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2023年新卒初任給「30万円」 過去最高売上続伸の居酒屋がインバウンド増加に見出す勝ち筋とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
銀座と新宿の「福みみ」では売上が過去最高(KUUURAKU GROUP提供)

水際対策緩和によってインバウンド(訪日観光客)が目に見えて増えている。ここでこの恩恵を顕著に受けているKUURAKU GROUPという外食企業の事例から、インバウンドが得意な背景と、斬新な取り組みを紹介しよう。

同社の創業者であり現社長の福原裕一氏(57)は日本マクドナルドの創業者である藤田田氏の著作に感銘を受け、日本マクドナルドに入社。その後、飲食業で起業しようと焼鳥店で経験を積んで、1993年4月に「炭焼BARくふ楽 本八幡店」をオープン。以来飲食店を展開するようになった。業態は主に焼鳥店で東京を中心に15店舗を展開している(ほかに教育事業を4施設)。

同社の特徴は、創業間もない2004年にカナダに出店して以来アウトバウンド(海外での事業展開)を推進していること。現在海外はカナダ8店、インド7店、スリランカ、インドネシア、アメリカ各1店と18店。国内よりも海外の店舗が多くなっている。

アウトバウンドをいち早く展開

KUURAKU GROUPの銀座、新宿、渋谷の店は2022年10月以降過去最高の売上を続伸している。顕著な例は「福みみ銀座店」で、25坪55席の規模にあって11月に1300万円を超えた。「福みみ新宿三丁目店」は35坪68席で1475万円となった。特に銀座の店ではインバウンドが6割を超えている。

同社では、コロナ前のインバウンド対策を2015年から行っていたとのこと。当時は海外旅行者向けのweb媒体『トリップアドバイザー』への対策として従業員が食事を終えたインバウンドのお客に「トリップアドバイザーにフィードバックをお願いします」と直接伝えていた。この会話を闊達にするために社内で「おもてなし英会話」を開講していた。

コロナ禍となりインバウンドが途絶えたが、コロナ前に行っていたインバウンド対応のおかげで現地で「日本で体験した良い飲食店」としてクチコミが広まっているという。コロナ前のインバウンドは中国からが多かったがいまは圧倒的に韓国からが多い。彼らに同社の店を知ったきっかけを尋ねると、現地のSNSのコミュニティの中で同社の店を推薦していたからという。

同社のインバウンドに対するリテラシーは、いち早くアウトバウンドに取り組んできていることが役立っている。カナダで展開している店舗は「ざっ串」という店舗だが、現地での同店のファンが日本の同社の店舗にやってきて「『ざっ串』と同じだ!」と感動されることがある。同社が海外で展開している店は日本と同じ焼き鳥店の形態、オープンキッチンで中央に焼台を備えている。また、現地の従業員が同社の“おもてなしの心”を伝えることで圧倒的に満足感の高い店として定評を得ている。そこで、現地で類似店舗ができても勝ち続けることができていて、同社の店のファンは「日本の店に行ってみたい」と憧れを抱くようだ。

海外の店舗は日本と同じオープンキッチンの焼き鳥店で、KUURAKU GROUPならではの「心を込めたおもてなし」で競合する飲食店と圧倒的に差別化している(KUURAKU GROUP提供)
海外の店舗は日本と同じオープンキッチンの焼き鳥店で、KUURAKU GROUPならではの「心を込めたおもてなし」で競合する飲食店と圧倒的に差別化している(KUURAKU GROUP提供)

また、同社では社員として外国人の採用を積極的に行っている。背景の一つはコンビニなどのレジで外国人従業員が応対しても、ほとんどの人が違和感を抱かなくなったこと。そして外国人を社員化することで、彼らが将来本国に帰ろうと考えたときに、会社が彼らをサポートすることができるのではないかというアウトバウンドの発想があった。

このように創業間もない当時からアウトバウンドを積極的に進めたことで、日本の店舗に外国人の従業員が常に身近にいる環境を生み出し、インバウンドに接するリテラシーを高めて、コロナ禍が落ち着いてきた中で、過去最高の売上が続出しているという状況をもたらしているのであろう。

幸せを追求する「値上げ」「人材」対策

今日、飲食業界の重要な課題は「値上げ対策」と「人材対策」である。食材が高騰するようになり売価に転嫁する必要性がある。そして、人材の採用が難しくなってきたことから、それを克服するためのファクターが求められている。この二つの点においてKUURAKU GROUPには新しい動きがみられる。

まず「値上げ対策」について。これは同社のアウトバウンドが大きく役立っている。

同社代表の福原裕一氏によると「値上げ対策は今日のインフレ問題が起きる5年前から取り組んできた」という。そこで手掛けたことは、共同購入、仕入先の見直し、売価の見直しであった。これによって2022年9月期では、5年前と比較すると原価率が3.59%ダウン出来ているという。ざっくりと売上が7億円あると2500万円くらいのキャッシュが生まれるようになった。「これができたのは、当社が海外の値上げの事情を分かっているから」(福原氏)という。

同社が海外に初めて出店したのは2004年でカナダ。このとき焼き鳥1本の値段が日本円ベースで100円ないし120円。これで客単価は2500円だった。「当時『焼き鳥の肉はなんでこんなに小さいんだ』とよく言われた」(福原氏)ということで、それを大きくするなどして変化を加えていった。時給は年々上げていくというルールになり、仕入れ値も上がっていった。

そこで現在、カナダの店の客単価は5600円あたりになっているという。つまり2004年当時の2倍以上。そして売上も増えている。「このようなカナダでの現実を見ていたので、日本で売上に対する恐れはあまりなくなった」と福原氏は語る。

こうして2018年から徐々に値上げをしてきて、現在同社のミドル業態の「福みみ」は客単価が3800円あたり。全体で10%程度を値上げした。

また、高価格帯にシフトした業態転換や新規出店も行っている。

まず「くふ楽銀座一丁目店」を業態転換して「くふ楽銀座総本店」に変えた。もともとは「福みみ」と同じ3800円であったが、それをアッパーミドルの6500円にした。

40坪70席の店であったが、これを「福みみ」と同じ仕組みで営業していて、家賃の関係で損益分岐点が800万円となっていた。それを40席に減らしたところピークタイムの従業員を抑えることができることから550万円に下げることができた。

2018年、東銀座の歌舞伎座の隣に比内地鶏の専門店「銀座かしわ」をオープンした。当初はなかなか利益が出なかったが、2022年10月に過去最高売上を記録、11月は日割りで過去最高、客単価1万3500円で坪月商55万円を記録した。

カジュアル路線では「元屋」という店を北千住や千葉・松戸などの下町に展開していて、この業態は3200円あたりで、これも上がってきている。

インバウンドのリピーターが多く、店側から「お待ちしていました」的なおもてなしによってファンを増やし続けている(KUURAKU GROUP提供)
インバウンドのリピーターが多く、店側から「お待ちしていました」的なおもてなしによってファンを増やし続けている(KUURAKU GROUP提供)

社員に向けた「マネー講座」を開講

コロナ禍にあって従業員の待遇を重視した。社員は給料そのまま。アルバイトは雇用助成金を活用してシフトが減った際にも8割支給とした。2022年3月社員にコロナ一時金として10万円を支給した。また、2022年4月から全社員の給料を一律1万円アップした。銀座エリアのアルバイトは新宿、渋谷と比べると採用がしにくいことが難点であったが、2022年夏に時給1200円を1500円に引き上げたところ充当できるようになった。

そして、思い切った決断。2023年の大卒新入社員の初任給をこれまでの25万円から30万円に引き上げる。実に5万円、20%のアップである。福原氏はこう語る。

「これまでの初任給25万円とは十分に生活できる金額です。ここに5万円プラスする理由は社員の資産形成を考慮した上でのこと。そこでこれからNISAをはじめとしたマネー講座を社内で開講して社員の資産形成に役立ててもらいます」

また、2022年4月からインセンティブ制度に取り組んでいて社員の所得が増える仕組みを整えている。

「このようなことに取り組むことができているのは、過去5年間行ってきた原価の低減、値上げの効果によって財務が劇的に変わってきたからです。当社はこれまで自社の成長や成功を追ってきましたが、現在そしてこれからは従業員と社会の幸せを求めていくウェルビーイング経営を進めて行きます」

同社の営業状況を拝見し、その内実を解説してくれる福原氏の発言一つ一つにこれからの飲食業のあるべき姿が感じられる。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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