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次の50年に向けての会見で思う。「スーパーフォーミュラの存在意義って何だ?」

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スーパーフォーミュラ(2019年) 【写真:DRAFTING】

国内最高峰のフォーミュラカーレース「スーパーフォーミュラ」(全日本スーパーフォーミュラ選手権)が新しいプロジェクト「SUPER FORMULA NEXT 50(ネクストゴー)」を発表し、ホンダウェルカムプラザ青山で記者会見が行われた。

この新プロジェクトは日本のトップフォーミュラカーレースが2022年に50年目のシーズンを迎えるにあたり、SDGsやカーボンニュートラルといった社会の新しいスタンダードに対応しながら進めていくもので、いわばスーパーフォーミュラの未来像を作るためのプロジェクトだ。

同レースに参戦するレーシングドライバーの山本尚貴(ホンダ)、小林可夢偉(トヨタ)がそれぞれのメーカーを代表してステージに登壇。

ホンダとトヨタが共同でバックアップし、スーパーフォーミュラの未来を作り上げていくという姿勢は伝わったものの、NEXT 50で実施される具体的な取り組みが発表されたわけではなかった。今回は概念を説明するキックオフ的な会見だったと言える。

SUPER FORMULA NEXT 50の記者会見(SUPER FORMULA YouTubeより)
SUPER FORMULA NEXT 50の記者会見(SUPER FORMULA YouTubeより)

スーパーフォーミュラの立ち位置

国内最高峰のフォーミュラカーレースは「全日本F2000選手権」として1973年に歴史が始まった。その後、1978年〜1986年は「全日本F2選手権」、1987年〜1995年は「全日本F3000選手権」、1996年〜2012年は「フォーミュラ・ニッポン」、そして2013年以降は「スーパーフォーミュラ」と名称を変えながら半世紀の歴史を刻んできた。

国内最高峰のフォーミュラカーレースは50年の歴史を迎える【写真:DRAFTING】
国内最高峰のフォーミュラカーレースは50年の歴史を迎える【写真:DRAFTING】

世界最高峰のF1の傘下にはF2があり、スーパーフォーミュラはそれに近い立ち位置ではあるが、しばしば議論になるのが、日本独自のフォーミュラカーレースの立ち位置、存在意義だ。

F2の時代は日本一のドライバーを決めるレースとして、F3000の時代にはF1に近い迫力を持ったレースとして人気を獲得。そして、1990年後半のフォーミュラ・ニッポンではF1を目指す候補生たちのステップアップレースというスタンスになり、それぞれの時代で国内トップフォーミュラの存在意義は異なっていた。

全日本F3000でエディ・アーバインが走らせたマシン【写真:DRAFTING】
全日本F3000でエディ・アーバインが走らせたマシン【写真:DRAFTING】

2000年代になると、F1へのステップアップのチャンスは少なくなり、何をテーマにしたレースなのかよく分からなくなっていき、人気が低迷していった。

イタリアのダラーラ製のシャシーを導入した2014年以降はストフェル・バンドーンやピエール・ガスリーなどF1候補生が参戦するようになり、レースのレベルアップと共にモータースポーツファンからは再び注目される存在になっていった。

しかし、今のテーマが何なのか?

どういう立ち位置を取り、存在意義は何なのか?

と問われれば、答えに苦しむ。実際にスーパーフォーミュラのホームページに明確なテーマやスローガンが示されているわけではなく、この部分がもっと明確になればより分かりやすく、多くの人が楽しめるレースになるのではないかと思う。

ドライバーズファーストの姿勢

今回のSF NEXT50の発表はシリーズのテーマやスローガンとはまた違うが、一つの目標に向かって関係者が一丸となって進んでいくという意味では、進むべき姿勢が示されたことは良いことである。

会見でビジョンを語る上野禎久プロジェクトリーダー(SUPER FORMULA YouTubeより)
会見でビジョンを語る上野禎久プロジェクトリーダー(SUPER FORMULA YouTubeより)

一つのビジョンとして明確に示されたのは「ドライバーズファースト」という姿勢。プロモーターのJRP上野禎久プロジェクトリーダーは「モータースポーツはクルマを使うスポーツでありますが、主役はやはりドライバー。これまで数多くのトップドライバーを世界に輩出してまいりました。スーパーフォーミュラの存在意義を見つめ直し、グローバルにおけるスーパーフォーミュラの価値でありますとか、参戦するドライバーの価値を上げることを目的に、全ての意思決定を見直して参ります」と会見で述べた。

スーパーフォーミュラはトヨタ、ホンダがエンジンを供給しているが、性能はほぼ同じで、なおかつ車体とタイヤは共通。イコールコンディションに近い形でレースが行われており、ドライバーの実力差が結果となって表れてくる。

ただ、現状はレースを面白くするために、レース中のタイヤ交換が義務付けられているため、作戦面や作業の正確性でもチーム力が結果を左右することが多い。チームのエンジニアリング力も大事な要素であり、それもレースの魅力なのではあるが、2022年以降はよりドライバーにスポットを当て、情報発信のあり方やサーキットでの楽しみ方を段階的に見直していくとのことだ。

スーパーフォーミュラ(2019年)【写真:DRAFTING】
スーパーフォーミュラ(2019年)【写真:DRAFTING】

かつてF2の時代に「星野一義vs中嶋悟」の対決構図がファンの心を掴み、40年経った今でも2人のトークショーは人気コンテンツになっているように、フォーミュラカーレースはドライバーの個性や走りにより焦点を当ててシリーズを盛り上げていかなければならないだろう。時にはエンターテイメントとしてのユーモアあふれる演出も必要なのではないだろうか。

また、スーパーフォーミュラのドライバー起用はエンジンを供給するホンダとトヨタの意向に左右される部分が大きいため、年によってドライバーラインナップが大幅に入れ替わることがある。ただ、前年に大活躍したドライバーが別のシリーズに転向したり、かつてチャンピオンや優勝を経験した名ドライバーがシレッと引退していったりするのは毎年見ていて残念に思うことだ。

ただ単に1年シートを失っているだけの場合もあるが、少なくとも優勝したことがあるドライバーには、最終戦や翌年の開幕戦での(例えSUPER GTでは現役であっても)引退セレモニーを用意するべきだし、卒業ドライバーのその後の活躍はシリーズとしてもっと発信するべきではないだろうか。シーズンごとの繋がりがなく、何年の誰々の優勝は凄かったとファンが語れるように過去映像の発信も必要ではないだろうか。

新技術の開発を共同で

情報発信という意味ではスーパーフォーミュラは2022年からエンターテイメント価値の向上を狙いデジタルシフトを推進していくという。

イメージとしてはスマホなどのデジタルデバイスを使って全車のオンボード映像や無線交信を公開し、ファンに新たな楽しみ方を提供しようというものだ。来年1月にこのシステムは発表される見込みとのことだが、その機能はファンの意見を聞きながら拡充されていくという。

開発に使われるテストカーのイメージ(SUPER FORMULA YouTubeより)
開発に使われるテストカーのイメージ(SUPER FORMULA YouTubeより)

また、技術開発の面ではしばらくの間は現状の2リッター4気筒直噴ターボエンジンのフォーミュラカーを使うことになるようだが、カーボンニュートラルというテーマへの対応として、「e-Fuel」や「バイオFuel」といったカーボンニュートラルフューエル、植物由来の天然素材バイオコンポジットを使ったシャシーなど次世代レーシングカーの開発を進める。テストカーをレースウィークに観客の前で公開し、走らせ、その技術開発の状況をファンに伝えながら開発していくようだ。

そこにトヨタとホンダが全面的に協力するというのは非常にポジティブなことで、今回、それぞれのメーカーのモータースポーツを担当する代表者が同じステージに立ったということは今後両メーカーがスーパーフォーミュラをしっかり支えていくということでもある。

SDGs、カーボンニュートラルなど自動車メーカーが取り組んでいかなければいけない課題は多い。その中でモータースポーツができる貢献は、やはり「走る実験室」として技術開発に協力することであろう。いつか世の中の役に立つかもしれない技術を現場で磨き、それを伝えることで社会に認められる存在になっていかなくてはいけないのだ。

トヨタの代表ドライバーとしてステージに立った小林可夢偉はこう言った。

「変われるチャンス、変わらないといけないと思う」

今やメディアに取り上げられなくてもドライバー自らが発信できる時代。ブラックボックスに包まれた世界ではなく、開発の最前線にいるドライバーが積極的に発信することで、何かが変わっていくだろう。すでにベテランドライバーの領域に入った山本尚貴、小林可夢偉の2人にはドライバーズファーストの旗振り役として頑張ってもらいたいものだ。

(動画:SUPER FORMULA NEXT50会見)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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