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【世界バレー】強豪イタリアと対戦「スーパーオールラウンダー」林琴奈の数字では見えない貢献度

田中夕子スポーツライター、フリーライター
世界選手権で抜群の安定感を誇るアウトサイドヒッターの林琴奈(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「あの1本」に絡む選手

 試合が終わると決まって報じられる。

「この試合〇〇選手が最多△点」

 確かに。相手より多く点を獲れば勝利するのがバレーボールなのだから、より多く得点を獲った選手が大々的に報じられるのは不自然なことではない。

 ただ、もどかしいな、と思うのはサッカーのように“アシスト”が報じられないこと。

 1本目のパスをした選手、2本目のセットをした選手。さらにいえば、スパイクが1本で決まらず、しかも相手にブロックされたボールが床に落ちるか、落ちないか、という時に「つないだのは誰だ?」と目を凝らさなければ気づかないような場所で、出した手がボールをつなぎ、ピンチを救う選手もいる。

 サーブやスパイク、ブロックの決定本数や決定率のように数字へ表れることはなくとも、振り返れば確実に「あの1本が大きかった」と、多くの選手が口を揃えるであろう1本。

 おそらくこの世界選手権で、最も多くそんな「誰がつないだ?」という状況でさりげなくボールを拾い、得点につなげていたのはきっとこの人だ。

 アウトサイドヒッター、林琴奈。

 昨夏の東京五輪にも出場したが、スタメンで出場したのは韓国戦のみ。2枚替えやワンポイントで投入されるケースが多かったことに加え、決して派手な選手ではない。

 だがあえて特筆したい。覚えておいてほしい。それぞれが持ち味を発揮し、得点につながる場面にはきっと何かしらの形で林が絡んでいる。その前のパス、フォロー、そしてレフト、バックセンターが多めと警戒する相手に小気味よく放つ、ライトからのスパイク。

 東京五輪と同様に、スピードバレーを掲げる中ではあるが、林自身は「(東京五輪の時は)1本目のパスから低く速く返球して、相手ブロックが間に合わないうちに攻撃する意識でやってきたけれど、(現在は)1本目は高さを出して、スパイカーが開ける助走を確保することを意識している」と言うように、パスをしてからも十分攻撃に入る間があり、林の機動力や器用さも随所で発揮され、欠かせぬ戦力となっている。

 攻撃、守備、サーブに加え、数字に残らぬ貢献度。林は現在の日本代表でオールラウンダーを飛び越え、むしろ“スーパーオールラウンダー”と言うべき存在だ。

「林が抜けた穴は1人分では表せないぐらい大きい」

 頭角を現したのは、金蘭会高に入学してからだった。

 1年時からレギュラーに抜擢され、しなやかなフォームで次々スパイクを決める。攻撃力だけでなく、高校生ながらブロック&ディフェンスや筋力トレーニングも重視する金蘭会高は、1人1人の運動能力や技術も高く、派手なレシーブではなくブロックと連携して“その場で待つ”レシーブから、着実に得点する。手堅いチームの中で、1年時の林は攻撃面の比重が高い印象があった。

 1つ上には宮部藍がいて、全国制覇を狙った2年時の17年も前年に続いて準決勝敗退。泣き崩れる先輩たちと少し離れた位置に立ち、呆然と立ちすくむ林がいた。数年経ってからその時のことを尋ねると、少しうつむき、小さな声で言った。

「1年の春高も自分のスパイクミスで負けたんです。『来年は絶対、先輩にこんな思いをさせない』と思って必死にやってきたつもりだったのに、また準決勝で負けてしまった。頭の中ではずっと、自分のせいだ、とか、ごめんなさい、って思っていました。でも、ここまで本当に必死で、チームを引っ張って、チームのために戦ってくれた先輩の姿を見てきたのに、そんな無責任なことは言えませんでした」

 主将となり、リベンジを誓った3年目、最後の春高。1つ下には西川有喜や中川つかさといった当時のU18代表選手がずらりと揃い、金蘭会高は優勝候補の大本命。それだけでなくインターハイ、国体を含めた三冠の達成も夢ではないと目されたが、インターハイはまさかの初戦敗退。タレント豊富な面々の中で唯一、レギュラーとしてコートに立つ3年生が林だった。

 リベロの水杉玲奈と2人でほぼすべてのサーブレシーブを担い、広い守備範囲でとにかく林がボールに触る。今と同様、時にサーブレシーブをして攻撃に入り、後輩たちが攻める時は「どんなボールも落とさない」とばかりにブロックされたボールにも食らいつく。

 1年の頃は攻撃型だった選手が、これほど守備に徹するか、と驚かされるほど、林がいるコートにはボールが落ちない。自身も「自分が拾いさえすれば後輩が決めてくれると信じていた」と言うように、表向きはチーム最多得点を叩き出す大エースという存在では決してなかったが、まぎれもなくチームにとって欠かせぬ絶対的な柱であることは、悲願の優勝を遂げたその年よりも、林が抜けた翌年、金蘭会高を率いる池条義則監督が発した言葉が何より顕著に表していた。

「周りからは3年生だった林さん1人が抜けて、コートにはリベロを含めた6人の優勝経験者が残っている。今年も強いですね、と言われますが、違うんです。その林が抜けた穴は、1人分では表せないぐらいに大きいんですよ」

攻守の要、チームの精神的支柱として、金蘭会高3年時の春高では優勝を遂げた
攻守の要、チームの精神的支柱として、金蘭会高3年時の春高では優勝を遂げた写真:西村尚己/アフロスポーツ

冷静沈着、かつ“いじられ役”

 卒業後に進んだJTでも、ルーキーイヤーから林はスタメンに抜擢されたが、もっと正確に言うならば、彼女がVリーグで初めてコートに立ったのは、金蘭会高を卒業直後の3月。しかもその舞台はシーズンの優勝を決める決勝戦だった。

 それからも常に、試合へ出れば安定した活躍を見せる、まさに“オールラウンダー”そのものなのだが、試合後や、大会前のインタビュー時は言葉数が多いわけではなく、むしろ盛り上がっている周囲を見ながら静かに笑うタイプで、先輩からいじられることのほうが多い。あるシーズン後に先輩選手と対談取材の際「林選手の印象は?」とたずねると「ひょっこりはん!」と即答され、「嫌だー!」と苦笑いしていたこともあった。

 おとなしくて、いつも穏やか。そんな印象が強いせいか、眞鍋政義監督が「2次ラウンドで最も重要な試合」と位置付けていたという4日のベルギー戦、第4セットにマッチポイントとなる24点目を金蘭会高の宮部藍と並び、ブロック得点で決めた直後、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる姿が、実にほほえましく、むしろ新鮮だった。

 厳しい状況や長いラリーを制した後も表情を変えることなく、淡々と自身の役割に徹するのみ、という職人肌の姿もいいが、抑えきれずぴょんぴょん飛び跳ねる姿も、また林らしい。

 今夜はグループ1位のイタリア戦。今夏のネーションズリーグも制した相手にどんな戦いを見せるか。全勝できたイタリアも昨夜ブラジルに敗れたイタリアは、1次ラウンドでブラジルに勝利した日本に万全の対策を練って臨んでくるはずだ。

 どちらが試合を制するか。結末はわからない。

 ただ、確かなことが1つ。きっと、試合を動かす大きなポイントになる場面には、必ず林が絡んでいる。それだけは間違いない。

スーパーオールラウンダー林琴奈。イタリア戦ではどんなプレーを見せるか注目だ
スーパーオールラウンダー林琴奈。イタリア戦ではどんなプレーを見せるか注目だ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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