ノート(61) 別の検事から取調べの担当を引き継いだ実例
~達観編(11)
勾留22日目(続)
検事は管理職だが…
任官4年目に初めて大阪地検特捜部の捜査応援に呼ばれた時は、別の検事から取調べの担当を引き継ぐというパターンだった。年度末の3月に大阪特捜が手がけた防衛施設庁調達実施本部(当時)をめぐるあっせん収賄事件だ。
本来の担当検事が4月の定期異動で小規模地検の次席検事になるということで、法務総合研究所の幹部研修に出席しなければならず、しばらく捜査を離れることになったからだ。
検事は任官後、基本的に検察事務官とペアを組んで捜査や公判の職務に従事するものの、何十人もの部下を従え、幹部の立場で検察組織の運営を行うことなどない。
特別勤務手当を支給する関係などで俸給上は「管理職」という形になっていても、係長補佐、係長、課長補佐、課長などと出世魚のように順を追って昇進するわけではないので、幹部としての経験を積むこともない。
マンパワーに勝る警察に対して補充捜査などの指揮を行うことはあるが、しょせんは別の組織だ。大規模な共同捜査で主任検事を務めたとしても、配下は捜査部門の検察官や検察事務官だけだ。
一足飛びに幹部へ
それが、任官15年を超えたころから、いきなり地方の小規模庁の次席検事になったり、中規模庁で部長や支部長のポストに据えられ、名実ともに幹部という立場になる。検察の仕事というと捜査や公判ばかりが目立っているが、全体のごく一部の業務にすぎない。
給与や休暇の管理、職員の福利厚生、備品や事務用品の購入、文書の発受信や外線電話の対応などもその一つだ。刑罰の執行や罰金の徴収、証拠品や前科、事件記録の管理、検察審査会や情報公開請求への対応などもある。データベースや庁内メールなど情報処理システムの保守、庁舎の修繕や警備、司法修習生の指導、対外的な広報活動など、実に多岐にわたる。
検察事務官の多くが、社会の注目を浴びる最前線の捜査や公判ではなく、こうした地味な職務に従事し、検察組織における「縁の下の力持ち」となっている。しかし、捜査や公判しか知らない検事は、彼らと直接触れ合ったり、具体的な仕事ぶりやその内容などを把握する機会がない。
研修で指導
もちろん、難関の司法試験に合格しているからといって、気配りのできる人格者で、幹部としての能力が高いとは限らない。取調べや公判への立ち会い、法律知識などの才能に秀でていても、様々なタイプの人間から成る検察組織を上手くコントロールできるだけの力量があるわけではない。
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