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中国企業が「無印良品」商標にしたことをやり返したらどうなるか

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

少し前の話ですが、「"無印良品"が権利侵害で訴えられたとの報道 → 良品計画「中国で"無印良品"が使えなくなることはない」」というニュースがありました。

今回の問題は、良品計画の子会社であるMUJI上海が、別会社が商標権を有する範囲の商品に誤って「無印良品」を使用してしまったことを理由に損害賠償等を求められたもの。これについて、2017年12月には別会社側の主張を一部認める一審判決があったものの、現在も二審が継続している状態で損害賠償を支払った事実もなく、「無印良品」の名称自体は一部カテゴリーを除き引き続き問題なく使用できるとしています。

ということです。

日本企業のブランド名をまったく関係がない中国企業が先に中国で勝手に商標登録してしまい、後で本家の日本企業が中国進出したときに商標登録できなくなったり、損害賠償請求されたりしてしまうケースはあるあるです。今回以外にも「クレヨンしんちゃん」等の事例があります。

もちろん、中国でも他人のビジネスと紛らわしい商標を勝手に登録することはできません。中国商標法には以下の規定があります(中国語翻訳はJETROによる)

13条

(前略)

同一又は類似の商品について登録出願した商標が、中国で登録されていない他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳したものであって、容易に混同を生じさせるときは、その登録をせず、かつその使用を禁止する。 (後略)

商標登録は基本的には早い者勝ちですが、馳名商標(=著名商標)であれば、たとえ未登録であっても第三者の登録を許さないという規定です。ここで、問題なのは著名性の判定においては、中国国内での著名性が重要視される点です。したがって、海外では有名になっているが、まだ中国に進出していないブランドを中国で勝手に商標として出願し、登録することが可能になってしまいます。今回もそうですが、海外企業が中国の勝手出願に対抗する上でこの点が障壁になっていることが多いです。

あくまでも仮の話ですが「やられたらやりかえす」ということで、中国では有名になっているが日本ではまだあまり知られておらず、出願もされていない商標を、第三者が先に勝手に日本で出願してしまったらどうなるでしょうか?

このような出願は、商標法4条1項19号の規定により拒絶される(仮に登録されても無効にされる)ことになります。

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

(略)

十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

日本国内だけではなく外国における周知性も要件にできる点がポイントです。現在の中国の商標法では、この規定に相当する規定がないので、今回と同様の問題が続く可能性はあります。

商標法4条1項19号が関係した訴訟としては、日本のバッグブランド「マンハッタンパッセージ」の商標登録を米国のメーカー「マンハッタンポーテージ」が無効にした審決の取消訴訟があります(判決文)。訴訟でも無効は覆らずマンハッタンパッセージ側はマークのデザイン(正直、丸パクリでした)を変更せざるを得なくなりました。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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