福岡のラーメン業界も多岐にわたるジャンルの新店がお目見えしているが、“王道博多豚骨”を選んだ職人に会うと、筋金入りの豚骨ファンの一人として応援したくなる。トレンドである非豚骨が輝いているのは、どっしりとした豚骨という存在があるからこそ。福岡のラーメン好きは多彩な新味に魅了されているのと同時に「帰りたくなる“普通の”豚骨ラーメン」を潜在的に欲している。今回は2024年オープンのそんな“THE・博多豚骨”の中から「博多ラーメン はむ太」を紹介。5月福岡市荒江にデビューした。

まずこの「はむ太」、オープン前からラーメン業界を少しざわつかせていた。というのも、開店準備期間から店先に「“博多らーめんShin-Shin”“ラーメン処 西谷家”“薬院八ちゃんラーメン”で修業しました」と高らかに掲げていたからだ。この3店は福岡を代表する名店中の名店。「いったいどんな人が、どんなラーメンを出すのか」。ラーメンファンの間で話題を集めた。そして、ハードルがかなり上がった状態からスタートしたとも言える。まず、「博多ラーメン はむ太」の店主・有吉亮さんは、修業先である上記3店の店主に、もちろん了承を得てアナウンスしていることを声を大にしておきたい。

「博多ラーメン はむ太」の店主・有吉亮さんは1981年福岡市出身。30代半ばまでは建築関係の会社勤めをしていたが、ラーメン好きが高じて脱サラしての転身。独立開業する明確なビジョンをもって名店の門を叩いた。7、8年をかけて修業した店は、入店した順番で「西谷家」「Shin-Shin」「薬院八ちゃんラーメン」(「風び」でも修業)。

前述した情報から筆者はなんとなく、店主が前のめりな人のような想像をしていたが、最初に有吉さんに会った時とても謙虚な方だと感じた。修業した「Shin-Shin」の社長・中牟田信一さん、「西谷家」の富田一憲さんも彼について「とても真面目でいい奴」と口をそろえる。皆が応援したくなる。それは有吉さんの人柄の良さであり、人徳である。

ラーメンは豚骨100%。修業先のいいとこ取りではなく、あくまで“はむ太”(有吉さんの愛称)流を突き詰める。こってり感のあるスープは、割ったゲンコツがおもな材料。高火力のバーナーでがっつりと炊き込み、骨髄や骨のまわりについた肉の旨みも生かす。豚骨から自然に染み出た上澄みの油を仕上げにふりかけパンチ力をアップ。さまざまな麺を試した結果、現在「製麺屋 慶史」の細ストレート麺を濃厚スープに合わせている。

夫婦で迎え、アットホームな雰囲気にも癒される「はむ太」。

「僕自身、幼少期から親しんできたイニシエの豚骨ラーメンこそ目指すところ。強烈な個性はいらない、普通でいいんです。開業当初は納得いくスープができず店を閉めることも多かったのですが、最近ようやく安定してきました」と有吉さん。「スープは生き物である」を改めて感じ、悩んでしまうことも多いが日々豚骨と向き合い、前を向く。

冒頭にも述べたが、福岡で非豚骨など新味が輝くのは、このようなTHE豚骨が存在感を放つからこそだ。

王道豚骨に美学を見出した新規出店者の挑戦を応援したい。