「夜パフェ」で新しい夜の外食の楽しみ方を提案 「3年間で100店舗」を目指す

外食の世界に「パフェ&バー」の文化を広げようと活発に動いている若手経営者がいる。その人は櫻井航氏(34歳)。近年「若いカップルが住みたい街」として注目されている流山おおたかのもり駅(つくばエキスプレス/千葉県流山市)に拠点を構えて、「パフェ&バー」という業態をつくり上げてきた。それは、お酒と合わせて楽しむ「夜パフェ」のことで、独自にこれらを切り拓いてきた過程で、ビジネスとしての可能性を確信するようになった。そして櫻井氏が率いる飲食ベンチャー企業、株式会社CARTON(本社/千葉県柏市)では、この「パフェ&バー」を「3年間で100店舗」を目標にしてまい進している。
「密を回避して、高単価がとれる業態」を考える
CARTON代表の櫻井氏は、学生時代から「経営者」になることを目標にして歩んできた。その想いはアルバイトをしていた飲食店で目覚めて、飲食企業に入社してイタリアンのスタッフとなり店長となり、さらに自分でイタリアンの立ち上げ店長を行ってから「自分でもできるのではないか」と思い描くようになった。そして、自身の地元であり土地勘がある流山で飲食業を起業した。
流山おおたかの森駅の周辺は、二子玉川駅(東急田園都市線/東京都世田谷区)と同じようにタカシマヤS・Cが中心となり、商業エリアや住宅エリアが開発されている。日中はベビーカーを引いた若いママさんが多い。
CARTONにとって、2018年にここでの物件を初めて紹介された。当時は今日ほど人口が多いエリアではなかったというが、櫻井氏はその物件を一目見て「絶対有望だ」と確信したという。そして、同社1号店のイタリアンを2018年7月にオープンした。
2号店を柏の葉キャンパス、3号店を流山おおたかの森、4号店を柏、5号店を流山おおたかの森、6号店も流山おおたかの森と、急ピッチで店舗を展開してきた。
コロナ禍は2020年3月より深刻なものとなった。このような逆風にあっても、同社では攻める姿勢を維持していた。この過程で、「密を回避して、高単価がとれるものはないか」ということを考えるようになった。

既存のイメージとは異なる「大人のパフェ」
あるとき、流山おおたかの森の「VIGO」の店長から「夜パフェを取り入れてみたい」と提案があった。同社の初めての「夜パフェ」は、店長のアイデアの元で同店のイタリアンのシェフがつくり上げた。櫻井氏は店長のポジティブな提案を尊重して、同店の「夜パフェ」の動向を見守っていった。
「夜パフェ」とはパフェといっても、既存のパーラーやファミレスなどでよく知られた「アイスクリーム・生クリーム・フルーツ」でボリュームたっぷりのタイプではなく、グラスの中に、ジュレ、クッキー、チョコレートなど、さまざまなスイーツのパーツを積み上げて、カクテルのような感覚でつくられたメニューである。前述のパフェに対して「大人のパフェ」という言い方がしっくりと収まる。これをメニュー化した「VIGO」には、この「夜パフェ」を目当てに来店するお客が増えるようになった。
「VIGO」の「夜パフェ」の特徴をオペレーションの観点から述べると「火を使わない」「ブレがない」ということである。個性的な商品が、軽装備の厨房でかつコックレスでつくることができる。
「VIGO」の「夜パフェ」の人気が高まってきていた中で、2022年6月に蔵前(東京都台東区)の物件を紹介される。家賃も抑えられた良い条件であったが、厨房が軽装備であった。そこで、「VIGO」の人気メニューである「夜パフェ」をメインにした「夜パフェ専門店」にしたところ、売上が伸び、顧客も増えて、「これはFCに向いている」ということを確信するようになった。のちにこの店は、CARTONののれん分けとなる。
「夜パフェのFC展開」の可能性を見出したCARTONでは、FC展開に向けた体制を整えていった。

「一日の終わりにホット一息。」という世界観
CARTONでは、2024年4月の段階で「夜パフェ専門店FC資料」をまとめ上げた。
https://www.carton-inc.com/pdf/vigo/franchise.pdf
ここには前半で、コンセプト、ターゲット、こだわりが述べられ、後半には、これまで直営店やのれん分けの店舗で経験した、売上・利益、初期投資等の数字が具体的に掲載されている。これによって、同業態の初のFC店「夜パフェVIGO」下北沢店(東京都世田谷区)が2024年4月にオープンした。
同社が「夜パフェ」によって目指す「パフェ&バー」の世界観を、このFC資料の前半部分から紹介しよう。
「コンセプト」は「一日の終わりにホット一息。」――暖かい電球に包まれた店内で、ちょっと贅沢な大人の時間をお過ごしください。
「カフェタイム」では、子供が学校や幼稚園に行っている間にママが癒しを楽しみ、またオシャレ好きの20代30代の女性が訪れるカフェ。
「ディナー・バータイム」では、食事や酒を楽しんだ後にデザートを食べに立ち寄ったり、酒は飲めないがバーの雰囲気を味わいたい人、きれいに整えられたパフェをSNSで発信したいという女子が利用する、というシーンが描かれている。
「こだわり」では、①旬を大事にしている、②真心こめた手作り、③夜に楽しむ大人のパフェ、の3つを掲げている。
「旬を大事にしている」ことでは、季節のフルーツを使用して旬の味覚を楽しんでもらえるように2カ月おきにメニューを変更。また、可能な限り地元の食材を使用して「地産地消」を心掛けた仕入れルートをつくる。
「真心こめた手作り」では、本部のパティシエが一からオリジナルで考えたレシピを加盟店に届けて、店舗では既製品を使うことなく、このレシピに基づいて、店舗のキッチンで手作りしている。
「夜に楽しむ大人のパフェ」では、主に夜の時間帯で利用してもらうことを想定して、酒とのマリアージュを想定していること。既存のパフェの甘いイメージではなく、さっぱりとした味覚が新しい利用シーンを定着させる。――これらのような文言で綴られている。
現在、直営店の柏店では、13坪20席で客単価2200円、ここをモデル店としてFC店では10坪から15坪の規模で月商250万~300万円を想定している。これまでの実績から「営業利益20%以上」「セントラルキッチンから届く商材とパティシエのレシピによって、コックレスでも高い商品力がある」「初期投資が通常の飲食店の半分程度」「おしゃれな業態なので採用に強い」といったメリットを掲げている。
加盟店では、ロイヤリティが売上の5%(最低10万円)、原価率25~27%、人件費26~27%と想定している。
「業界一番店」「地域一番店」の地位確立を目指す
筆者は11月29日、流山おおたかの森の「VIGO」を夜の20時ごろに訪問して「夜パフェ」を体験した。櫻井氏が「パフェ&バー」を唱えるように、カフェとはイメージが異なり、バーの空間の中で、食事の後に「パフェ」を媒介にして夜の時間を楽しむといった感じであった。「アイスクリーム・生クリーム・フルーツ」の「パフェ」ではない、まさに「夜パフェ」として開発されたものだ。客層は20代30代で、カップルがほとんど。
このFCパッケージについて、筆者としては、異業種から参入する新事業として取り組むことも想定できるが、ローカルでドミナントで展開している飲食事業者がこの業態を手掛けてみると新しい需要の手応えを得ることができるのではないか、と考えた。
このような形で展開している店にはファンが存在して、この企業がドミナントで展開している飲食店を回遊するというパターンがみられる。それは、これらの店には同じ空気感が存在するからだ。そこでファンの間に「最近、この店が新しく『夜パフェ』の店を始めたから行ってみよう」という動機をもたらすことであろう。
「この業態を『夜パフェ』としてうたっていくと、一過性のブームとして終わってしまう懸念がある。そこで『パフェ&バー』という形でブランディングしていきたい」と櫻井氏は語る。「3年間で100店舗」の構想は、いち早くこの世界のメジャーとなって、「業界一番店」「地域一番店」の地位を確立したいため、とのことだ。

櫻井氏の、新しい外食のシーンを切り拓く「志の熱さ」は、外食に親しむ人たちに刺激をもたらすことであろう。