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ノート(60) 主任検事が自ら取調べを行うために取調べの担当を交代した実例

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(10)

勾留22日目(続)

特捜部長の呼び出し

 福島汚職事件では、約40日間でサブコン元会長の取調べ担当をクビになったものの、その途中、伏線として、捜査主任検事が1日だけ東京拘置所にやってきたことがあった。自ら元会長の取調べを行うためだった。

 この事件では、いよいよ強制捜査に着手するという前日、特捜部長の大鶴基成さんにわざわざ部長室まで呼び出されていた。

 大阪と比べて組織の規模が大きい東京の特捜部は、ヒラ検事と特捜部長の距離が遠い。部長室に入るのは着任時のあいさつ以来だったし、部長とサシで話をするのも特捜部の歓迎会以来だった。

 「僕は君のことをよく知らないんだけど、キャップがぜひ君を、と推しているので、君に身柄を任せることになったんだ。必ず割ってきてくれ」

 向かい合ってソファーに座る部長は、僕にそう言った。

――部長が部下のことをろくに知らないって、無責任な話だな。こっちこそ、部長のことなんかろくに知らないけど。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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