久保建英、岡崎慎司、乾貴士、武藤嘉紀。ラ・リーガにおける日本とアジアのマーケットの重要性とは?
2020-21シーズンのリーガエスパニョーラは、新型コロナウィルスの影響で変則的な形で開幕を迎えた。
厳しい状況が続く中、ラ・リーガにおいては歴史的な瞬間が訪れたと言える。久保建英(ビジャレアル)、岡崎慎司(ウエスカ)、乾貴士(エイバル)、武藤嘉紀(エイバル)と4人の日本人選手が1部の舞台で戦っているのだ。
先日、ラ・リーガ国際部門のイバン・コディーナ氏にインタビューを行った。日本とアジアのマーケットの重要性、国際戦略について、話を聞いた。
■国際戦略とアジアのマーケット
ーー現在の仕事の内容について教えてください。
「国際戦略とそのプロジェクトの促進です。我々には、すでに素晴らしい製品があったと言えます。ですが、国外のマーケットに向けて発信していませんでした。それが5年前の話です。ラ・リーガのハビエル・テバス会長は5年ほど前から視野を外に向けなければならないと考えていました。5年前に遡ると、スペインのチームにとって、収入のおよそ85%はスペイン国内からで、残り15%が国外から得ているものでした。バルセロナとレアル・マドリーを含めなければ、国内からの収入はより大きな数字になっていたと思います」
「収入を増やすため、またそのバランスを変えるため国際的な戦略が必要でした。全体のパイを増やす目的で、50人前後の駐在員を全世界に派遣しています。私はシンガポールに居ますが、アジアのマーケットでは日本、韓国、オーストラリアに力を入れています。そうして各国のファンとの距離を縮めていくことが大切だと考えています」
ーーイングランドのプレミアリーグは、早くからアジアのマーケットに目を向けていました。
「確かに、プレミアリーグはラ・リーガより先を行っていました。彼らはここ15年から20年、アジアのマーケットに目を向けてきたと思います。それに対して我々は5年で、特に力を入れ始めたのはこの3年ほどです。もちろん、それより前にアジアのマーケットを軽視していたわけではありません。ただ、この3年に関しては、我々のプロダクトをより発展させ、そのポテンシャルを引き出す方向で動いてきたのです」
「レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーといったクラブだけではなく、無論そういったクラブの存在に感謝していますが、スペインの全クラブの価値が上がってきたと思います。プレミアリーグとの差は縮まってきたと思いますし、その道はまだ続きますが、各マーケットに対して興味深いプロジェクトを進めながら働いているという点ではラ・リーガに追随するところはないと自負しています」
ーーアジアのマーケットを見据え、この数年はスペインでも試合時間の変更が検討されてきました。
「それは鍵になったと思います。例えば、3年前を振り返ると、アジアのマーケットを考慮せずに多くの試合時間が決められていたように思います。そこを少しずつ変えていきました。変化は決して容易ではありません。スペインでは、なおさらそうかも知れません。しかしながら、現在、毎週4試合または5試合がアジアの時間帯に合わせて開催されています。それはラ・リーガがいかにアジアのマーケットを重視しているかという証です。クラシコに関しても(1シーズンのうち)少なくとも1試合はアジアの時間帯を意識して開催時間が決められています」
「我々に課題があるとすれば、もしかしたら、告知の部分かも知れません。どの試合を、どの時間帯に、どの放送で視聴できるかがうまく伝わっていないことがあります。『ラ・リーガは素晴らしいけど、いつも深夜に試合をやっている』というイメージは正しくありません。全世界のファンに合わせるのは簡単ではありませんが、その変化は視聴者の獲得やラ・リーガのブランドを高めるために非常にプラスに働いたと思います」
ーー例えば、日本人選手がいるチームが、日本時間23時(スペイン時間16時)に試合を行うことがあります。そのような考慮による効果はどれほどあるのでしょうか?
「それはいい質問ですね。影響力のある選手がラ・リーガに来てくれるのは、いつでも歓迎です。おそらく日本で有数のタレントたちがラ・リーガでプレーしていると思いますし、久保は若く世界的なスター選手になる可能性を秘めていると思います。昨シーズン、マジョルカは非常に良い仕事をしていました。我々としては、アジアのマーケットを考慮した時間帯に試合ができるように配慮していました。それがクラブとラ・リーガのためになると考えていたからです」
「(久保と)ビジャレアルのケースでどうなるか、ですが、より多くのファンが試合を見てくれることを期待しています。久保がチームにフィットして、良いシーズンを送れるかどうかも重要です。彼にとっても、マジョルカの時とは異なる挑戦になります。久保のプレースタイルから見れば、適したチームに移籍したと思いますが、一方でヨーロッパリーグに出場するような完成されたチームで戦っていくという側面があります。長年主力を務めてきた選手がいますし、主役になれるかという問題です。フットボールにおいてボールはひとつですからね。テクニカルな面に関してはあまり介入できませんが、(久保や日本の選手の存在による)効果が続いてほしいと思っています」
「また、ビジャレアルという特別なクラブの歴史を知ってほしいですね。日本のファンのみなさんはすでに多くのラ・リーガのクラブを知っていると思いますが、我々は『ラ・リーガには3つか4つ良いチームがある』と言われることが少なくありません。そういう意味ではビジャレアルのようなクラブが日本だけではなく広くアジアで認知されることを願っています」
ーー久保は特殊なケースかも知れませんが、課題としては彼がプレーしているか否かとそのチームへの関心というのがリンクしてしまう点があります。
「久保のクオリティに疑う余地はありません。ラ・リーガのファンだけではなく、全世界の人がそう思っているはずです。ただ、マジョルカでも、当初はレギュラーではありませんでした。彼が2019-20シーズンに見せたようなパフォーマンスを披露すると想像していた人は少なかったでしょう。彼はマジョルカのリーダーになっていましたからね」
「フットボールは気まぐれなものです。シーズンは長く、多くの要因が絡んできます。チームが好循環で回ったり、反対に負のサイクルに陥ってしまったり…。ですが久保には才能と能力があり、あとはそれを活躍につなげられるかどうかです。もちろん、ファンとしてはそうなることを期待するでしょう」
ーー久保を含めて、2020-21シーズン、ラ・リーガ1部には4人の日本人選手がいます。歴史的な瞬間です。
「そうですね。歴史的な瞬間です。そして、それは日本のフットボールが素晴らしい時期を過ごしていると言う証明になっているとも思います。これまで何度か他のインタビューでも語ってきているのですが、日本の選手は控えという役割やマーケティングの意味合いで獲得されてきているのではありません。純粋に戦力として、彼らを必要としているのです」
「現在、ラ・リーガのクラブはベンチに置く選手に高い年俸を払いたいとは考えていません。また、日本の選手はEU圏外枠(3枠)を占めることになります。それでも獲得してくるのは、彼らが世界最高峰のリーグでチームの主役になれる可能性を秘めた選手たちだからです。話はラ・リーガで日本の選手がプレーしているということに限りません。我々はDAZN、WOWWOW、スポーツナビ、ソニーバンクといった企業と連携しながら働いています。それはこの3年間の仕事の賜物です。日本のマーケットに大きな期待を抱いています。また、日本の人たちのスペインへの情熱は素晴らしく、例えばあなたのようにスペイン語に精通していてスペインの文化を知っている日本の方がいるのは、私にとっては不思議ではありません」
ーー日本人選手が商業的な意味合いでラ・リーガに移籍するというのは、過去のものになろうとしています。
「いまは日本の最高級の選手たちがラ・リーガでプレーしています。ただ、その状況がずっと続くかは分かりません。異なるシチュエーションになったとしても、問題がないように我々は準備をしておきたいと考えています。日本のマーケットにおいては、ラ・リーガのファンのベースというものがしっかりとありますが、(各マーケットに対して準備をしておくという)それは我々にとって挑戦です。また、ラ・リーガのレジェンドと言える選手たちがJリーグに行ったということを忘れてはいけません。彼らがラ・リーガのアイコンとして活躍してくれています。本当に、歴史的な瞬間だと言えるでしょう」