するアンケート調査を実施中です。
ご関心のある方は、次の文書をご覧いただき、お手数をおかけしますが、ご協力のほどよろしくお願いします。
もうすぐ(6/20日朝頃に)締め切る予定です。
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