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青森のもう一つの強豪校。東北4強・八戸学院野辺地西は「青森山田さんのおかげで強くなれた」

川端暁彦サッカーライター/編集者
野辺地西主将の木村大輝(左)は東北トレセンにも選ばれた(写真提供:森田将義)

「あそこなんか強くなってるな」。意図して定点観測しているというわけではないのだが、何となく定期的に観る機会があるチームにそういう印象を抱くことがある。八戸学院野辺地西高校はそんなチームだった。

 野辺地西高校のある青森県野辺地町は青森県のほぼ中央、北海道へ向かって突き出した二つの半島の付け根部分、その東側に位置する人口1万2千ほどの小さな町だ。サッカー的には「柴崎岳の出身地」と言えば、わかりやすいのかもしれない。

 このサッカー部が明確に「強くなっている」。1月25日まで福島県Jヴィレッジにて開催された東北高校新人サッカー選手権において4強入り。視察に訪れていたあるJクラブのスカウトは「青森山田のいる県じゃなかったら全国に出てるだろう」と舌を巻くパフォーマンスだった。

東北トップレベルの実力校として

 分かりやすく結果から言えば、高校サッカー選手権の青森県予選は「青森山田」がずっと勝ち続けているのだが(24連覇である)、2013年からの過去8大会を観ると、実に6大会で決勝の相手は「野辺地西」。直近の4大会はすべて野辺地西であることも地力を付けたことをうかがわせるが、特筆すべきは試合内容だろう。

 当初は決勝で相対したと言っても、大差での負けが目立ったが、近年は様相が違う。3年前は1-2の惜敗、一昨年は0−0からのPK負け、昨年は0−3の負け。ちなみに直近3度の全国高校サッカー選手権における青森山田の成績が「優勝→準優勝→準優勝」という抜きん出たものであることを思えば、接戦に持ち込んでいることの意味は分かってもらえるのではないだろうか。もちろん、試合内容を観れば、まだまだ力の差は大きいと感じるものだったが、確実に地力を付けているのは間違いない。

 青森山田とPK戦を演じた一昨年のチームは東北高校サッカー選手権において、専大北上、羽黒、遠野といった東北の強豪校を次々と破って準優勝を達成。高校年代でのリーグ戦文化が浸透する中で以前ほどの権威を持つ大会でなくなっているとはいえ、「野辺地西強し」を強く印象づけた。

 昨年はコロナ禍の影響で大会自体がなくなってしまったが、今年2月の東北新人大会は参加校が8チームから16チームに広がる中で(正確には東日本大震災以降に縮小された大会規模が元に戻った)青森県2位として出場権を得ると、快進撃を披露した。

 コロナ禍もあって「11月を最後にちゃんとした試合をしていなかった」(三上晃監督)上に、野辺地町は豪雪地帯。「八戸まで2時間かけて遠征し、1時間半雪かきをして、2時間練習する」という状態だったと三上監督は笑うが、福島東と東北学院を下して4強へ進出。ここで仙台育英に敗れて、「もう一度山田と戦う」という目標は叶わなかったものの、東北レベルで十分に戦える力があるという手応えは掴んだ。

「山田さんのおかげで強くなれた」

 八戸市を拠点とするウインズFCの選手が先発11人中4人を占めるほか、三本木中学校など県内(主に東側)出身の選手たちで構成されるチーム編成で戦いながら結果も出てきた。こうなってくると「青森山田さえいなければ……」という恨み節の一つも出てきそうなものだが、三上監督の見解は真逆だった。

「全国基準のチームが県内にいることは本当にありがたい。山田さんを倒して全国大会に出たら全国優勝を狙えるということ。山田さんのおかげで強くなった、強くしてもらったと思っている」

 打倒山田を基準に考えれば、自ずと意識も高くなるということだろうし、こうした大会でぶつかる名のある強豪校を前にしても、「山田と比べれば」と物怖じすることもない。

 直接試合でぶつかった経験から身体的な強さの差を痛感した選手が「食事や睡眠のことを意識するようになった」(MF木村大輝)といったことが起きるのも、意識の高いチームが身近にいて、その打倒を目標にしているからこそだ。

高校スポーツの醍醐味

 実を言うと、こうした変化は青森山田のほうにもポジティブな影響をもたらしたと感じている。野辺地西が骨のある相手となり、県予が簡単でない舞台になることで、「負けたら終わり」の緊張感のあるシビアな経験を予選段階で積めるようになった。彼らが予選を楽勝で抜けるのではなく、そこの苦戦を通じて「良い薬」を得られるようになったことが、全国大会での3年連続決勝進出という成果にも繋がっていると感じるのだ。

 サッカーは相手あってのスポーツで、自分たちだけで強くなることはできない。全国大会だけに価値を見出していると勝者がすべてを持っていって敗者に何も残らないように錯覚しかねないが、実際はそうではない。青森山田の存在が青森県自体のベースアップを生み、「打倒山田」のために高い基準を設定したライバル校の存在が、青森山田をより逞しくしていく。そうした好循環こそ高校スポーツの醍醐味だろう。

 野辺地西を準決勝で2−0と下した仙台育英は、決勝で青森山田に1−6と大敗。あらためて「青森山田強し」が強烈に印象付けられる大会だった。ただ、青森県のもう一つの実力校が、その確かな地力を証明した大会であったことも間違いない。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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