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抜けるかどうかで天地の差。東京五輪世代の日本代表が、カナダとの最終戦に懸ける未来

川端暁彦サッカーライター/編集者
トゥーロン国際大会に参加のU-21日本代表。中央が横内監督代行(写真=佐藤博之)

1勝1敗、「わかりやすい」第3戦

 5月26日に始まった第46回トゥーロン国際大会は、グループステージの第3戦を迎えている。東京五輪世代に当たるU―21日本代表は、ここまで2試合を戦って1勝1敗。初戦でトルコに苦杯をなめたものの、ポルトガルとの第2戦は1点ビハインドかつ退場者も出ているという苦境をひっくり返しての逆転勝利。勢いが出ないはずがない流れのまま、日本時間の6月3日22時に行われるカナダとの第3戦を迎えようとしている。

ポルトガルとの第2戦は奇跡的な逆転勝利。チームを取り巻く空気感はポジティブだ
ポルトガルとの第2戦は奇跡的な逆転勝利。チームを取り巻く空気感はポジティブだ

 とはいえ、情勢的に楽観できる要素は何もない。参加12カ国を4チームずつ3組に分けての総当たり戦、そこから各組1位と2位の上位1チームが準決勝に進出するという方式で、これはW杯などとは大きく異なる「狭き門」。A組とB組は既に全日程を消化しており、残すは日本の入ったC組のみという状況なのだが、すでに日本が2位の上位1位になる可能性は消滅済み。準決勝へ進むには勝つしかないシチュエーションだ。さらに最終戦で日本がカナダに勝ったとしても、日本の裏カードでトルコがポルトガルを破るようだと、直接対決でトルコに敗れている日本は1位になれない。欧州では順位決定に際して得失点差ではなく直接対決の結果を重視するレギュレーションがほとんどだが、この大会もその例外ではないのだ。

 しかもポルトガルとトルコの試合は日本とカナダの試合後に組まれているというおまけ付きで、日本としてはカナダを破った上で、第2試合でのポルトガルの頑張りに期待するしかないわけだ。逆に言うと、試合中に他会場の結果を気にしてソワソワする必要も、得失点差を稼ぎに行く必要もないわけで、横内昭展監督代行は「はっきりしているので、かえってやりやすい。勝ちを目指せばいいだけ」と開き直って戦う構えだ。

規律正しく、そしてゴツいカナダに対し

 先発オーダーは第2戦から少々入れ替わる見込み。FWに小川航基(磐田)、右ウイングバックに藤谷壮(神戸)が戻るほか、第2戦で退場したGK山口瑠伊(エストレマドゥーラ)に代わってオビ・パウエル・オビンナ(流通経済大)が先発見込み。また中山雄太(柏)が第2戦で負傷したため、ここは大事をとって中盤中央には松本泰志(広島)が起用されそうだ。

デカい、強い、よく頑張る、なかなか上手いのもいる。カナダは厄介な好チームである
デカい、強い、よく頑張る、なかなか上手いのもいる。カナダは厄介な好チームである

 対するカナダについてサッカー的なイメージを膨らますことのできる人は少ないように思うが、今大会に臨んでいるU-21カナダ代表は紛れもないグッドチーム。横内監督代行も「非常に規律があって、一人ひとりがハードワークしているし、欧州でやっている選手もいて技術的にも高いものがある」と警戒を深める。実際、トルコに粘り勝ちを収め、ポルトガルとは引き分けているのだから、弱いチームのはずもない。そしてもちろん、日本戦では「そこは言うまでもなく」と横内監督代行を苦笑させた「体格差」という要素をどう跳ね返すかもポイントとなる。

 190cmクラスの選手が複数いる相手に対して、セットプレーでの対空要員の人数をそろえるのは元より不可能なので、そもそもFKやCKを与えないことがまず肝要になりそうだ。もちろん、カナダの両翼は共にA代表を経験している実力派だけに、クロスを全部上げさせない、一つもセットプレーを与えないというのは難しい。個々人が高さ負けする中でいかに競り合うかというのも大事だし、セカンドボールへの対応も焦点になることは言うまでもない。そしてもう一つ、197cmの長身を誇るオビが「自分の持ち味」と語るハイボールへの対応能力をどこまで出せるかも勝敗の分かれ目となりそうだ。

カナダのボランチ、17歳のオケーロは欧州クラブからも注目される存在。195cmの偉容を誇るこの男を森島らが上手く出し抜きたい
カナダのボランチ、17歳のオケーロは欧州クラブからも注目される存在。195cmの偉容を誇るこの男を森島らが上手く出し抜きたい

 攻撃に関しては今までやってきたことをあらためて表現したい相手だ。「デカいやつはむしろやりやすい」と語るシャドー役の森島司(広島)らがいかに起点を作って崩しの橋頭堡となれるかどうか。ウイングバックからの単純なクロスではなかなか崩れないだろうから、どうやって変化をつけるかである。過去2試合はボールを持っている状況で手詰まりになり、むしろシンプルに相手の裏へ攻めたときにチャンスになる傾向も顕著だった。練習では横内監督代行から「ボールを回すことが目的じゃないよ。まずゴールを見よう」「いまの流れでシュートに行ける場面、本当になかった?」といった働きかけもあったが、ゴツくて真面目な選手がそろう相手をいかにチームとして出し抜けるかを観てみたいところではある。

W杯のその次へ繋げるためにも

 第2戦の相手となったポルトガルは、日本より年下の年代でチームを組んでいたが、FW田川亨介(鳥栖)が「めっちゃ技術高くておどろいた。『ここまでやるのか!』というくらいに差を感じた」と評し、三笘薫(筑波大)が「一人ひとりのスピードが速いし、あのガタイで技術もある。これが欧州のスタンダードなんだと思った」と語るように日本側の選手に大きな刺激をもたらし、貴重な学びの場になった。そして準決勝以降に待っているイングランドやメキシコはそれ以上のモノを持ったチームである。東京五輪を考えても、もっと先を意識しても、それを経験するのとしないのでは天地の差だろう。今大会のアジア勢(韓国、中国、カタール)が日本を除いて未勝利であるのも、日本が普段置かれている環境との落差を思わせる。もちろん負けても敗者同士による順位決定戦はあるのだが、タイトルのかかった試合でハイレベルな相手と競り合うことと比べられるものではない。

 加えて言えば、カナダは紛れもない難敵ながら、決して勝てない相手でもない。世代の財産となるような成長の機会を得るためにも、ここは是非とも勝ちたい。勝ってチャンスを得たいのだ。東京五輪世代の日本代表は、まずカナダ戦で人事を尽くし、天命を待つことになる。このフランスでの若きイレブンの戦いは、ロシアW杯の、その先を占う戦いでもある。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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