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本日(4月1日)施行!育介法改正による男性育休促進に向けた対応をチェック!

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
(写真:アフロ)

本日施行!

本日(2022年)4月1日から、育児介護休業法の改正が施行されました。

本日施行されるのは以下の点ですが、まだまだ多くの労働者にも使用者にも知られていないのが実情でしょう。

① 育児休業を取得しやすい雇用環境整備

② 妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け

③ 有期雇用契約労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

 さらに、本日の施行分に加え、2022年10月1日には、「男性育休」制度と報道された「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設・育児休業の分割取得の施行という大改正(この制度については、課題を中心に別に記事を書いたのでご覧下さい)、2023年4月1日には一部企業の育児休業の取得の状況の公表の義務付けも施行を控えています。

 全体として、育児休業の促進、とりわけ取得率が伸び悩む男性育休の促進を狙いとしています。

改正の背景

 男性の育児休業取得は、性別役割分業を固定化した職場の意識改革、ジェンダー平等の実現に大きく影響を与え、少子化対策の効果等も期待されています。

 ですが、厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、2020年の民間企業に勤める男性の育児休業取得率は(過去最高値を更新したとはいえ)12.7%に留まりました。

 政府の男性育休取得の数値目標(2020年までに13%)には及ばないし、女性の育休取得率が81.6%であることと比較すると、取得率には大きな差異があります。

 また、取得日数でもも問題があります。2018年の育休取得期間は女性では1年前後が約6割でしたが、男性は2週間未満が71.4%で、5日未満が36.4%を占めます。

 このままでは、政府の2025年までに30%という数値目標にも達しないでしょう。このような状況を踏まえて今回の改正がなされました。

① 育児休業を取得しやすい雇用環境整備

 この改正は、事業主に対して、新制度及び現行育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置を事業主に義務付ける制度の創設を求めるものです。

 具体的な内容は、研修、相談窓口設置、取得事例の収集・提供等の複数の選択肢からいずれかを選択するとしています。

 環境整備に当たっては、短期はもとより1か月以上の長期の休業の取得を希望する労働者が希望する期間を取得できるよう事業主が配慮することが求められ、可能な限り複数の措置を行うことが望ましいとされていることにも注意が必要です。

厚労省リーフレットより
厚労省リーフレットより

② 妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け

 この改正は、事業主に、労働者又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申出をしたときに、当該労働者(日々雇用を除き、有期雇用労働者も対象)に対し、新制度及び現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認するための面談その他の措置を義務づけるものです。

 配偶者が妊娠した男性労働者をも対象とする規定というのがポイントです。

 また、本年10月1日以降は、創設された産後パパ休暇制度も周知対象に含まれます(10月1日以降)。

 具体的な周知方法は、面談での制度説明、書面交付、電子メール(労働者が希望した場合)等による制度の情報提供等の複数の選択肢からいずれかを選択とするとされました。

 取得意向の確認については、育児休業の取得を控えさせるような形での周知及び意向確認を認めないとされていることは要注意です。

 事業主には、労働者がかかる規定で育児休業の申出をしたことを理由として解雇その他不利益な措置をしてはならないとも規定されています。

③ 有期雇用契約労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

 これまで、法律上の制限も影響して、育休が取得しにくかった有期雇用契約労働者の育児休業・介護休業の取得要件も緩和されました。

 具体的には、育児休業の場合は、従来はⅰ引き続き雇用された期間が1年以上、ⅱ1年6か月前の間に契約が満了することが明らかでない場合であったものが、ⅰの要件が撤廃されました。

 従来、有期雇用の労働者が育児休業を取得する際の大きな障壁になっていた要件ですので、この撤廃は評価できるものです。

厚労省リーフレットより
厚労省リーフレットより

最後に

 この法改正(とくに1と2)は、男性の育休取得促進に向けた流れでなされたものですが、男性育休取得率アップは、対象となる当該男性の意識の問題だけでは解決しません。

連合が実施した「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」(同年11月16日実施)では、男性で 「取得したかったが取得できなかった」のが31.6%にのぼります。

 そして、男性の育児休業を取得できなかった理由、または、取得しなかった理由は、「仕事の代替要員がいない」(53.3%)が最も高く、「収入が減る(所得保障が少ない)」(26.1%)、「取得できる雰囲気が職場にない」(25.6%)、「取得するものではないと思う」(10.4%)、「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」(7.2%)が続きます。

 また、この調査では、「仕事と育児を両立させたい」は 64.4%が理想(男性だと65.8%)とするも、「実際に両立できている」は 44.7%にとどまります。

 対象となる男性の意識だけでなく、取得しにくい職場・社会を許さない風土を変えていかなければ取得率は上がらないといえるでしょう。

  男性の育休取得率を上げるには、職場のみならず、社会全体の制度・意識改革が必要といえ、今回の法改正がこれを後押しするよう運用されることを期待しています。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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