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新型コロナウイルスワクチンのブースター(3回目)接種、妊婦はどう考えれば良い?産婦人科医が解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスのワクチン接種

日本における新型コロナウイルスワクチンは、2021年10月21日時点で累計接種回数は1億8334万回となり、総人口の68.6%、8693万人が2回接種を完了しています。(文献1)

しかしながら、日本の妊婦における接種状況ははっきりしていません。

厚生労働省も日本産科婦人科学会も妊婦へのワクチン接種を推奨しています(文献2,3)が、その接種回数はリアルタイムに公開されていないためです。

米国では妊娠中の重症者や死亡者に注目が集まっている

米国では、2020年1月以降、少なくとも180人の妊娠中の人が新型コロナウイルス感染症(Covid-19)で死亡しています。これを受けて、米国CDC(疾病予防管理センター)は2021年9月末に、妊娠中や授乳中の女性へのコロナワクチン接種を強く推奨する声明を改めて出しました。(文献4)

そのような状況の中で、米国では「ブースター接種」が2021年9月より開始されています。これは、2回の接種完了後に追加して接種する3回目のワクチンのことを指します。

また、中国やイギリスでも2021年10月よりブースター接種が開始されました。

*なお、日本のデータとして2021年9月15日に公開された「国内でのCOVID-19妊婦の現状 ~妊婦レジストリの解析結果」では、登録された感染妊婦180人のうち重症は3人(1.7%)で、死亡者は報告されていません。

ブースター接種ってどういうもの?

米国CDCは、ブースター接種が必要な理由について以下のように説明しています。

・コロナワクチンを接種した後、ウイルスに対する防御力は時間の経過とともに低下する可能性があり、デルタ変異に対する防御力も同様に低下する可能性があることが研究によりわかってきている

・小規模な臨床試験データによると、ファイザー・ビオンテック社ワクチンのブースター接種は、6ヶ月前に2回の接種を完了した試験参加者の免疫反応を高めた

つまり、2回のワクチン接種を完了しても時間の経過とともに抗体が減少してしまい、ウイルスへの防御力が落ちてしまう可能性があります。これによって特定(高リスク)の人々のなかで感染リスクや重症化リスクが高まってしまうことが懸念されているのです。

現時点でCDCがブースター接種の候補者に挙げているのは以下の人々です。

・高齢者や50~64歳の基礎疾患を持つ人

・18歳以上の長期療養施設入居者

・18〜49歳の医学的リスクを持つ人

・コロナウイルスへの曝露および感染のリスクが高い従業員および居住者

では、重症化や死亡する妊婦に注目が集まる中で、妊娠中のブースター接種についてはどのように考えられているのでしょうか。

妊娠中のブースター接種:最近の米国専門機関の見解とは

2021年10月19日に、The NewYork Timesに「Should You Get a Covid Booster if You Are Pregnant?」というタイトルの記事が掲載されました。

その中で、CDCやACOG(米国産婦人科学会)の見解が紹介されているので、これを詳しく見てみたいと思います。

1. CDCが示す「ブースター接種」対象者に妊婦が含まれている

CDCはブースター接種が勧められるという医学的状況の中に「妊娠」を含めています。(文献5)

これは、妊娠中ではCovid-19が重症化しやすく、早産等によって新生児にも大きな影響が及んでしまう可能性があるためです。

公式のガイドラインでは、妊娠中の人を含む「高リスク」のカテゴリーに該当する人は、個々のリスクとベネフィットを考慮した上でブースター接種を受けることが勧められています。

2. CDCの担当主任研究者のメッセージ

CDCの妊婦に対するワクチン接種の担当主任研究者(産婦人科医でもある)は、The NewYork Timesの記事内でこのように述べています。

ブースター接種が安全上大きな問題を抱えていることを示す根拠はありません。

そして、妊娠中、産後、妊娠を考えている人、将来妊娠する可能性のある人はワクチンを接種すべきだと言及しています。

これは、いずれもCDCが公式に出している見解に沿ったものです。(文献5)

3. ACOG(米国産婦人科学会)の見解

2021年10月1日にACOGの公式ウェブサイト情報が更新されました。(文献6)

その中でブースター接種について新たに言及されており、以下のように書かれています。

妊娠中の(医療従事者を含む)女性は、ファイザー・ビオンテック社製のコロナワクチンの接種(2回)が完了してから少なくとも6ヵ月後に、コロナワクチンのブースター接種を受けることを推奨します。

つまり、産婦人科の専門学会もCDCの推奨と同様に、妊娠中のブースター接種を勧めていることを明らかにしています。

日本ではまだブースター接種は実施されていません

なお、2021年10月24日現在、日本ではブースター接種はまだ実施されていません。日本国内でも追加接種を公的に認めるかどうかは政府の判断となりますので、その検討結果を待つ必要があります。

冒頭でも述べた通り、データがなくはっきりとしたことが分かりませんが、日本ではまだ妊婦さんへの2回接種が十分に行き届いていないと考えられます。

まずは「高リスク」のカテゴリーに含まれている妊婦さんの多くが、しっかりと2回接種を完了することが大切だと言えるでしょう。

ブースター接種については、米国など海外の動向を注視しつつ、日本国内での検討結果を待ちましょう。

*本記事の内容は2021年10月24日時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく下記リンク等から最新情報をご参照ください。

参考文献

1. 日本経済新聞.

2. 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A.

3. 日本産科婦人科学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報.

4. CDC Statement on Pregnancy Health Advisory.

5. CDC. Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United States.

6. ACOG. COVID-19 Vaccination Considerations for Obstetric–Gynecologic Care.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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