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トップマーケターに学ぶ「話題化は炎上と紙一重だからこそ、一歩踏み込む勇気が大事」という視点

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
あの映画も実は(出典:映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』公式サイト)

今年も国内外のブランド企業などのトップマーケターが集結するイベント「マーケティングアジェンダ2024」が開催されました。

今回のテーマである「話題化のレシピ」をめぐって、非常に興味深い話が聞けましたので、一部をご紹介したいと思います。

ファミマ足立氏が考える「話題化」のコツ

まず、初日のオープニングキーノートではファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター CMO(兼)マーケティング本部長 CCRO(兼)デジタル本部長の足立光氏による「話題化のレシピ」の極意が披露されました。

ファミリーマートの足立光氏(右)、モデレーターを務めたPreferred Networksの富永朋信氏(左)(出典:アジェンダノート)
ファミリーマートの足立光氏(右)、モデレーターを務めたPreferred Networksの富永朋信氏(左)(出典:アジェンダノート)

キーノートの冒頭でPreferred Networks / SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏から、なぜ「話題化」なのかという質問に対して、足立氏は「あくまで売るための手段のひとつである」と念を押しつつ、話題になることで企業ではなく、第三者が発信してくれることによる説得力の強さや、広告よりも投資対効果が高くなるという点に言及しました。

現在の話題化の基本はPRとSNSです。

広告はそれをブーストする存在と考え、インフルエンサーにお金を払うのではなく、一般のお客さまにいかに話題にしてもらうかが「話題化」のポイントであると話していました。

その後、足立氏がマクドナルドやファミリーマートで手掛けられた具体的な事例を元に「話題化のコツ」として、「突っ込まれビリティ」や「消費者参加型」など5つのポイントを提示します。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

特に足立氏ならではの象徴的な事例といえるのが、「見せ方」の変更として紹介していた「ファミマのボトルキープ」でしょう。

ファミマペイアプリでペットボトル24本分のチケットをまとめて買うと、5本分がお得になるという企画ですが、これは普通に表現すれば「回数券」です。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

ただ、それを「ボトルキープ」という言い方に変え、新しい取り組みだと「見せ方」を変えることで話題になり、成功を収めることができたわけです。

足立氏はマクドナルド時代にも、いわゆるトッピングを「裏メニュー」と見せ方を変えることで話題化に成功しています。同じ商品やサービスでも「見せ方」を変えるだけで話題化できる可能性があるというのは、多くの人の参考になる事例だといえます。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

なお、私にとって足立氏のセッションで最も印象的だったのは「話題化は炎上と紙一重」だという発言です。実際に「ボトルキープ」施策においても、社内からはボトルキープはお酒を連想させるから、良くないという反対の声もあったそうです。

実は翌日のキーノートにおいて、紹介された事例も「話題化は炎上と紙一重」を象徴する事例でした。2日目のセッションも見ていきましょう。

ネガティブなエネルギーをポジティブに変える

2日目のキーノートでは「日経エンタテインメント!」を創刊し、編集長としても有名な日経BP 総合研究所 客員研究員の品田英雄氏が「話題のつくり方と育て方~そのヒットは偶然ではない~」をテーマに登壇しました。

日経BPの品田英雄氏(右)、モデレーターを務めたJTBの風口悦子氏(左)(出典:アジェンダノート)
日経BPの品田英雄氏(右)、モデレーターを務めたJTBの風口悦子氏(左)(出典:アジェンダノート)

モデレーターを務めたJTB 執行役員ブランド・マーケティング・広報担当 兼 CMOの風口悦子氏と掛け合う形で、現在における話題化のキモは「消費者が受信者であり、発信者である」という点を強調し、「ぼんご系おにぎり」や「anello 口金型リュック」など、さまざまな話題化の事例を紹介しました。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

その中でも最も印象的だったのが、2023年に公開した映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の事例です。

この映画は、2016年7月に出版された原作となる書籍が、2020年6月にTikTokから大ヒットしたことでも有名です。

出版当時の発行部数が2万部だったものが、TikTokで話題化した結果、シリーズ累計発行部数は100万部を超えているというので、その人気がよく分かると思います。

ただ、映画化が発表されたときに、書籍では中学生だった主人公が映画では高校生になっていたことから、原作ファンを中心に批判が高まってしまいます。

しかし、映画会社はこの批判に迅速に反応します。原作者を招いたオンラインイベントを開催し、主人公の年齢を変更した背景を丁寧に説明しました。

そのイベントなどでの説明を通じて、批判していた反対派の多くが賛成派に変わり、この映画は興行収入が40億円を超える大ヒット作品になりました。

品田氏は「批判を受けて黙ったりやめたりするのではなく、理解してもらえるように行動することでネガティブなエネルギーをポジティブに変えた」とポイントを分析していました。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

初日の足立氏からも「炎上の一歩手前が話題化なので、そこに一歩踏み込む勇気が大事」というエールが会場に投げかけられており、それを象徴する話といえるでしょう。

また、足立氏からは「話題化の施策はSNSやPRが中心なので、費用はそんなにかからない。失敗したら話題にもならないので、社内にも知られないため、リスクをもっと取って挑戦するべき」という指摘がされていました。

品田氏からも「自分がやりたいことが簡単にでき、そこで結果を出した人が、さらに次の挑戦もやりやすい時代。リスクを避ける情報が山のように流れているけど、あえてぶつかって乗り越える力が求められている」と、足立氏とシンクロするメッセージを投げかけていたのは、非常に象徴的だったと思います。

2人のエールに勇気をもらった日本のマーケターが、さらに新しい「話題化」に挑戦することを楽しみにしたいと思います。

(※この記事は、2024年8月15日付アジェンダノート寄稿記事を加筆・修正のうえ転載しています。)

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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