JR石勝線4日ぶりに復旧も「農産物などの貨物」一部しか輸送できず 浮かび上がった物流危機
8月31日の豪雨被害により不通となっていたJR石勝線の運行が4日ぶりに再開された。JR石勝線は、豪雨の影響で川端―新夕張間の線路内に土砂が流入したり、路盤が崩壊するなどしたことから復旧作業がすすめられてきたが、9月4日11時12分発の帯広発札幌行の特急とかち6号から運行を再開した。
今回の運休で異例ともいえたのは、JR北海道が特急列車の代行バスの運行を行わなかったことだ。こうしたことから9月1日には札幌と帯広・釧路方面を結ぶ高速バスや航空便は満席となり、札幌駅では移動手段を確保できなかった乗客が駅員に詰め寄る姿も見られた。JR北海道はその理由について9月2日に「代行バスは必要台数確保の見通しが立たないため」と発表。昨年の石北本線の災害時は旭川―北見間で特急列車の代行バスの運行が行われていたことから、2024年のドライバーの残業規制強化を迎え、ドライバー事情はより厳しくなっていることが伺える。
今回、さらに深刻だったのは物流への影響だ。北海道新聞が報じたところによると、「トラック代替を断念したケースもあったほか、運べたのはごく一部の貨物だったのではないか」という。背景にはトラックの手配が難しくなっている現状がある。この時期は、十勝・釧路地方で生産されるジャガイモや砂糖などを石勝線経由で本州方面に輸送している。船舶代行も突発的な災害への対応は難しかったようだとの声もある。十勝地方には広尾町に十勝港があるが、帯広市からは約80km離れており港までの輸送は結局はトラックに頼らざるを得ない。
JR北海道は、十勝・釧路地方から空知・上川方面に迂回できるルートであった2024年3月31日限りで根室本線の新得―富良野間を廃止したことから、石勝線の寸断時に貨物列車や特急列車が迂回運転できるルートがなくなってしまった。こうした話題を出すと、釧路―網走間を結ぶ釧網本線を迂回すればよいと指摘をされる方が必ずいるが、釧路・網走回りでは距離が遠くなり過ぎてしまい迂回路としては現実的ではない。例えば、帯広―札幌間は石勝線経由では220.2kmだが、釧網本線で釧路・網走を迂回するとその距離は671.9kmとなりおよそ3倍に伸びる。これが、廃止された新得―富良野経由であれば帯広―札幌間は263.6kmとなり、距離は1.2倍程度で済む。
今後、また同様の事態が起これば、北海道の都市間輸送が壊滅するだけではなく、北海道で生産される農産物の本州方面への出荷にも影響を及ぼしかねない。日本の農地面積の26%を占め、カロリーベースで全国に20%の食料を供給する北海道の物流が止まれば、日本の食料安全保障を揺るがしかねない。こうしたことからも、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に備えて被害を最小限にとどめておくためのBCP(事業継続計画)や、国家のリスク分散の観点からも鉄道の迂回ルートの整備は必要な備えである。
(了)