サムスンが中国で"偽Supreme"とのコラボレーションを発表した件の背景情報
「サムスンが"シュプリーム"とのコラボを発表するも"シュプリーム"は完全否定」というニュースがありました。中国における新型スマホGalaxy A8sの発表会で、サムスンがSupremeとのコラボを発表したところ、このSupremeは日本でも有名なストリート系のブランド(Supreme NYC)ではなく、それとは全然関係ない「フェイクブランド」だったという話です。その後、サムスンは提携を見直すと発表したようです(参考記事)。
背景情報を調べてみました。ファッションローの専門ウェブメディアTHE FASHON LAWの記事(英文)が参考になりました。
まず、この偽SupremeのオーナーはSupreme Italiaとしても知られる正式社名"International Brand Firm"という英国の会社です。同社は、本家Supremeによる敢えて大規模拡大せず希少価値を出す戦略を逆手にとり、世界各国でSupremeのロゴの商標登録を行なってきました。そして、イタリアにおいてSupremeのロゴを付けた製品を(Trade Directというメーカーにライセンスして)販売したことで、本家Supremeに商標権侵害で訴えられ、いったんは差止め命令を受けたのですが、その後、Supremeという商標が記述的(「最高の」という意味を表わす)に過ぎないとして、欧州連合知的財産庁に無効とされたために、イタリアでは大手を振って(追記:「大手を振って」はちょっと言い過ぎで差止めが撤回されただけでした、イタリア国内の商標権および不正競争防止法の問題は残るようです)販売できるようになりました(一般的な形容詞をそのまんまブランドにする場合のリスクと言えます)。
では、中国の商標登録の状況はどうでしょうか?本家のSupreme(Supreme NYC)の正式社名はChapter 4 Corp(中国語名「章節四公司」)ですが、ちゃんと、2014年3月4日に衣服等を指定し出願していました。このニュースを最初に聞いたとき、先日書いたような中国企業による海外ブランドの勝手出願の話かと思いましたが、そうではありませんでした。
しかし、この商標権には現在異議申立が進行中です(請求人は不明ですがIBF社でもおかしくありません)。偽Supremeが堂々と中国で活動しようとしている背景には、中国でもイタリアと同じ状態になるという目論見があるのかもしれません。この商標権が無効になるかですが、欧米の消費者にとってはSupremeという言葉が「最高の」という一般的な形容詞として認識されるのは明らかなところ、中国の消費者にそれが当てはまるかどうかは微妙であり、裁判の結果も読みにくいものがあります。
一方、勝手出願について見てみると、偽SupremeのInternational Brand Firm社(中国名「国際品牌公司有限公司」)は、今年の3月28日に、ITSupremeNowというやや意味不明の文字商標を衣類、電子機器、鞄類、広告等を指定して出願しています。Supremeのロゴの出願はされていません。
これ以外に、Supreme NYC Incというニューヨーク州アルバニー市に本社を構える企業(中国名「最高至上公司」)が、2018年3月に本家Supremeと同じロゴの商標を含めていくつか出願していますが、本家との関係は不明です(別の偽ブランドの可能性が高そうです)。
さらに、Supreme Italia Ltdなる英国企業(中国名「意大利最高有限公司」)がSupremeの文字を含む商標(本家ロゴと同じデザインのものはありません)を今年になって多数出願しています。International Brand Firm社との関係は不明です(本社は同じロンドンですが住所は違います、別動部隊なのかもしれませんし、また別のフリーライダーなのかもしれません)。
上記以外にも中国企業や個人によるSupremeロゴの商標登録出願は多数存在し、カオスとしか言いようがない状況になっています(中国商標あるあるです)。