【タイ現地取材 其の1】サッカー北朝鮮代表のアジアカップ最終予選に密着!
外交関係悪化でタイで開催
世界各地でサッカーの親善試合が行われた10日、日本代表がブラジル代表に1-3で敗れ、韓国代表がコロンビア代表に2-1で勝利した。
ワールドカップ(W杯)出場国の注目の試合の陰で実は同じ日、もう一つの東アジアの古豪が、タイのブリラムで戦っていた。朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)だ。
ここで行われていたのは、2019年にUAEで開催されるアジアカップ最終予選の北朝鮮対マレーシアの試合。
両国代表チームは11月10日と13日にホーム&アウェイの2試合を第3国のタイで消化することになった。
その理由は、日本でも大きくニュースで取り上げられた2月の金正男氏のマレーシアでの殺害事件がきっかけだ。
両国の外交関係悪化で、3月に行われる予定だった北朝鮮対マレーシア戦が延期となっていたのだが、中立地のタイでようやく開催に至った。
ちなみに、スタジアムへの入場は無料。現地のタイ人やサッカーファンのほか、マレーシアサポーターとタイ在住の北朝鮮ビジネスマンや労働者が応援に駆けつけていた。
もちろん、ブリラムに北朝鮮の“美女軍団”はいなかった。
J2讃岐の李栄直がボランチで攻守に貢献
現在、アジアカップ3次予選グループBで北朝鮮はレバノン、香港、マレーシアと戦っている。
ここまで3試合を消化して2分1敗の3位。上位2チームが本大会に出場できるのだが、残り3試合で勝ち点を積み重ねなければ本大会出場は厳しい状況だ。
それに加え、12月に日本で開催される東アジア選手権を前に、成果と結果を残さなければならない大事な一戦でもあった。
試合会場はタイリーグの強豪、ブリラムユナイテッドホームの「i-mobileスタジアム」。
今回、北朝鮮は海外組からMFチョン・イルグァン(スイス・FCルツェルン)とFWパク・クァンリョン(オーストリア・SKNザンクトペルテン)を呼び寄せスタメンで起用。
Jリーグからは在日選手のカマタマーレ讃岐のMF李栄直が背番号「10」で先発出場を果たしたが、もう一人の在日選手、町田ゼルビアのDF金聖基はベンチスタートとなった。
今回、イタリア・セリエAのペルージャで今季6得点を決めているFWハン・グァンソンは招集されていない。
怒涛のゴールラッシュ
10日は北朝鮮のホームゲーム。前半開始と共に立ち上がりから主導権を握ると、10分に李栄直がペナルティエリアの中で相手DFのハンドを誘いPKを獲得。それをパク・クァンリョンが右隅に決めて先制に成功した。
34分には李栄直が放った強烈なミドルシュートがゴールバーを直撃するなど攻勢が続くと、41分に左CKからFWキム・ユソンがヘディングで追加点。2-0で前半を折り返した。
失点の焦りからマレーシアは、徐々にラフプレーが目立ちはじめる。その隙をついた北朝鮮は48分、左からのセンタリングをFWキム・ヨンイルがダイレクトシュートで右隅にゴール。
勢いに乗る北朝鮮は、58分にもスイスでプレーするチョン・イルグァンが鮮やかなFKを決めて4-0。このままさらに追加点の予感もあったが、気の緩みからかマレーシアにゴールを許して4-1。
格下相手とはいえ、グループBでようやく初勝利を手にし、13日の試合に弾みをつけた。
「とても価値のあるゲームに」
試合後、北朝鮮代表のヨルン・アンデルセン監督は「試合開始から非常にいい入り方ができ、とても価値のあるゲームになった。最初から早いテンポのリスタートと前線からのプレスがうまくいった。相手にファウルがたくさんあったが、それをしっかりと取ってもらえなかったのは心残りだ」と、今回の勝利に満足した様子だった。
ちなみに北朝鮮代表がアンデルセン監督を招へいしたのは2016年2月で、外国人監督就任は25年ぶりのこと。彼は元ノルウェー代表FWでドイツブンデスリーガで得点王にもなったこともある。
交代選手をピッチに送り出す前、ホワイトボードを見せながら通訳を通して役割の指示を送っていたし、“FW気質”だからなのか、選手が簡単なミスや覇気のないプレーをすると熱くなってベンチから声を荒げるシーンもたくさん見られた。
私が知る過去の北朝鮮代表監督には、感情を表にむき出しにするタイプはいなかっただけに少し驚いたが、そうした異なるカラーが入ることで、チームに与える影響はとても大きいのではないかと感じた。
アジアカップ最終予選で初勝利
指揮官に就任してから1年半。アジアカップ最終予選では今回が初勝利となった。
「これだけのゴールを奪っての勝利は初めてのこと。チームにも、私にとっても今回の勝利はとても重要な試合になった。もちろん13日の試合も勝ちにいく」(アンデルセン監督)
ボランチとして攻守両面でチームにアクセントを与えていた李栄直も、まずは勝てたことに胸をなでおろす。
「まずは勝利できてホッとしています。早い時間に点が入ってみんなが落ち着いてプレーすることができましたし、相手に勢いがなくなり、余裕を持った試合運びが得点につながったと思います。終盤でももっと点を取れたと思うのですが、少し気の緩みができて失点につながってしまったのは課題です。次の試合につなげます」
勝利の味を噛みしめる間もなく、次の13日の試合に挑む北朝鮮。彼らが12月に来日する前に実力を知れる最後のチャンスでもある。しっかりと見届けたい。