緊急事態宣言再び延長へ 飲食店が「時短営業」や「酒類提供自粛」に従わない理由とは?
グローバルダイニングの「抵抗」
新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的とした3度目の「緊急事態宣言」が東京に発出されて1ヶ月以上が経った。当初は4月25日から5月11日までの「短期集中」とされていたが、31日まで延長された。さらに27日、東京都が政府に再延長を要請したことを受けて6月20日まで再延長されることが決まった。しかし、飲食業界では6月1日からの再延長については要請を拒否すると宣言する店が増えている。
この一年余り、飲食店は度重なる「時短営業」や、実質的な「酒類販売禁止」要請で大打撃を受け続けている。そんな中で東京都は17日、休業要請・酒類の提供の停止要請に従わなかった飲食店33店舗に対して、特措法第45条第3項に基づく初の「休業命令」を出した。そのうち23店舗に該当するのが、『ラ・ボエム』や『権八』『モンスーンカフェ』などのレストラン約40店舗を展開している『株式会社グローバルダイニング』のレストランであった。27日にはさらに3店舗が追加され、『グローバルダイニング』への休業命令は26店舗となった。
『グローバルダイニング』は2度目の緊急事態宣言下でも、「飲食で19時までの飲食の提供、20時までの営業では事業の維持、雇用の維持は無理」として、時短営業要請を拒否。その後、東京都からの時短営業命令を受けて「営業の自由を侵害し違憲で、違法だ」と反発し、都に損害賠償を求める訴訟を起こしている。さらに18日には、代表の長谷川耕造氏が自社ホームページ上で「東京都は政府が作成した緊急事態宣言の指標には達しておらず『緊急事態下ではない』」とした上で、「今回の命令は違憲・違法で無効な命令であるとの前提から、営業の継続を判断」したとし、通常営業を継続する姿勢をあきらかにした(参考資料:株式会社グローバルダイニングホームページ)。
通常時よりも利益が出ている「コロナ成金」もいる
東京都では時短営業要請や休業要請に対する「感染拡大防止協力金」として、中小企業等は一店舗当たり80万円から400万円、大企業は一店舗当たり上限400万円を、一日の売上高減少額に基づき算出して支給するとしている(参考資料:東京都産業労働局)。
この金額が多いのか少ないのかは店の規模や家賃、人件費などによって変わる。個人店や小規模の店の場合は、通常の利益よりも多い協力金が得られる場合もあるし、大規模な店の場合は雀の涙にもならない場合がある。今回、グローバルダイニングも「弊社レストランを必要とするお客様のため、従業員を守るため、お取引先を守るため、営業を続けさせていただきます」とコメントしている。
その一方で「コロナ成金」の言葉もあるように、個人店などで売り上げがそもそも低い店などでは、協力金太りしているお店もあるのも事実だ。一般的に飲食店の利益率は1割程度と言われているが、仮に一日あたり4万円の利益が残る場合の売り上げは一日40万円、月に1,000万円ほど売り上げる店となり、個人店としてはかなりの売り上げを持つと言って良いだろう。しかし、実際は月に100万円程度の売り上げの店であってもその金額が手に入ることになる。もちろん固定費などがそこから引かれるが、狭小店で個人でやっているような店は、通常の売り上げよりも多くの協力金を手にすることになる。
「周りの個人で飲食店をやっているオーナーと話をすると『10年営業していて過去最高益だ』とニコニコしています。そもそも深夜営業をしておらず、1時間程度閉店時間を前倒しするだけで協力金が出たり、雑居ビルの中のバーなどでは看板の電気を消して休業と偽って営業もしています。うちは家賃も高く人も雇っているので協力金だけでは回していけません。路面でやっているので闇営業も出来ません」(居酒屋オーナー)
多くの飲食店は「仕方なく」要請を拒否している
「コロナ太り」している一部の店は主に一人でやっていたり、家賃が比較的安い小規模な店がほとんどで、大半の飲食店にとっては協力金だけでは回せないのが現実だ。特に都内中心地であれば地代家賃の占める割合は大きく、一日数万円の協力金では足しにもならないケースは少なくない。また、人件費については休業や時短営業をすればアルバイトを使わずに済むはずだが、簡単にアルバイトを辞めさせられない事情もある。
「アルバイトの子たちにも生活がありますから、そう簡単に時間を減らしたりは出来ません。休業時に申請できる『雇用調整助成金』も先にこちらが支払ってからの申請になるので、キャッシュフローがない今の状態では厳しい。そして何よりも店を閉めたりシフトを減らしてしまうと、当たり前ですが人が辞めていくんです。お店としてもアルバイトの子たちがいなくなってしまうのは痛手なので、結果として開けるしかありません」(レストランオーナー)
「自分だけの都合で言えば、絶対に休業に従った方がいいんです。しかし、自分についてきてくれた従業員たちを路頭に迷わせるわけにはいきません。アルバイトの人たちも、うちの場合は学生とかではなくアルバイト一本で生計を立てている人が多いので、社員と同じようなもの。彼らの生活を維持していくためには、協力金だけではどうにも回せません」(ラーメン店オーナー)
さらにそのわずかな協力金についても、特に今年に入ってから東京都をはじめとする都市部での支払いの遅滞が目立つようになってきた。都市部は店舗数も多く処理に時間がかかっている事情もあるのだろうが、飲食店にとっては死活問題だ。そんな中での6月1日から再延長。見通しが見えない中での要請にはもう対応は出来ないと感じている飲食店が多いのは当然のことだろう。
一日も早くコロナウイルスの感染が収束して欲しいと感じているのは飲食店も同じだ。金儲けのために開けたいわけではない。わずかな協力金だけでは回せない、その協力金ですら遅延が続いている結果として「開けざるを得ない」店がほとんどなのだ。仮にコロナでの感染者や死者を減らすことが出来ても、その代償として多くの飲食店が潰れたり経済的に立ち行かなくなってしまうのでは意味がない。国や地方自治体には、今一度飲食店の実情をしっかりと感じて欲しいと願わずにはいられない。
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