アップルの音楽ダウンロード販売が急減 レコード業界、再び低迷期に突入か
米アップルが「アイチューンズ・ストア(iTunes Store)」で行っている音楽のダウンロード販売が今年に入って売り上げが急激に落ち込んでいると米ウォールストリート・ジャーナルが報じ、これを多くの海外メディアが取り上げている。
今やアイチューンズ・ストアは世界最大の音楽販売ストアとなっており、同サービスの売り上げ減はレコード業界に大きな影響を及ぼしそうだ。
音楽の聴き方に変化
ウォールストリート・ジャーナルによると、世界のアイチューンズ・ストアの売上高は今年の初めからこれまでの間に13〜14%減少した。
IFPI(国際レコード産業連盟)がまとめた昨年1年間の世界音楽ダウンロード売上高は2.1%減だったので、これと比較すると今年の落ち込みが大きいことが分かるという。
その背景にあるのは、無料・有料ストリーミングサービスの利用増だ。
アナリストは消費者の音楽の聴き方に変化が表れていると指摘。英スポティファイ(Spotify)や米パンドラメディア(Pandora Media)といったストリーミングサービスの年初からの利用は、1年前の同じ期間から46%増えていると報告している。
世界のレコード音楽市場、しばらく安定していたが・・・
昨年1年間の世界におけるレコード音楽の売上高は150億ドルだった。世界の音楽販売は一時期大きく落ち込んだが、ここ数年はしばらく安定していた。ここ10年以上に及ぶ世界的なCD販売の落ち込みを考慮しても、昨年は世界のほとんどの国では安定したという。
ただし世界第2位の音楽市場である日本はその例外。日本では物理的な記録メディアとデジタルダウンロードのいずれもが急減していると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
一方、米国市場を見ると、昨年のレコード音楽売上高は、ピークだった2000年のほぼ半分ほどだったものの、ここ数年は横ばい状態が続いている。またRIAA(全米レコード協会)によると、今年上半期のデジタルダウンロードの売上高は、シングルが11%減、アルバムが14%減。一方で、ストリーミングサービスは28%伸びており、デジタル配信全体の売上高は若干増加して22億ドルに達したという。
ただ、レコード会社の幹部らは、「ダウンロード販売の落ち込み速度が、ストリーミングサービスの成長よりも速いという状況が加速すれば、レコード業界は再び低迷する」と話し、懸念を隠していない。
そして、これら業界関係者が状況打開のカギを握ると見ているのが、ストリーミングサービスだという。
アップル、買収したストリーミングサービス刷新へ
アップルは今年、ストリーミングサービスも手がける米国の高級ヘッドフォンメーカー、米ビーツ・エレクトロニクスを買収した。
アップルには、自社のストリーミングサービス「アイチューンズ・ラジオ(iTunes Radio)」があり、現在はそれと、ビーツのサービス「ビーツ・ミュージック」をそれぞれ独立して提供している。
アイチューンズ・ラジオはパソコンのアイチューンズソフト、iOS端末の音楽アプリ、Apple TVで提供し、ビーツ・ミュージックはウェブサイトや、iOS・アンドロイド・ウィンドウズフォン用の専用アプリで提供している(ただしいずれも現時点では日本で利用できない)。
ウォールストリート・ジャーナルは事情に詳しい関係者の話として、アップルは来年ビーツ・ミュージックのブランドを再構築し、アイチューンズの一環としてサービスを刷新する計画だと伝えている。
広告付きの無料サービスでは儲からない
音楽のストリーミング配信には、月額10ドルほどの料金で聴き放題になる有料サブスクリプションサービスと、広告付きの無料サブスクリプションサービスがあるが、ビーツ・ミュージックは前者にあたる。一方アイチューンズ・ラジオは後者だが年額24.99ドルの有料オプションも用意している。
そうした中、レコード業界が期待しているのは有料サービス。レコード会社の幹部らは、無料の広告モデルは有料サービスに比べ、レコード会社にもたらされる収益が少ないと話している。多くの利用者に有料サービスを使ってもらうことがこの問題の解決につながると、彼らは考えているという。
(JBpress:2014年10月28日号に掲載)