久保建英、岡崎慎司、乾貴士、武藤嘉紀。日本の選手に求められる「適応能力」とラ・リーガの課題とは?
2020-21シーズンは、4人の日本人選手がリーガエスパニョーラ1部で戦うことになった。
久保建英(ビジャレアル)、岡崎慎司(ウエスカ)、乾貴士(エイバル)、武藤嘉紀(エイバル)が各所属クラブで厳しいポジション争いに身を投じている。また、岡崎と武藤にとっては初めてのラ・リーガ1部での挑戦だ。
ラ・リーガで日本人選手がプレーするというのが、珍しくなくなった。以前まで「鬼門」とされていたのが、まるで嘘のようだ。
無論、日本の選手のクオリティが上がってきたのは間違いない。ただ、その背景にはラ・リーガの国際戦略と地道な努力があった。ラ・リーガ国際部門のイバン・コディーナ氏へのインタビューから、その過程が見えてきた。
■スペインでの日本人プレーヤーの印象
ーー現在のスペインにおける日本人選手の印象は?
「国外挑戦においては、第一に扉を開く人が必要です。乾の例ですが、彼はこの数年非常に高いレベルでプレーをし続けています。30歳手前からスペインでプレーしていて選手としてもキャリアの円熟期を迎えています。スペインのフットボールを理解している人にとっては、日本人選手の能力に疑いの余地はないでしょう。ですが、フットボールについては多くの要素が絡みます。ラ・リーガでプレーするためには、なおさらです。近年、日本人選手の評価が高まっているとしたら、彼らの適応能力というものが向上したからではないでしょうか。(それ以前に)技術面で問題があったとは思いません」
「あるいは、久保の例です。彼は快適にプレーしているように見えますが、幼少期をスペインで過ごしています。26歳、27歳でスペインに初めて来てプレーするのとは訳が違います。加えて、久保の場合は(バルセロナという)世界有数の育成組織を誇るクラブで育っています。それは大きな差になると私は考えています。適応能力という面では、スペインの文化、言葉、地域、食事、コミュニケーションの仕方、そういったものを理解できるというのは非常に大きいですね」
ーーラ・リーガと日本の関係について、考えを聞かせてください。
「ラ・リーガと世界各国のファンを繋げることが我々の仕事です。日本のケースでは、残念ながら、スペインのチームを遠征させたり日本のファンをこちらに連れてくるというのが簡単ではありません。その中で、ベストな方法を模索することです。現代においてはデジタルを通じたコミュニケーションが重要です。ただ、それは、その地域の言葉、この場合は日本語ですが、それを使えばいいという単純な話ではありません。そのマーケットをよく知ることが大切なのです。その国の日常、国民性、人々の振る舞い、そういったものですね。例えば、SNSひとつを取っても、日本ではFacebookよりTwitterの方が流行しています。新型コロナウィルスとパンデミックの影響で状況は難しくなっていますが、我々は専門家や企業と連携しながらマーケットを知り、我々のアプローチがきちんと届くように努力しています」
「(パンデミックの影響で)我々は一歩後退しなければなりませんでした。状況がまた戻れば、パブリックビューイングだったり、そういったイベントをまたやりたいと思っています。そのようなイベントはマーケットを活性化させるために大切ですからね。クリエイティブな方法を模索しています。今回の#Todayweplayのイベントは非常に良かったと思います。その効果はこれから分かるでしょう」
ーー言及されましたが、この夏に開催されたラ・リーガのオンラインコースの#Todayweplayについて、聞かせてください。
「これから分析のために(インスティトゥト・)セルバンテスの方々と話し合う必要がありますが、我々にとっては成功でした。初めてのオンラインでのコースでしたが、一方でオンラインであるゆえに多くのファンにリーチすることができたと感じており、それは非常に肯定的に捉えています。仮に参加してくれた方々にアンケートを取ったとしたら、ポジティブな回答が得られたのではないでしょうか。スペインのクラブと日本のファンを近づけるのが我々の目的でしたからね。とりわけ、各セッションの最後の部分にあったファンがクラブの関係者に直接質問できるというのは、とても良いアイデアだったと思います。一度目はオフラインで、二度目はオンラインで行われましたが、すでに現時点で三度目があるということは明言できますよ」
ーーラ・リーガのクラブ関係者にダイレクトに質問を届けるというのは、簡単にできることではありません。どのようにそのアイデアが出てきたのでしょうか?
「オンラインという手法だったので、インタラクティブなアプローチを考えました。聞き手が聞くだけという状況を、少し壊したかったのです。プレゼンテーションを聞いて、質問の時間が5分だけというのでは、多くの人たちが質問する意欲を抑えたまま、セッションが終わってしまいます。このラ・リーガのコースに関しては、参加する人が引っ込み思案ではないことは最初の回から見て取れました。彼らは好奇心旺盛な人たちです。なので、(30分の質問時間を設けるという)アイデアは正しかったと思っています」
ーー本当に、たくさんの質問が届きました。
「私が嬉しかったは、スピーカーがそれを歓迎してくれたことです。最後のセッションでは、セレッソ大阪のロティーナ監督に登壇していただきましたが、すごく居心地が良さそうでした。1時間にわたり話をした後、30分の質問タイムで答えることに難色を示すスピーカーがいてもおかしくはありません。ですが、今回のコースで登壇したすべてのスピーカーが、このやり方に好感を抱いてくれたと思います」
ーースペインのクラブで働きたいと考えている日本の方がいますが、それは可能だと思いますか?
「もちろん、それは可能だと思いますよ。ビジャレアルには日本のスタッフの方がいますし、バルセロナやバレンシアといったクラブでも日本の方が働いていたことがあると思います。そのクラブが求める人材であれば、国籍は関係ないでしょう。そういったプロフィールを持っているかどうかが重要だと思います。ただ、スペインで、あるいはスペインの人と一緒に働くのであれば、スペイン語は必要ですね」
■テレビ放映権とラ・リーガの課題
ーー話題を少し変えさせてください。ラ・リーガにとって、現在テレビ放映権はどれほど重要なものなのでしょうか?
「テレビ放映権は我々のビジネスにおいて根幹になるものです。それを隠す必要はないでしょう。各クラブにとって大事な収入源です。我々は戦略に基づいて動いていて、それはテレビ放映権に関しても何らかの影響を与えるものでなければなりません。コロナ禍において多くの変化が訪れている状況です。また、近年、OTT(オーバー・ザ・トップ)が発展してきています。その中でラ・リーガのテレビ放映権の価値を高めていく必要があります。そこに向けて働いていかなければいけません」
「この数年、その価値は非常に高まってきましたが、この状況では一度安定性を獲得し、そこからの成長を見据える必要があるかも知れません。私の記憶では、我々がシンガポールで管理している14カ国において、多くの国が複数年契約を残していると思います。なので、今後の変化を見極めるための時間があります」
ーー例えば日本では、日本人選手、バルセロナ、レアル・マドリー以外への関心が低くなる傾向があり、そこには課題があると感じます。
「それは普通のことです。ラ・リーガだけではありません。歴史、実績、ファンのベース...。そういったものが異なるからです。無論、我々はバルセロナやレアル・マドリーといった世界的なクラブがスペインにあることを歓迎しています」
「ドイツではバイエルン・ミュンヘンが一強化しています。もちろん、プレミアリーグに目を向ければ、5チーム、6チームが世界的に知名度があります。しかし、我々は正しい道を歩んでいると思います。近年、アトレティコ・マドリーはヨーロッパで地位を築いていますし、セビージャは欧州カップ戦で結果を残しています。バレンシアも過去にはヨーロッパの大会で上位に進出していますし、再びそこまで勝ち上がることを期待しています。向上の余地はありますが、我々の目標は1部の20クラブと2部の22クラブの価値を高めることです。個々の、ではなく全体としてスペインのクラブのブランドと評価を高めていくということです」
「リーグ戦によって人気クラブがあるのは当然です。ドイツではバイエルン、フランスではパリ・サンジェルマン、イタリアではユヴェントスが数年にわたり覇権を握っています。結果を見れば明らかです。それに、今シーズンのラ・リーガは本当にどうなるか分かりません。そこは楽しみなところですね」
ーー最後に、日本のラ・リーガのファンにメッセージをお願いします。
「我々はモチベーションに満ちています。先ほど話題に上がりましたが、本当に歴史的な瞬間を迎えていると思います。ラ・リーガの日本人選手、Jリーグでプレーするスペイン人選手...。しかし我々は満足していません。さらに大きな目標を達成するために働き続けます。日本のファンのみなさんには、毎週末、ラ・リーガを追ってほしいと思います。お気に入りのチームを追ってほしいですね。とりわけ、日本のぺリコ(エスパニョールファン)のみなさんにメッセージを伝えたいです。1年で戻ってこれるように応援してください。我々は日本のマーケットを重視していますし、より日本のファンのみなさんに近づけるように努力します。相互関係を築けるように、ファンのみなさんの声を聴き、我々の声を届け、ベストな方法でラ・リーガを楽しめるように全力を尽くしたいと思います」