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「麒麟」「千鳥」に囲まれ「これはアカン」からの出発。「女と男」市川が示す強者でなくとも勝ち続ける方法

中西正男芸能記者
お笑いへの思い、そして自らの仕事の流儀を語る「女と男」のいちかの市川義一さん

甲高い声でウラネタを披露する井上小公造キャラで全国的な知名度を得た漫才コンビ「女と男」の市川義一さん(43)。その一方、47の資格を取得した資格芸人の顔も持ちます。経験を生かした初著「『地味な資格』だけで人生は豊かになる」(Gakken)も8月29日に上梓。ABCテレビ「おはよう朝日土曜日です」、関西テレビ「よ~いドン!」など在阪各局の看板番組に出演し続けてもいます。「麒麟」「千鳥」「かまいたち」らに囲まれ「これはアカン」から始まった芸人生活で市川さんが貫く仕事の流儀とは。

資格の意味

 資格で収入も増えましたし、人脈も増えましたし、話題も増えました。そして、今回本まで出せました。

 相方のワダちゃんから「資格ばっかり取らず、ネタを書き!」と言われることもあるんですけど(笑)、最近は漫才で「市川君は資格をたくさん持ってるんです。でも、お笑いの資格だけ持ってないんですよ」と言われると笑いが起きるんです。

 これが2つ、3つの資格だったらこうはならないと思うんですけど、47にまでなると笑える。そして、僕が資格をたくさん持っていることをありがたいことに皆さんが知ってくださっている。そうなると、笑いになる。

 資格を取ることにもちろん意味はあるけれど、それがまっすぐ笑いには結び付きにくい。そう思ってもいたんですけど、一つのことをとことんやると、それはそれで“面白い”に結び付く。それも資格から学んだことかもしれません。

 そもそも、資格を取るきっかけはワダちゃんとコンビ組んで5年ほど経った頃、ワダちゃんだけメディア露出が増えて、僕一人の時間がたくさんできたんです。

 普通にアルバイトをするのも違うなと思っていたところ、ちょうどラジオ番組で元芸人のファイナンシャルプランナーの方にお会いしたんです。そこで「もともと市川君は経済学部だし金融関係の仕事もしていたんだから、ファイナンシャルプランナーの資格を取ってみたら?」と言っていただきまして。

 時間もあったし、勉強して何とか取得できたら、これが面白くて。そこから次々と資格を取得していったというのがこれまでの大きな流れです。

 コツコツ勉強することに向いていたというのもあるでしょうし、あと“努力が報われる感覚”が楽しかったというのはあると思います。

 お笑いは努力しても、必ず結果が出るとは限らない。どんな努力をすれば、どう成功に結び付くのかも見えにくい。ただ、資格は努力の仕方が明確ですし、努力をすればその分だけ力がついて合格に近くなる。芸人をやっているからこそ、この感覚が余計に楽しかったんだと思います。

この世界に居続けるには

 そして、もう一つ奥の話というか、なぜ資格を取り続けるのか。そこにあるのは「何とかして、この世界に居続けたい」という思いなんです。

 やっぱりね、芸人さんって面白い人が多いんですよ。ずっとこの人らとしゃべっていたい。ずっとここに居たい。居るためにはどうしたらいいのか。

 それこそ資格も何もない仕事だけに、仕事がなくなったら自動的にふるいから落とされるようなものです。となると、仕事が途切れないようにしないといけない。どうやったら、その形を自分が作れるのか。その一つの術が資格だったんです。

 本来、その形に至る王道は「М-1グランプリ」をはじめとする賞レースで結果を残すことです。それが一番ストレートな形なんですけど、これは本当に才能がある人しかできない方法ですし、座れるイスの数も極端に少ない。

 この世界に入った当初はしっかりとネタで結果を出して、面白さでトップに登り詰めることを考えていたんですけど、周りを見た時に「麒麟」さん、「千鳥」さん、「かまいたち」とかがいる。すぐに「これはアカン」となったんです。

 オンリーワンというとカッコつけた言葉になるかもしれませんけど、生き残るために違う道に行く。それを心掛けてきた日々だったと思います。

 そのための男女コンビであり、そのための資格だった。賞レースで結果も残していない。お笑い能力ですごい人たちにはかなわない。そうなると、自ずと「これをやる」が見えてくるのかなとも思っています。

 自分の力を認め、自分の得意なところを見つけ、まだ人がいない場所を探す。それを突き詰めて、なんとか今もこの仕事で家族を食べさせることができています。過不足なく、それがリアルなところです。

 資格を生かして、笑いというよりも商品の情報や性能をシンプルにお伝えする。お酒も飲んでいるお客さんがいらっしゃるパーティー。正直そこでネタをやることを嫌がる芸人もいますけど、そういう場でしっかりと全力で喜んでもらう。

 どの道が正解・不正解ということではなく、僕はそういったことがイヤではないですし、この世界に残るという明確な目標がある以上、そこをやることが自分の生命線にもなる。だったら、やっていくしかないなと。

どうやって“10”を作るのか

 本来はどこまでいっても、純粋に面白さでお客さんに喜んでもらう。そうなるのが芸人としての理想だと思います。桂文珍師匠はどこの舞台でも必ず爆笑を取られる。それを何十年も続けてらっしゃる。すごいことです。僕なんかがおこがましい話ですけど、面白さで10の満足感を創出してらっしゃいます。

 僕の場合、面白さだけで10を作るのは難しい。でも、人前で何かをさせてもらう以上、なんとか10を作り続けないと、その場には居られない。となると、7なのか8なのか、資格を活かした専門性のある解説をして、残り2の部分に笑いを加える。そうやって成立させられる仕事を探す。それが自分の道なんだろうなと思います。

 あと、本当にありがたいことに人に恵まれた。これも大きいと思います。そして、皆さんからの言葉を大切にする。それも心掛けていることです。

 僕という人間は6人の先輩からもらった教えで成り立っていると思っています。たむらけんじさんから仲間を作ること。「サバンナ」高橋さんからあらゆる人を楽しませること。月亭八光さんから人脈を作ること。「とろサーモン」久保田さんから自分の意見を言うこと。「ダイアン」津田さんからイジられるかわいげを持つこと。「メッセンジャー」あいはらさんから独自の戦略を持つこと。

 とてもじゃないですけど完璧にはできてません。だけど、自分なりに吸収しようとする。それも今の自分を作ってくれていると考えています。

 …どうですかね?だいぶ真面目な話になってますよね。その割に、なんでしょう、まとまりのない話をしてしまってますかね?

 もしそうなっていたらスミマセン、あとは筆の力でお願いします(笑)。もし、何でしたら、よくできたオチなんかもチャチャッと付け加えておいてもらえたら、それはそれでありがたいばかりです(笑)。

(撮影・中西正男)

■市川義一(いちかわ・よしかず)

1980年9月26日生まれ。大阪府出身。龍谷大学卒業。コンビ解散を経て、2003年にワダちゃんと「男と女」を結成。08年に笑福亭仁鶴のアドバイスで「女と男」に改名。井上公造氏のモノマネキャラ“井上小公造”としても知られる。ファイナンシャルプランナー、家電製品アドバイザー、生命保険代理店資格、温泉ソムリエ、ダグラス・マッカーサー検定、ラグビーC級レフェリーなど現在47の資格を取得。ABCテレビ「おはよう朝日土曜日です」、関西テレビ「よ~いドン!」などに出演中。8月29日に初の著書「『地味な資格』だけで人生は豊かになる」(Gakken)を上梓した。YouTubeラジオ「市川のラジオですよ!?」も展開中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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