ユーロ圏景気回復、失敗に終わる可能性―フランスは景気の足引っ張る“欧州の病人”に
ユーロ圏経済はドイツの独り勝ちの様相を呈してきた。これはユーロ圏全体のGDP(国内総生産)の半分を占めるドイツとフランスのうち、ドイツが輸出主導で順調に景気を回復している一方で、ユーロ圏経済をけん引することが期待されるもう一つの経済大国フランスの景気回復が足踏みし、この5年間で3度目となるリセッション(景気失速)に陥る可能性が高まってきたからだ。米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(『WSJ』)のブライアン・ブラックストーン記者は、11月21日付電子版で、「ユーロ圏11月PMI(購買担当者景気指数)など最近の主要経済データを見ると、ユーロ圏の景気回復は失敗に終わる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
ユーロ圏PMIは欧州のマクロ経済調査大手マークイットが毎月発表する、域内の企業活動の状況を示すもので、市場や投資家はユーロ圏の景気の行方を判断する上で重要視する経済データの一つ。11月のユーロ圏全体のPMIは前月(10月)の51.9から51.5へ、0.4ポイント低下したのに対し、ドイツのPMIは好調な輸出セクターを反映して前月比1.1ポイント上昇の54.3と、10カ月ぶりの高水準となった。それとは対照的に、フランスは2ポイント低下の48.5と、5カ月ぶりの低水準だ。
マークイットのチーフエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は、WSJの11月21日付電子版で、「フランスは“欧州の病人”になる兆候が出てきた。同国の10~12月期GDP伸び率は7~9月期(前期比0.1%減、前期比年率換算0.6%減)に続いて2四半期連続でマイナス成長となり、リセッションと認定される可能性が高まった」と指摘する。ちなみに、フランスは2008~2009年と2012年末の2度にわたってリセッションに陥っている。
若年労働者の6分の1失う
ユーロ圏は1~3月期まで6四半期連続でマイナス成長を記録したあと、ようやく景気回復に向かい始めたばかりだが、ユーロスタット(欧州連合統計局)が11月14日に発表したユーロ圏7~9月期GDP伸び率は前期比0.1%増(年率換算0.4%増)と、前期の同0.3%増(同1.1%増)を大幅に下回った。このため、エコノミストの間で、今後、ユーロ圏は景気回復の勢いを失う可能性が高いと囁き始められている。
特に景気後退で懸念されるのが45歳未満の働き盛りの青壮年層の労働力人口の減少だ。英紙フィナンシャル・タイムズの11月20日付電子版によると、欧州のシンクタンクである欧州大学院は最新リポートで、「(この年齢層は)景気低迷で海外に仕事を求めてEUから脱出し、折からの出生率の低下も手伝って、深刻な不足に陥る可能性がある」と指摘している。その調査結果によると、EU28カ国内の15歳以上45歳未満の青壮年の労働力人口は各国が今後、積極的な移民受け入れ政策を取らなければ、2025年までに青壮年の労働力人口は2010年の1億3120万人から1億0980万人へ16%減少するという。
しかし、スペインやイタリアではその減少率は30%に達すると予想され事態は深刻だ。エコノミストは、生産に貢献し、退職者を支えるため税金を納める青壮年の労働力人口が純減すれば一国の経済に大打撃を与えると見ている。欧州大学院は、EUが2010年の雇用水準と青壮年の労働力人口を維持するには、新たに2150万人の労働者が必要になると指摘する。
ユーロ圏、民間債務のデレバレッジが成長阻む恐れ
一方、IMF(国際通貨基金)のエコノミスト、ファビアン・ボーンホーストとマータ・ルイーズ・アランの両氏は、欧州のシンクタンクCEPRのウェブサイト「VoxEU.org」の11月10日付コラムで、民間債務の危険性を唱えている。両氏は、「2000年代からユーロ圏では経済の低迷で公的債務と民間債務が急増している。そのため、今後、多額の債務を抱えている企業や家計、銀行、そして政府のあらゆるセクターでデレバレッジ(債務削減、債務圧縮)が活発になれば、ユーロ圏の経済成長に悪影響を及ぼす。公的債務より民間債務の方が経済成長に及ぼす悪影響は大きいので、政策当局は早急に民間債務の(適切な)削減策を打ち出す必要がある」と警告している。
また、両氏は、「バランスシートを改善するため、企業や家計、銀行などの民間セクターは債務圧縮に重点を置くあまり、利益の最大化が後回しになるため、経済活動は鈍くなる」とし、「デレバレッジによって資産価値の低下が引き起こされ、金融市場が不安定になる可能性がある。民間セクターの債務返済能力の不透明さが高まれば、銀行が保有する資産価値も疑われ、銀行の金融仲介機能も損なわれる」としている。(了)